出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1521 伊藤整『雪明りの路』、百田宗治、椎の木社

これも『近代出版史探索Ⅵ』1008の百田宗治と椎の木社にリンクしているので、ここで書いておこう。伊藤整の最初の著書は詩集『雪明りの路』である。同書を収録の『伊藤整全集』(第一巻、新潮社)を確認してみると、日本近代文学館版複刻に先駆け、昭和二十七…

古本夜話1520 河出書房『白秋詩歌集』

続けて『萩原朔太郎全集』『佐藤惣之助全集』にふれたが、同じように戦時下において、河出書房から『白秋詩歌集』も出版されている。その白秋も完結を待たず、昭和十七年に亡くなっている。昭和十六年八月初版、十八年三版三千部発行と奥付にある『白秋詩歌…

古本夜話1519 千家元麿『冬晴れ』と新しき村出版部「人類の本」

前回の佐藤惣之助や『近代出版史探索Ⅵ』1031の百田宗治たちとともに、中央公論社版『日本の詩歌』13 に収録されているのは千家元麿で、彼はやはり同巻の福士幸次郎や佐藤と大正元年に同人誌『テラコッタ』を創刊している。 その千家の詩集ではないけれど、短…

古本夜話1518 桜井書店『佐藤惣之助全集』

前回の萩原朔太郎と同じく、昭和十七年五月に続いて亡くなり、翌年にやはり全集が刊行された詩人がいる。それは佐藤惣之助で、彼は朔太郎と同様に『近代出版史探索Ⅵ』1052の詩話会に属し、朔太郎とともに『日本詩人』の編集に関わっただけでなく、朔太郎の妹…

古本夜話1517 小学館版『萩原朔太郎全集』と版画社『定本青猫』

萩原朔太郎は昭和十七年に亡くなり、その翌年から十九年にかけて、小学館から『萩原朔太郎全集』十二巻が刊行されている。 (第三巻『詩の原理』) この出版に関して、『小学館五十年史年表』(小学館社史調査委員会編輯・発行、昭和五十年)はその第三巻『…

古本夜話1516 萩原朔太郎個人雑誌『生理』と椎の木社

続けて室生犀星にふれてきたが、萩原朔太郎のことに戻る。朔太郎は昭和八年に個人雑誌『生理』を創刊し、詩、アフォリズム、エッセイ、評論を寄せ、『郷愁の詩人の与謝蕪村』の連載は蕪村の再評価を促すものだった。これは『近代出版史探索Ⅱ』370でも言及し…

古本夜話1515 改造社『小酒井不木全集』

前々回の江戸川乱歩「押絵と旅する男」を掲載した『新青年』昭和四年六月増大号は、奇しくも小酒井不木追悼号というべき出だろう。口絵写真には四月三日の葬儀場面、及びそのデスマスクなども収められているし、「小酒井不木氏を偲ぶ」は恩師の永井潜東大教…

古本夜話1514 凌雲閣、『緋牡丹博徒お竜参上』、『めがねと旅する美術』

浅草の凌雲閣=「十二階」といえば、必ず思い出されるのは加藤泰監督、藤純子、菅原文太共演『緋牡丹博徒お竜参上』である。この映画は昭和四十五年の「緋牡丹博徒」シリーズの第六作に当たり、同監督の第三作『花札勝負』と並んで名作の誉れが高く、私もリ…

古本夜話1513 江戸川乱歩「押絵と旅する男」

前回の『十二階崩壊』に見られる今東光の「十二階」への否定的見解とは対照的な思いを描いていた同時代人もいたにちがいない。その一人は江戸川乱歩であり、「十二階」を舞台装置として昭和四年(『新青年』六月号)に「押絵と旅する男」を発表している。 米…

古本夜話1512 今東光『十二階崩壊』と谷崎潤一郎『痴人の愛』

浅草の十二階といえば、ただちに今東光の『十二階崩壊』(中央公論社、昭和五十三年)が思い出される。それはその表紙に明治二十八年の浅草の百花堂発刊の彩色図絵「東京名所凌雲閣」を用いていたからだ。ただ残念なことに、『海』に連載中に今が急逝したこ…

古本夜話1511 石川啄木『一握の砂』と『ローマ字日記』

室生犀星の『蒼白き巣窟』を読みながら連想されたのは、石川啄木の桑原武夫編訳『ローマ字日記』(岩波文庫)であった。 これは磯田光一の『萩原朔太郎』(講談社)において、あらためて教えられたのだが、朔太郎と啄木がともに明治十九年生まれであり、朔太…

古本夜話1510 室生犀星『蒼白き巣窟』の削除と復元

室生犀星は『性に目覚める頃』に続いて、大正九年にやはり新潮社から『結婚者の手記』『蒼白き巣窟』と三冊の小説を上梓している。これらの二冊は未見だが、昭和十一年に『近代出版史探索Ⅲ』436の非凡閣から『室生犀星全集』が刊行され、その第七巻がそれら…

古本夜話1509 室生犀星『性に目覚める頃』と北原白秋『邪宗門』

室生犀星の『性に目覚める頃』所収の「抒情詩時代」と「性に目覚める頃」には明治末期の金沢の貸本屋や書店事情が描かれ、言及されているので、それらもトレースしてみよう。 犀星は十五歳のころから俳句を作り、また小品を書き、博文館の『少年世界』を読む…

古本夜話1508 滝田樗陰と室生犀星「幼年時代」

これまでに萩原朔太郎が大正十二年の『青猫』に続いて、同じ新潮社から『蝶を夢む』や『抒情小曲集』、また室生犀星のほうは十一年に『田舎の花』を刊行していることを既述しておいた。しかし犀星は朔太郎と異なり、それまでに大正九年の『性に目覚める頃』…

古本夜話1507 室生犀星『愛の詩集』と感情詩社

前々回の新潮社の「現代詩人叢書」に室生犀星の『田舎の花』が含まれていることを示したばかりだが、これも犀星が萩原朔太郎と同じ詩話会で『日本詩人』の編集に携わっていたこととリンクしていよう。 しかし犀星の処女詩集『愛の詩集』は朔太郎の『月に吠え…

古本夜話1506 宝文館と山宮允『英米新詩選』

以前から山宮允を取り上げなければならないと思っていたのだが、彼の主たる著作や翻訳を入手するに至らず、言及してこなかった。それらを古本屋で見出せなかったのもひとつの要因ではあるのだが。 それでも前回、山宮と川路柳虹が詩話会の提唱者で、大正時代…

古本夜話1505 萩原朔太郎『青猫』と新潮社「現代詩人叢書」

萩原朔太郎も昭和三年に第一書房から新菊判、総革金泥装の『萩原朔太郎詩集』を刊行している。これは前々回にふれた大正末の『上田敏詩集』や堀口大学訳『月下の一群』などの第一書房ならではの特装本で、萩原の『月に吠える』に始まる詩集の集成だった。そ…

出版状況クロニクル 休載のお知らせ

「出版状況クロニクル」は著者病気療養のため、休載します。「古本夜話」は書きためた原稿があるので、継続してアップします。なお『出版状況クロニクルⅦ』は3月31日に発売されました。

古本夜話1504 竹内てるよ『美しき朝』、神谷暢、渓文社『近代学校』

前回を書いた後、またしても浜松の時代舎で竹内てるよのエッセイや日記も併録した詩集『美しき朝』を見つけたのである。B6判並製ながら、小倉遊亀による装幀は竹内も謝辞をしたためているように、鮮やかな紅椿が描かれ、戦時下の一冊とは思われない。版元は…

古本夜話1503 藤澤省吾『詩集我れ汝の足を洗はずば』と竹内てるよ『海のオルゴール』

かつて浜松の時代舎で見つけた無名の詩集に関して一文を草したことがあった。それは「廣太萬壽夫の詩集『異邦児』をめぐって」(『古本探究Ⅱ』所収で、この詩集が鳥羽茂のボン書店の前身である鳥羽印刷所で刷られ、花畑社から昭和四年に刊行されたこと、花畑…

古本夜話1502 土田杏村、アルス、『日本児童文庫』

『土田杏村全集』第十五巻所収の四十四年という短い「土田杏村年譜」をたどってみると、昭和二年に入って、『日本児童文庫』に関する言及を見出せる。それを順に追ってみる。 (『日本児童文庫』) 二月/アルス『児童文庫』の案を立てる。 三月/この頃『児…

古本夜話1501 『亀井勝一郎全集』と『土田杏村全集』

戦前に全集が出されていても、もはや忘れ去られてしまった文学者や思想家は数え切れないほどだし、それは戦後も同様である。二十年ほど前に、ブックオフで『亀井勝一郎全集』(講談社、全二十一巻、昭和四十六年)を見つけ、一冊百円だったので、気まぐれに…

古本夜話1500 第一書房と『古事類苑』の挫折

ずっと見てきたように、第一書房はモダニズム出版に携わってきたが、その一方で古典籍の出版にも執着を示していた。『近代出版史探索Ⅵ』1107で、『古事類苑』の流通と販売にふれておいた。それを簡略にトレースすれば、『古事類苑』出版企画は明治十二年に文…

古本夜話1499 第一書房『パンテオン』の直接販売

前回、城左門の詩集を取り上げたばかりだが、浜松の時代舎で『PAMTHÈON (汎天苑)』Ⅳを見つけた。以下『パンテオン』と表記する。B4判をひと回り小さくした判型で、表紙にはフランス語表記でタイトルと発行年月日が記されている 。確か城もこの詩誌の同人だ…

古本夜話1498 ウスヰ書房、城左門『終の栖』、臼井喜之助『京都味覚散歩』

本探索1495で、湯川弘文社の「新詩叢書」に城左門の『秋風秘抄』が収録されていることを挙げておいた。 私などの戦後世代にとって、詩人の城左門は馴染が薄く、「若さま侍捕物帖」シリーズの作者としての城昌幸のほうに親しんできた。それは昭和三十年代の東…

古本夜話1497 中央公論社と豪華本児童書

昭和戦前における児童書の大判化に気づかされたのは、ほるぷ出版による「名著複刻日本児童文学館」第一集、二集(昭和四十九年)を通じてであった。この復刻がなければ、それらの児童書に古本屋で出会うことはほとんどなかったであろうし、実物とたがわぬ一…

古本夜話1496 湯川松次郎と『新撰童話坪田譲治集』

前回の「新詩叢書」の版元が大阪の湯川弘文社であることにふれておいたが、どうしてこのような詩のシリーズを刊行するに至ったのかは詳らかでない。もっともそれは湯川弘文社に限らず、東京に支店を設けた大阪の多くの出版社に共通していることであるし、そ…

古本夜話1495 竹中郁『龍骨』と湯川弘文社「新詩叢書」

前回、『詩と詩論』同人の竹中郁が実際にパリのシェイクスピア・アンド・カンパニイ書店を訪れていたことを既述しておいた。それは昭和三年から四年にかけて、洋画家の小磯良平と渡欧し、パリに滞在し、ジャン・コクトーとも会っていた頃だと思われる。 その…

古本夜話1494 北園克衛と『薔薇・魔術・学説』

第一書房における大正十四年の堀口内大学『月下の一群』の刊行、及び厚生閣の春山行夫による昭和三年の『詩と詩論』創刊は、日本の近代詩に多大な影響を及ぼし、多くの詩のリトルマガジンやエスプリ・ヌーヴォーに基づく詩を誕生させていった。 それは拙稿「…

出版状況クロニクル190(2024年2月1日~2月29日)

24年1月の書籍雑誌推定販売金額は731億円で、前年比5.8%減。 書籍は457億円で、同3.5%減。 雑誌は273億円で、同9.5%減。 雑誌の内訳は月刊誌が219億円で、同10.6%減、週刊誌は54億円で、同4.7%減。 返品率は書籍が33.8%、雑誌が47.8%で、月刊誌は48.4%、週刊…