出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

赤本 の検索結果:

古本夜話1496 湯川松次郎と『新撰童話坪田譲治集』

…売屋、小間屋、そして赤本出版から雑誌・教科書・文学書、自然科学・人文科学・小説・参考書と数千種に亙る何千万冊になるかも知れぬ書籍を社会へ送り出し、物心ついて書籍屋一筋に本と共に生き本を出版することを唯一の楽しみに六十余年の年月を多忙の中に過ごして来た(後略)。 この述懐をイントロダクションとして、湯川は「上方の出版文化史」を語り、ここでしかお目にかかれない大阪書籍業界人物物語」と「出版業者の面影」を描いていく。だがそこでは自らの湯川弘文社と出版に関しては言及されておらず、コン…

古本夜話1414 嵩山房といろは屋貸本店

…川文庫も含めて大阪の赤本や講談本も貸本屋ルートで多くが読まれていた事実を足立は指摘し、明治半ばには近世の行商的本屋と異なる新しい居付きの貸本屋が誕生したと述べ、続けている。 そののち出版文化が上昇すると、新しい形の貸本屋があらわれるようになる。江戸以来の出版老舗嵩山房の長男小林新造は明治十八年、いろは屋貸本店を創業し、同じころ衆議院議員綾井武夫は共益貸本屋を始め、弘文館・東京貸本社・貸本店吉田や・石垣貸本店などが相次いで誕生した。ことに、いろは屋は保証金や地方郵便貸出しに新工…

古本夜話1411 添田知道『教育者』

…悉くこれ際物。際物は赤本屋の仕事として従来出版界でも軽蔑されてゐたことではなかつたか。嗚呼々々、赤本日本。かたちに於ていふのではない。心に於てかう謂はざるを得ないではないか。昨日の便乗迎合が、今日の便乗迎合に変つただけのことである。一体全体、あのすれすれの命の瀬戸を、どう感じ、どう生きて来たのであらうか。人間はどこにゐるのか。民主主義だ、自由だ、進歩だ。するりと看板をかけかへてゐる。むしろ保守党を名乗つて出るもののないことに、政治学者の嘘を指摘した人があつたが、いつそのことに…

出版状況クロニクル180(2023年4月1日~4月30日)

…る出版物の位置付けは赤本扱いに近く、三越における常備化は異例のことで、中村書店にしても感激すべきものだったと思われる。 そうした百貨店内書籍部の系譜を継承し、リブロも書店の聖地としてあったことなろう。 永江はそのリブロの物語として、田口久美子『書店風雲録』を示しているだけで、今泉正光『今泉棚とリブロの時代』、中村文孝『リブロが本屋であったころ』を挙げていない。その理由もわかるが、そのようにしてリブロ史も実像が歪んでしまうのだ。 またこの特集で鹿島茂がゾラの『ボヌール・デ・ダム…

古本夜話1340 石井敏夫コレクション『絵はがきが語る関東大震災』と写真ジャーナリズムの勃興

…、全国各地の古本屋、赤本屋、露店などにも広範に拡がっていったのであろう。『絵はがきが語る関東大震災』第一部Ⅲの「累々たる屍―下町の惨劇」に収録されたものは死体のオンパレードともいうべき写真の集積であり、「本所被服廠の惨状」などは二万から四万人の死を伝えている。また「吉原遊郭付近の死体」の数種類に及ぶ同じ大量死を写真に収めている。おそらく発禁処分後はポルノグラフィと同じようにして売られていたはずで、いかがわしい店で売られていたとの証言はそれを肯っていよう。それは現在に引きつけて…

古本夜話1339 紀田順一郎『日本語発掘図鑑』と「日本未曽有関東大震災実況絵葉書」

…に象徴されるように、赤本業界によって一気に大量生産された。そのために赤本屋ルートや高町、露店で全国的に流通販売され、それらがソルドアウトとなるには十年ほどの年月を要したのではないだろうか。それこそ関東大震災を経て出された『近代出版史探索Ⅵ』1130の石井研堂『増訂明治事物起原』の「私製絵葉書の始」によれば、絵葉書が最も流行したのは明治三十七年の日露戦争時で、「好事者の間に絵葉書熱沸騰したりしが、戦局の終局と共にやゝすたれ」とある。その事実からして、関東大震災はその再来として、…

古本夜話1281 円本としての「囲碁大衆講座」

…ず、金儲けのために「赤本」の出版に挑む。当時は実用書のことを「赤本」と呼んでいたのである。ところが金星堂からまさに競合類書の「将棋大衆講座」全十二巻も刊行され、円本時代特有の広告合戦となってしまった。そして広津の大森書房のほうは売れ行き不振と相次ぐ返品によって追い詰められ、紙型は誠文堂に売られ、それは『将棋大全集』として譲受出版されるに至る。『名人八段将棋全集』の校正に携わった保高徳蔵は広津に、出版における「ドン・キホーテ的風貌」を覚えてしまうのだった。 (『名人八段将棋全集…

古本夜話1250 吉田一穂『海の人形』と金井信生堂

…いるように、金星堂は赤本と取次を兼ねる上方屋から始まり、文芸書出版へと展開していったこと、それらの赤本と取次が児童書や「立川文庫」を中心としていたことは『海の人形』の出版と無縁でないように思われる。 なぜならば、一穂は昭和十五年から十九年にかけて、金井信生堂において編集長を務め、童話集『ぎんがのさかな』(昭和十五年)を刊行し、他にも絵本童話『ヒバリハソラニ』(帝国教育会出版部、同十五年)、童話集『かしの木と小鳥』(同十九年、フタバ書院)も出版し、それらは金星堂と『海の人形』の…

古本夜話1239 松山敏、愛文閣『レ・ミゼラブル』、巧人社「世界詩人叢書」

…金星堂の前身で浅草の赤本、歌本、譜本、及び大阪、京都の出版物「阪本」の取次を主としていた。その事実からすれば、発行所といっても愛文閣の書店兼取次を担っていたのである。『金星堂の百年』は次のように述べている。 上方屋卸部の商圏は東京を中心としながらも静岡、茨城、栃木、群馬、山梨と関東一円に広がっていた。当時の卸は、競争相手がそれほどおらず、商圏が広がったとはいいながら主力の小売店は神田を中心にした東京に集まっていたので、品物のさばき具合は順調だった。小売店側も上方屋との取引がな…

古本夜話1213 榎本秋村訳『沐浴』と『新ニノンへのコント』

…ば、そのことも含め、赤本、特価本、造り本業界に多く言及している『近代出版史探索Ⅱ』を参照してほしい。 それにここでの問題は、どうして『歓楽の哲婦』の訳者がゾラの『沐浴』の榎本とされているのかにあるからだ。『白熱の愛』の秋野村夫にしても、榎本の変名であろう。それは天佑社の譲受出版が全体に及び、タイトルも訳者も装丁も勝手に変えてかまわないとする海賊出版に近いものになってしまったからではないだろうか。 これは『沐浴』の巻末広告で知ったのだが、ボッカッチオ原著、大澤貞蔵訳『十日物語(…

古本夜話1208 三水社と西牧保雄訳『女優ナナ』

…典もの」だけでなく、赤本、特価本業界の講談や漫画、歌本や付録ものにしても同様で、戦後になって「大出版社までが中小出版の企画類似ものを発行しはじめた」のである。特価本業界は『近代出版史探索』28でいうところのいかがわしい「ヒツジモノ」や譲受出版の王国のように見られていたけれども、それなにの代価を払ってのものだった。しかし特価本業界の中小出版社から譲受にも似た大出版社の企画の類似出版に対して、その代価は支払われることがなかった。このような出版事情は五十歳以下の人々にとって、もはや…

古本夜話1180 関口鎮雄訳『芽の出る頃』と堺利彦訳『ジェルミナール』

…と関東大震災を経て、赤本や特価本業界の譲受出版が始まっていくわけだが、それらの全貌を把握することは困難である。それは成光館にしても、『近代出版史探索Ⅱ』227などの三星社、三陽堂、東光社にしても、全出版目録も社史も出されていないし、たまたま見つけた一冊ずつを確認していくしか探索方法がないように思われる。しかし赤本や特価本業界の譲受出版は近代出版史だけでなく、読者、読書史にとっても重要なテーマだと考えられるので、これからも探索を続けていくつもりだ。 とりわけ成光館版『芽の出る頃…

古本夜話1154 村上静人、赤城正蔵、「アカギ叢書」

…とする多くの造り本や赤本出版社があった。村上は「アカギ叢書」に表象される企画とリライト、語学力、編集と抄訳の才を買われ、特価本業界にスカウトされ、『世界文豪名作選集』などの編輯と出版に携わっていたのではないだろうか。だが売れない詩人、作家、翻訳者にとって、特価本業界はアジールだったが、一方で所謂ゲットーでもあり、それゆえにその後の村上の行方が明らかになっていないようにも思われる。 なおその後、14のトルストイ『復活』を入手するに至っている。実物を手にし、あまりに小さくて薄く、…

古本夜話1143 金星堂と上方屋『ヴアヰオリン独習』

…草的な歌本、譜本=「赤本」の出版も学んでいたので、そうした利益率の高い出版も忘れず、それらは上方屋出版として手がけていた。門野は『金星堂のころ』で、次のように述べている。 主人の福岡は、浅草畑から出て行った人なので、ありとあらゆる方面に顔が利き、出版物の市会でもうまく立ち回っていた。 文芸書の出版が表看板であったが、やはり儲け仕事のような出版も捨てていなかった。一例をあげると、以前から手掛けていたハーモニカの譜本のような楽譜の出版である。 『近代出版史探索Ⅱ』266で、春秋社…

古本夜話1082『東京書籍商組合員図書総目録』

…史探索Ⅱ』で見てきた赤本、特価本、造り本業界も含めれば、倍以上の点数に至るであろう。そうはいっても戦後になってようやく『日本書籍総目録』が編まれたのは昭和五十二年だから、この戦前の『図書総目録』の試みの重要性は特筆すべきだと思われる。 また忘れてはならないのは近代出版流通システムの誕生と成長は、博文館に象徴されるように、何よりも雑誌を背景としたもので、書籍はそれに相乗するかたちで歩んできたといっていい。その意味において、この『図書総目録』の編輯兼発行者が『近代出版史探索Ⅴ』8…

古本夜話1071 東京出版同志会と『類聚近世風俗志』

…の岡村書店、大川屋は赤本業界の雄である。弘集堂は明治二十三年創業で、現在でも横浜の伊勢佐木町で書店を営んでいる。公文書院、藍外堂、求光閣は不明だが、東京出版同志会は専門書や文芸書から赤本までを含んだ版元によって成立していたことがわかる。 それゆえにこれらの版元は取次や書店も兼ねていたことから、流通販売の多様性がうかがわれる。つまり書店や古本屋で販売される一方で、特価本として縁日の露店や夜店などでも売られていたと推測される。しかし当時の出版業界において、『全国出版物卸商業協同組…

古本夜話1070 幸田成友と『守貞謾稿』

…第十八編の「妓扮」=遊女、第十九、二十編の「娼家」で、これらはとりわけ大きな挿絵も多く、『守貞謾稿』は「近世性風俗史」として受容されていったように思われる。 それによって『類聚近世風俗志』も幸田の思いだけでなく、その内実とかけはなれ、赤本的イメージが付着してしまった。そのために幸田による「外題替」のような、編輯に対する誤解も生じてしまったのではないだろうか。それを確認するためには東京出版同志会版を入手しなければならない。 [関連リンク] ◆過去の[古本夜話]の記事一覧はこちら

古本夜話1024 『詩神』と『現代詩選集』

…に見られるように、「民衆詩派」の詩人たちが積極的に歌謡曲や軍歌の世界にも進出していくことを告げていたのではないだろうか。 そしてその回路はいまだ明確な見取図を描けないでいるが、実用書、赤本、児童書出版の世界と深く結びついていたはずである。これらの問題も本連載で後にふれることになろう。 『現代詩選集』に合本化された『詩神』の多様にして多彩な詩人たちの寄稿はそれぞれ興味深いが、これらへの言及はまたの機会にゆずることにしよう。 [関連リンク] ◆過去の[古本夜話]の記事一覧はこちら

古本夜話1005 金星堂児童部、武井武雄、島田元麿、東草水訳『青い鳥』

…堂はその出自を関西の赤本屋とするもので、大正七年に書店と取次も兼ねる上方屋として始まっている。 (『金星堂の百年』) その拙稿に目を通していたら、自分で書いて失念していたのだが、上方屋は「古い紙型を買って『歳時記』からダイジェスト翻訳の『名作叢書』を出した」とあった。そこで『明治・大正・昭和翻訳文学目録』のメーテルリンクを引いてみると、大正十二年に上方屋から東草水訳『青い鳥』が出されているのを見出したのである。もちろんそこには金星堂版が挙げられていた。 したがって以下のように…

古本夜話640『綜合ヂャーナリズム講座』4

…」 4 神田豊平 「赤本・浅草本漫話」 1 の「演劇雑誌の編輯に就いて」において、久保栄はソヴエトとドイツと日本演劇雑誌の分類、及びそこに表出している傾向の分析から始めている。そしてソヴエトやドイツと比べて、戯曲専門雑誌の弱さが訴えられている。そこにうかがわれるのは、前回の猪野省三がいうところの「プロレタリア出版」ならぬ「プロレタリア演劇」のための、「闘争の武器として」の専門雑誌の発刊への要望である。それは「演劇運動のボルシエヴイキ化」という言葉にも示されていよう。そのよって…

古本夜話638『綜合ヂャーナリズム講座』2

…新刊屋」といふ)に成り上ることを理想とし、新刊屋は通信屋を目するに塵溜めか泥棒のやうに心得てゐる。 ここに所謂赤本業界、「田舎者だまし」本の世界が広く語られていることなり、本連載でもしばしばふれてきた誠文堂と小川菊松もその系列に属することになり、それが出版社の厳然とした階級構造を形成するファクターとなっていたのであろう。だが本連載の目的のひとつは、このような赤本業界が果たしてきた役割を探索することであると付記しておこう。 [関連リンク] ◆過去の[古本夜話]の記事一覧はこちら

古本夜話555 宮島新三郎『改訂大正文学十四講』

…病書」などを手がける赤本版元であり、おそらく紙型を購入した上での刊行と見なしていい。ただ最初の刊行からすでに十数年が経ち、著者が死亡しているにもかかわらず、いってみれば、再々版が出されたのは類書がなかったことに求められるかもしれない。 そのことに気づいたのは『大正文学篇』(「日本文学講座」13、改造社、昭和九年)の巻頭に収録された千葉亀雄の「大正文学概説」の主旨が宮島の『改訂大正文学十四講』の第一講「社会動揺期の文学」と似通っているし、千葉はそれを参照して書いたのではないか、…

古本夜話519 後藤朝太郎『文字の史的研究』

…田舎の寺子屋と路傍の赤本黄表紙事情、文人墨客と古典文学などが語られていく。その筆致は日本史に関して、たなごころをさすように論じた樋口清之を彷彿とさせるところがあり、後藤が「現代支那通の随一」であることを納得させてくれる。それらをイントロダクションとして、「文字の社会的生命」や「支那文字の発達と埃及文字」や「支那文字の歴史的変遷」へと続いていくわけであるが、私が最も関心をそそられたのは安南文字への言及であった。後藤は上海のフランス租界にいる多くの安南人のことにふれ、安南はフラン…

古本夜話507 木村鷹太郎と『バイロン傑作集』

…シャの風景を見ていたのであろうか。なおこれは蛇足かもしれないが、最後に付け加えておくと、新しい内外出版協会は先の本連載222でふれておいたように、赤本や特価本のイメージが強いが、『バイロン傑作集』に関しては奥付に木村鷹太郎の押印があるので、これは本来であれば、印税が払われたことを意味している。だが岩野喜久代が木村の家賃を二年も払っていないとの言を書き留めていることから考えると、実際には印税が払われなかったのかもしれない。 [関連リンク] ◆過去の[古本夜話]の記事一覧はこちら

古本夜話497 講談社と『少年倶楽部』

…ルマガジン、同人誌、赤本業界のヒツジモノなどを揺籃の地としていた様々な新しい物語やコミックやポルノグラフィックなファクターが次々と講談社に回収され、それがマスとして成長していく歴史の繰り返しだったとわかる。だから戦前ばかりか戦後に至っても、出版業界のダブルスタンダードは絶えず存在し、大手出版社の下には様々な川が流れ、それをさらうことによって企画が成立し、大きな利益に結びついていたことになる。しかしその川が現在はすべて涸れてしまい、すくうものはもはやなくなってしまった。それが行…

古本夜話496 堤糸風と『講談全集』

…れまでに大川屋などの赤本屋が出版した講談本を全国の古本屋を渉猟して収集し、リライトされて成立したこと、トータルで三百万部売り、『講談倶楽部』と『講談全集』によって、文字通り講談社が講談本に関する勝利を収めたと書いている。そしてこれらがベースになって、時代小説の前身ともいえる「新講談」へと転換していったのである。その意味において、この『講談全集』は明治大正の講談の集大成であったと思われる。私も数冊持っているが、大日本雄弁会講談社刊の箱入り本は千二百ページに及び、円本としてもひと…

古本夜話400 今西吉雄『今昔流行唄物語』と『少女の友』

…いたし、特価本業界=赤本業界の主たる商品でもあった。それらを付録にして成功した雑誌が戦後の『平凡』や『明星』だったのである。明治から昭和にかけての流行歌や歌謡曲の歴史に関しては古茂田信男、島田芳文、矢沢寛、横沢千秋共著の『日本流行歌史』(社会思想社、昭和四十五年)という大著がある。これは著者たちが作詞家なので、六百ページ弱の半分ほどが、「歌詞編」で占められ、また多くの参考資料に基づく「歴史編」もスタンダードな通史として教えられることが多い。だがこれは当然ではあるけれど、流行歌…

古本夜話367 第一書房と宍戸左行『スピード太郎』

…主として特価本業界=赤本業界によって担われていた戦前の漫画の生産、流通、販売事情に言及しておいたが、当時の近代出版流通システム内にあって、このような漫画の豪華本が初版五千部を確保できたということは信じられないような気がする。何か別に販売ルートでもあったのではないだろうか。例えば、連載した読売新聞社が何らかの景品か賞品、もしくは拡販商品としてかなりの部数を買い上げるという条件付の、第一書房による出版だったのではないだろうか。そのように考えてみると、漫画に理解があったと思えない長…

古本夜話357 太田三郎『瓜哇の古代芸術』

…文陽堂は浅草で取次と赤本の出版に携わっていた。先に二回にわたってふれた金星堂の福岡益雄はここの出身で、太田が金星堂からも著書を出していることも既述したばかりである。次に『瓜哇の古代芸術』の版元崇文堂に移ると、奥付には神田区神保町の崇文堂とあり、発行者は斎藤熊三郎となっているが、これは本連載281でふれた大阪の崇文館の後身とも考えられる。昭和十六年から始まる出版新体制は出版社にも大きな影響を与えざるを得なかったので、崇文館も東京に移り、経営者も変わり、社名も改めたと見なすことも…

古本夜話354 飯田豊二と金星堂「社会科学叢書」

…陽堂は関西系の取次と赤本の出版を兼ねていた。同じ頃やはり同じ系列の大阪の石塚松雲堂が東京店を出していたが、経営がおもわしくなく、二百円で売りに出されたので、大正七年に福岡はそれを買い、上方屋として独立した。「赤本」をもじって「阪本」と呼ばれる大阪や京都の出版物が八割、東京物は二割で、出版も行なっていたが、浅草的歌本や譜本などの赤本や実用書の造り本、本連載220で取り上げた東亜堂、それこそアルスの前身の阿蘭陀書房の譲受出版であった。それから福岡は博文館編集部にいた大木惇夫や前田…