出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話946 松平斉光『祭ー 本質と諸相』とアウエハント『鯰絵』

『民族』に関係していた松本信広たちよりも少し遅れてパリに遊学した研究者がいる。それは松平斉光だった。 彼は明治三十年生まれで、大正十年東京帝大法学部卒業後、西洋思想史を講義するかたわらで、日本政治思想を探究する試みを続けていた。しかし北畠親…

古本夜話945 宇野円空『宗教民族学』と岡書院「人類学叢書」

マルセル・モースのもう一人の弟子は宇野円空である。彼も『文化人類学事典』に立項されているので、まずそれを引いてみる。 うのえんくう 宇野円空 1885-1949 宗教民族学者。京都の西本願寺派の尊徳寺で生まれる。1910年に東京帝国大学文科大学哲学科を卒…

古本夜話944 バーバラ・ドレーク、赤松克麿、赤松明子共訳『英国婦人労働運動史』春山行夫

前回の赤松智城が、社会運動家の赤松克麿の兄であることにふれておいた。たまたま昭和二年に厚生閣から出された赤松克麿、赤松明子共訳のバーバラ・ドレーク 『英国婦人労働運動史』を入手しているので、ここで一編を挿入しておきたい。 著者のバーバラ・ド…

古本夜話943 赤松智城『輓近宗教学説の研究』

『民族』の寄稿者にはもう一人の赤松がいて、それは「古代文化民族に於けるマナの観念に就て」(第一巻第三号~第六号)を連載している赤松智城である。彼は前回の赤松秀景と異なり、『文化人類学事典』(弘文堂)に立項が見出されるので、それをまず引いて…

古本夜話942 赤松秀景と高等研究実習院

マルセル・モースが弟子の一人として挙げていた「赤松」とは、昭和二年頃にモースの『呪術の一般理論』を翻訳した赤松秀景だと考えられる。これは岡書院の「原始文化叢書」全七巻のうちの一冊だが、それだけでなく、全冊が未見で、いずれも稀覯本と化してい…

古本夜話941 松本信広「巴里より」と『日本神話の研究』

『民族』における「巴里(松本信広君)より『民族』同人へ」は第一巻第一号だけでなく、同第二号へと続き、第二巻第一号からは「巴里より」として、同第三号、第三巻第一号まで三回分が掲載されている。以下「巴里より」と統一する。それは大正十四年から昭…

出版状況クロニクル136(2019年8月1日~8月31日)

19年7月の書籍雑誌推定販売金額は956億円で、前年比4.0%増。 書籍は481億円で、同9.6%増。 雑誌は475億円で、同1.2%減。その内訳は月刊誌が384億円で、同0.1%減、週刊誌は91億円で、同5.4%減。 返品率は書籍が39.9%、雑誌は43.0%で、月刊誌は43.4%、週刊誌は…

古本夜話940 桑原隲蔵『考史遊記』

前回の石田幹之助『増訂 長安の春』に関して、もう一編ふれるつもりでいたが、紙幅が尽きてしまったので、今回のイントロダクションとしたい。 それは「隋唐時代に於けるイラン文化の支那流入」で、これも隋唐における支那とイラン文化の関係に言及して興味…

古本夜話939 石田幹之助『増訂 長安の春』

同じく『民族』編集委員であった石田幹之助は、岩崎久弥が購入した東洋学文献を主とするモリソン文庫を委託され、そのための財団法人東洋文庫の運営に長きにわたって携わっていた。 その石田は昭和十六年に創元社から『長安の春』 を上梓しているが、昭和四…

古本夜話938 ラッツェル『アジア民族誌』

やはり『民族』編集委員の奥平武彦に関連する一編を挿入しておく。 佐野眞一は『旅する巨人』において、澁澤敬三が戦前の日銀時代に、マルクス経済学者の向坂逸郎や大内兵衛に対し、ひそかに経済的支援をするために、日銀の仕事をさせていたことにふれ、その…

古本夜話937 有賀喜左衛門『家』と名子制度

有賀喜左衛門も『民族』の編集委員の一人であり、昭和九年の日本民族学会の設立発起人も務めていた、その翌年に日本民族学会事務局は澁澤敬三邸内のアチック・ミューゼアムに移された。彼は明治三十年長野県生まれ、二高で渋澤と同期、岡正雄は二年後輩で、…

古本夜話936 岡正雄とバーン『民俗学概論』

前回、兄の岡茂雄を取り上げたこともあり、続けて弟の岡正雄にもふれておくべきだろう。 岡正雄は『民族』の編集に携わりながら、「異人その他」(第三巻第六号)を寄稿している。これは「古代経済誌研究序説草案の控へ」というサブタイトルを付した四十ペー…

古本夜話935 岡茂雄、『民族』、渋沢敬三

『民族』は柳田国男と民族学を志向していた岡正雄の出会いをきっかけとして、大正十四年十一月に創刊され、昭和四年四月に休刊となった。休刊に至る経緯は 『柳田国男伝』の「雑誌『民族』とその時代」に詳しいが、創刊のきっかけとなった岡と柳田の不協和音…

古本夜話934 モースの弟子たちと『民族』

もう一編モースに関して続けてみる。山田吉彦は『太平洋民族の原始経済』の「後書」において、講義後のモースとの交流について、次のように書いている。 火曜日には私はモース教授と同じ通りに住んでゐたので一緒に帰るように誘はれた。電車賃は何時もモース…

古本夜話933 シルヴァン・レヴィ『仏教人文主義』とマルセル・モース

本連載929のデュルケム『社会学的方法の規準』の「訳者前がき」において、昭和二年に田辺寿利が関係しているフランス学会と東京社会学研究会の共催で、デュルケム十周年祭が開かれ、そこで当時東京日仏会館フランス学長のシルワ゛ン・レヰ゛、宇野円空、…

古本夜話932 内田老鶴圃、『チ氏宗教学原論』、内田魯庵訳『罪と罰』

前々回の『自殺論』の訳者として、東北帝大で社会学講座を担当していた鈴木宗忠の名前を挙げておいたが、それに先立つ大正五年に、『チ氏宗教学原論』を早船慧雲と共述刊行している。これは内田老鶴圃からの出版で、手元にあるのは菊判上製四七〇余ページの…

古本夜話931 北村寿夫『笛吹童子』と宝文館「ラジオ少年少女名作選」

フランス社会学などの話が続いてしまったので、ここで箸休めの一編を挿入しておきたい。それは前回宝文館にふれたことに加え、浜松の典照堂で、戦後に宝文館から刊行された北村寿夫『笛吹童子』全三巻を入手したことによっている。 これは昭和二十九年に刊行…

出版状況クロニクル135(2019年7月1日~7月31日)

19年6月の書籍雑誌推定販売金額は902億円で、前年比12.3%減。 書籍は447億円で、同15.5%減。 雑誌は454億円で、同8.9%減。その内訳は月刊誌が374億円で、同8.0%減、週刊誌は80億円で、同12.9%減。 返品率は書籍が43.4%、雑誌は44.7%で、月刊誌は44.8%、週刊…

古本夜話930 デュルケム『自殺論』と宝文館

デュルケムの『自殺論』はかつて中央公論社の『デュルケーム・ジンメル』(『世界の名著』47)に抄訳が収録されているが、昭和六十年になって、同じ訳者の宮島喬によって新たに全訳が中公文庫として刊行され、宮島自身の論稿『デュルケム 自殺論』(有斐閣新…

古本夜話929 デュルケム『社会学的方法の規準』と田辺寿利

前回デュルケムの『宗教生活の原初形態』の他にも、戦前には彼の著作が翻訳されていたことを既述したが、それらは田辺寿利『社会学研究法』(刀江書院、昭和三年)、鈴木宗忠、飛沢謙一訳『自殺論』(宝文館、昭和七年)である。 前者の初版は未見だけれど、…

古本夜話928 デュルケム『宗教生活の原初形態』

本連載926のレヴィ・ブリュル『未開社会の思惟』がエミール・デュルケムの『宗教生活の原初形態』の影響下に書かれたこと、及び同922のマルセル・モースがデュルケムの甥であることはよく知られた事実であろう。 (『未開社会の思惟』) デュルケムはド…

古本夜話927 生活社「ギリシア・ラテン叢書」と田中秀央『ラテン文学史』

前回はレヴィ・ブリュルの山田吉彦訳『未開社会の思惟』を取り上げながら、そこに山田が献辞を捧げていたジョセフ・コットのほうに紙幅を多く割いてしまった。それは近代文学史や出版史において、コットが創立したアテネ・フランセが果たした役割は想像以上…

古本夜話926 レヴィ・ブリュル『未開社会の思惟』とジョセフ・コット

本連載922の山田吉彦はモースの『太平洋民族の原始経済』に先駆けて、昭和十年二小山書店からレヴィ・ブリュルの『未開社会の思惟』を翻訳刊行している。これは菊判の裸本が手元にあり、まずモースの翻訳と同様に、「A Monsieur Joseph Cotte, mon cher m…

古本夜話925 金子光晴『マレー蘭印紀行』

前回の神原泰『蘭印の石油資源』にふれながら、タイトルのこともあり、絶えず想起されたのは金子光晴の『マレー蘭印紀行』だった。ただ私が読んでいるのは中公文庫版なので確認してみると、初版は昭和十五年十月に山雅房から刊行されていて、神原の著書とほ…

古本夜話924 神原泰『蘭印の石油資源』と「朝日時局新輯」

前回のリーゼンバーグの『太平洋史』の出版の翌年の昭和十七年に、やはり朝日新聞社から神原泰の『蘭印の石油資源』という七三ページのブックレット判の一冊が出ている。「蘭印」とはその見返しの地図に示されているように、オランダ植民地の東インド、つま…

古本夜話923 リーゼンバーグ、太平洋協会訳『太平洋史』

続けてマリノウスキー『西太平洋の遠洋航海者』、マーガレット・ミード『マヌス族の生態研究』、マルセル・モース『太平洋民族の原始経済』などの太平洋民族に関する文化人類学や社会学の著作にふれてきた。また以前にも本連載584などで太平洋協会とその…

古本夜話922 マルセル・モース『太平洋民族の原始経済』と山田吉彦

マリノウスキーは『西太平洋の遠洋航海者』などで、ニューギニアのトロブリアンド諸島におけるクラ、前回その名前を挙げたブランツ・ボアズは北米インディアンに見られるポトラッチという贈与の慣習を報告している。これらを参照しながら、「フランス人類学…

古本夜話921 マーガレット・ミード『マヌス族の生態研究』

ニューギニアで文化人類学のフィールドワークを試みていたのは、本連載916などのイギリス人のマリノウスキーばかりでなく、アメリカのマーガレット・ミードたちも同様だった。ただ前者が一九一四年から一八年にかけてのトロブリアンド諸島であったことに…

出版状況クロニクル134(2019年6月1日~6月30日)

19年5月の書籍雑誌推定販売金額は755億円で、前年比10.7%減。 書籍は388億円で、同10.3%減。 雑誌は367億円で、同11.1%減。その内訳は月刊誌が291億円で、同9.5%減、週刊誌は75億円で、同16.9%減。 返品率は書籍が46.2%、雑誌は49.2%で、月刊誌は50.6%、週刊…

古本夜話920 河出書房『世界性学全集』とマリノウスキー『未開人の性生活』

本連載916で、マリノウスキーの『未開人の性生活』も新泉社から刊行されていることにふれたが、実はこれも復刊なのである。それも元版は戦前ではなく、戦後の昭和三十二年に河出書房の、『世界性学全集』第九巻として、泉靖一、蒲生正男、島澄の共訳で出…