出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話908 ヴント『民族心理より見たる政治的社会』

前回の比屋根安定によれば、タイラー『原始文化』の所説はヴントの『民族心理学』へと継承されたこともあって、比屋根は後者も誠信書房から翻訳している。ただこれは全十九巻からなる『民族心理学』を要約した『民族心理学要論』の翻訳であるようだ。 (誠信…

古本夜話907  タイラー『原始文化』

前々回、画期的な写真集である熊谷元一『会地村』に関し、柳田国男からの言及がなかったことにふれたが、それは民俗、民族学の翻訳書も同様だと思われる。 (朝日新聞社版) 本連載755の棚瀬襄治『民族宗教の研究』や同758の南江二郎『原始民俗仮面考…

古本夜話906 熊谷元一と板垣鷹穂『古典精神と造形文化』

前回の『会地村』の出版に関して、熊谷元一は写真については板垣鷹穂、編集において本連載580の星野辰男を始めとする朝日新聞社出版局の人々に謝辞をしたためている。 だがそれだけでは『会地村』の成立と出版に至詳細な事情を把握できなかったといってい…

古本夜話905 熊谷元一『会地村』

前回の福田清人の『日輪兵舎』の奥付裏の新刊・重版案内に熊谷元一『会地村』を見出し、この長野県の「一農村の写真記録」もまた、大陸開拓の時代とパラレルに刊行された事実にあらためて気づいた。 (『会地村』、朝日新聞社版) といっても戦前版の『会地…

古本夜話904 「開拓文学叢書」と福田清人『日輪兵舎』

前回の「大陸叢書」と同時代に、やはり朝日新聞社から「開拓文学叢書」が出されている。それは「大陸叢書」と異なり、和田伝『大日向村』、福田清人『日輪兵舎』、丸山義二『庄内平野』の三冊だけで終わってしまったようだ。私にしても福田の『日輪兵舎』は…

古本夜話903 朝日新聞社「大陸叢書」とヤングハズバンド『ゴビよりヒマラヤへ』

本連載893の改造社の「大陸文学叢書」とシリーズ名が重なるものも出されている。それは本連載719などの今西錦司一統も読んでいたにちがいないシリーズで、昭和十四年から十七年にかけて、朝日新聞社から刊行された「大陸叢書」であり、『朝日新聞社図…

古本夜話902 「東洋民族史叢書」と岩永博『インド民族史』

前回の『印度支那』に続き、もうひとつ、同時代に出されたアジアを対象としたシリーズがあるので、これも書いておきたい。それは本連載831などの今日の問題社から刊行の「東洋民族史叢書」で、次のような構成となっている。 1 内藤智秀 『西アジア民族史…

古本夜話901 『世界地理政治大系』と室賀信夫『印度支那』

白揚社に関しては本連載115や229でふれているが、ここから昭和十六年に『世界地理政治大系』全十五巻が刊行され、そこには続けてふれてきた『印度支那』の一巻が収録されている。 監修者は地理学者で京都帝大教授の小牧実繁である。その「監修の辞」を…

古本夜話900 日下頼尚『邦人を待つ仏印の宝庫』

前回の久生十蘭『魔都』における安南のボーキサイト発掘権に関してだが、その数年後にそれに照応するような格好の一冊が出されている。その一冊とは東亜殖産理事の日下頼尚『邦人を待つ仏印の宝庫』で、昭和十六年に発行者を楠間亀楠とする文明社から刊行さ…

出版状況クロニクル132(2019年4月1日~4月30日)

19年3月の書籍雑誌推定販売金額は1521億円で、前年比6.4%減。 書籍は955億円で、同6.0%減。 雑誌は565億円で、同7.0%減。その内訳は月刊誌が476億円で、同6.2%減、週刊誌は89億円で、同11.3%減。 返品率は書籍が26.7%、雑誌は40.7%で、月刊誌は40.7%、週刊誌…

古本夜話899 久生十蘭『魔都』

続けて澁澤龍彥『高丘親王航海記』が戦前の南方論を背景とする高丘伝説を継承していることにふれたが、その南方論に関して、どうしても取り上げておかなければならない作品がある。それは昭和九年の東京を舞台としているけれど、物語の主要な人物とコード、…

古本夜話898 情報局記者会編『大東亜戦争事典』と大本営海軍報道部『珊瑚海海戦』

これまで本連載で言及してきた大東亜共栄圏や南進論などに関する大半が立項収録されている事典があり、それは前回の高丘親王も例外ではなく、次のように見出される。 真如法親王 金枝玉葉の御身を似つて今から千百年の昔、仏道の奥義を求められて御渡印の途…

古本夜話897 澁澤龍彦『高丘親王航海記』と西原大輔『日本人のシンガポール体験』

本連載895などの周達観の『真臘風土記』を参考文献のひとつとして書かれた幻想綺譚があり、それは澁澤龍彥の遺作となった『高丘親王航海記』(文藝春秋)に他ならない。この作品は昭和六十年から六十二年にかけて『文学界』に掲載されて、同年の十月に単…

古本夜話896 ポレ、マスペロ『カムボヂァ民俗誌』

本連載894のアンリ・ムオ『タイ、カンボヂア、ラオス諸王国遍歴記』の訳者の大岩誠は、昭和十九年にもカンボジア関連書を翻訳している。それはグイ・ポレ、エヴリーヌ・マスペロ著『カムボヂァ民俗誌』で、個人訳ではなく、浅見篤との共訳である。大岩の…

古本夜話895 ピエール・ロティ『アンコール詣で』と周達観『真臘風土記』

ピエール・ロティの『アンコール詣で』は佐藤輝夫訳で、昭和十六年に白水社から刊行されている。訳者の「はしがき」には、「これが訳されて、今日南方問題の喧しい折柄、少しでも曾てのクメール文化の一端を日本の読者に知って貰うことが出来たら」との主旨…

古本夜話894 アンリ・ムオ『タイ、カンボヂア、ラオス諸王国遍歴記』と三島由紀夫『癩王のテラス』

本連載890のドラポルトの『アンコール踏査行』や同891のグロリエの『アンコオル遺蹟』に先駆けて、アンコールを訪れ、それを報告しているフランス人がいる。その人物はアンリ・ムオで、両書ばかりか、藤原貞朗の『オリエンタリストの憂鬱』でも挙げら…

古本夜話893 改造社「大陸文学叢書」とマルロオ『上海の嵐』

前回のマルロオの『人間の条件』も、それをサブタイトルに付し、『上海の嵐』として、昭和十三年に改造社から刊行されている。ただそれは「大陸文学叢書」の一冊で、その明細は次のようなものだ。 1 ホバート 須川博子訳 『揚子江』 2 蕭軍 小田嶽夫訳 『第…

古本夜話892 マルロオ『王道』、第一書房「フランス現代小説」、林俊『アンドレ・マルロオの「日本」』

前々回の藤原貞朗の『オリエンタリストの憂鬱』第五章は「アンコール考古学の発展とその舞台裏(1)」と題され、サブタイトルに「考古学史の中のマルロー事件」が付されている。その「事件の概要」の記述もあるので、それを簡略にトレースしてみる。 一九二…

古本夜話891 グロスリエ『アンコオル遺蹟』

前回、ドラポルトによるアンコール・ワットに関する描写を引いておいたが、他あらぬその写真を箱の装丁に用いた一冊がある。それはヂヨルヂユ・グロスリエの、やはり三宅一郎訳『アンコオル遺蹟』で、昭和十八年に新紀元社から刊行されている。 このグロスリ…

古本夜話890 ドラポルト『アンコール踏査行』=『カンボヂャ紀行』と藤原貞朗『オリエンタリストの憂鬱』

少しばかり飛んでしまったが、本連載704などで証言されているように、大東亜戦争下において、アンコール関連の著作や翻訳の刊行も見ていた。それにはまず三宅一郎訳によるドラポルトの『カンボヂャ紀行』(青磁社、昭和十九年)が挙げられるが、『アンコ…

出版状況クロニクル131(2019年3月1日~3月31日)

19年2月の書籍雑誌推定販売金額は1221億円で、前年比3.2%減。 書籍は737億円で、同4.6%減。 雑誌は473億円で、同0.9%減。その内訳は月刊誌が389億円で、同0.3%減、週刊誌は84億円で、同3.6%減。 雑誌のマイナスが小幅なのは、前年同月が16.3%という激減の影…

古本夜話889 岩田豊雄、『近代劇全集』、『悲劇喜劇』

前回の『娘と私』を読んでいて、あらためて獅子文六となる前の岩田豊雄が渡仏して、演劇に魅せられ、帰国後には岸田国士たちと新劇研究所を創設したり、円本の翻訳に携わっていたことを知った。それらのことは『娘と私』の中に、次のように具体的に述べられ…

古本夜話888 岩田豊雄『海軍』と獅子文六『娘と私』

火野葦平の『陸軍』に先駆けて、昭和十七年の『朝日新聞』に岩田豊雄の『海軍』が連載され、十八年二月に単行本として刊行されている。岩田はいうまでもなく、獅子文六の本名である。『朝日新聞出版局50年史』によれば、火野が公職追放されたことに対し、岩…

古本夜話887 火野葦平『麦と兵隊』から『陸軍』へ

大東亜戦争下の昭和十八年五月から十九年四月にかけて、『朝日新聞』に火野葦平の小説『陸軍』が連載された。それが単行本として刊行されたのは昭和二十年八月のことで、『朝日新聞出版局50年史』は次のように述べている。 『陸軍』(B6判・六八八ページ・五…

古本夜話886 『現代海洋文学全集』とグッドリッヂ『デリラ』

前回の海洋文化社の「海洋文学名作叢書」と同様に、本連載487で改造社の『現代海洋文学全集』にもふれておいた。しかしその際には『現代海洋文学全集』に関して未見であった。だがその後、それを二冊入手しているので、続けて書いておきたい。 書誌研究懇…

古本夜話885 齋藤忠『海戦』と海洋文化社

本連載487で、昭和十七年に海洋文化社から「海洋文学名作叢書」の一冊として刊行されたコンラッドの『陰影線』を取り上げておいた。 海洋文化社と発行者の中村正利に関しての詳細はつかめていないけれども、やはり昭和十七年刊行の齋藤忠『海戦』を入手し…

古本夜話884 高見順とバイコフ『ざわめく密林』

そういえば高見順も徴用され、南進していたことを思い出し、『高見順日記』(勁草書房、全九巻)を読んでみた。すると第一巻にバリ島やジャワの「渡南遊記」、タイの「徴用日記」、第二巻/上に「ビルマ従軍」が収録され、それらは昭和十六年から十八年にか…

古本夜話883 徳川義親、朝倉純孝『馬来語四週間』と大学書林

これも古本屋の均一台から拾ってきたものだが、大学書林の徳川義親、朝倉純孝『馬来語四週間』、本連載517の今岡十一郎『洪牙利語四週間』、同279の日本出版社の久田原正夫『タイ語の研究』を入手している。これらは大東亜共栄圏幻想の拡大に伴うよう…

古本夜話882 正木不如丘『法医学教室』

前回、アルスの『フロイド精神分析大系』の第九巻『洒落の精神分析』の訳者が正木不如丘であることを既述しておいた。この原タイトルは Der Witz und seine Beziechung zum Unbewussten とされているので、人文書院版『フロイト著作集』では、「機知―その無…

古本夜話881 フロイト、吉岡永美訳『トーテムとタブー』と啓明社

前回の長谷川誠也『文芸と心理分析』の刊行が、やはり春陽堂の『フロイド精神分析学全集』全十巻と併走していたことを既述しておいた。それは本連載82などでふれておいたように、長谷川、大槻憲二、対馬完治、矢部八重吉を訳者とするものだった。ただ当初…