出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話823 岸田国士訳『ルナアル日記』と『にんじん』

これまで昭和十年代におけるフランス文学翻訳ブームといったトレンドにふれてきたが、その中の一人がルナアルでもあった。それは本連載808のブールジェほどではないにしても、私たち戦後世代にとっては馴染みが薄い。『にんじん』の作者であることは承知…

古本夜話822 秦豊吉『伯林・東京』と岡倉書房

本連載819のピチグリリ『貞操帯』に序を寄せた丸木砂土が本名の秦豊吉で、昭和八年に岡倉書房から『伯林・東京』というエッセイ集を出している。冒頭にはまず「秦生」名による「小序」が置かれ、それは丸木名による艶笑随筆的なものとまったく異なる秦の…

古本夜話821 谷口武訳『現代仏蘭西二十八人集』とコント

前回のカルコの『モンマルトル・カルティエラタン』において、これを映画とすれば、カルコ主演で、共演が詩人でコント作家のピエール・マコルランだと既述しておいた。この「コント」に関して教えられたのは、柳沢孝子の「コントというジャンル」(『文学』…

古本夜話820 永田逸郎、フランシス・カルコ『モンマルトル・カルティエラタン』、春秋書房

昭和十年前後のフランス文学翻訳ブームは、これまで取り上げてきた全集に値する文学者たちばかりでなく、マイナーポエットにまで及んでいる。それは前回のピチグリリではないけれど、その典型を昭和八年に刊行されたフランシス・カルコの『モンマルトル・カ…

古本夜話819 ピチグリリ『貞操帯』と和田顕太郎

もう一冊、建設社の単行本を取り上げておく。それは前々回、書名を挙げなかったけれど、ピチグリリ作、和田顕太郎訳『貞操帯』である。これは昭和六年の刊行なので、建設社の創業の翌年の出版物に位置づけられる。 (『貞操帯』) 和田顕太郎は本連載791…

古本夜話818 原久一郎訳『大トルストイ全集』と中央公論社

前回の建設社、及び河出書房や白水社のフランス文学全集類と競うように、昭和十一年から十四年にかけて、中央公論社から『大トルストイ全集』全二十二巻が刊行されている。しかもこれは原久一郎の個人訳によるもので、入手しているのは昭和十四年五月の第二…

出版状況クロニクル124(2018年8月1日~8月31日)

18年7月の書籍雑誌推定販売金額は919億円で、前年比3.4%減。 書籍は439億円で、同6.0%減。雑誌は480億円で、同0.8%減。 雑誌の内訳は月刊誌が384億円で、同0.6%増、週刊誌は96億円で、同6.2%減。 月刊誌が前年を上回ったのは16年12月期以来のことだが、それ…

古本夜話817 建設社と『ジイド全集』

前回、昭和十年代に入って招来した、第一書房と白水社を中心とするジイドの時代にふれたが、両社に先駆け、いずれも昭和九年に『ジイド全集』が建設社と金星堂から刊行されている。金星堂版は後述するつもりなので、ここでは建設社版を取り上げておきたい。…

古本夜話816 ジイドの時代と『ソヴエト旅行記』

やはり白水社のアンドレ・ジイドの『贋金つくり』(山内義雄訳)を入手している。これは昭和十年二月初版発行、十四年八月十三版と奥付に示され、順調に版を重ねているとわかる。『白水社80年のあゆみ』を繰ってみると、前々回も記述しておいたように、昭和…

古本夜話815 ポオル・モオラン『レヰスとイレエン』と伏字

前回の堀口大學訳『ドルヂェル伯の舞踏会』の「同じ訳者によりて」一覧に示したように、ポオル・モオランの『夜ひらく』『夜とざす』『恋の欧羅巴』の三冊は挙げられていたけれど、私が浜松の時代舎で入手している『レヰスとイレソン』の記載はなかった。こ…

古本夜話814 ラディゲ『ドルヂェル伯の舞踏会』と堀口大学

前回、長谷川郁夫の『堀口大學』における堀口、長谷川巳之吉の第一書房と東京、京都帝大仏文科の対立にふれたが、出版社の場合、そのような構図はあったにしても、フランス文学翻訳者は限られているし、売れる企画は耐えず追求されなければならない。 前々回…

古本夜話813 ヴァレリイ、堀口大学訳『文学論』と斎藤書店

前々回、堀口大学と第一書房によるポール・ヴァレリイの翻訳『詩論・文学』と『文学雑考』を挙げておいたが、これは戦後の昭和二十一年四月に斎藤書店から、合本『文学論』として復刻されている。第一書房の二冊は所持していないけれど、こちらは手元にある…

古本夜話812 河盛好蔵と白水社『キュリー夫人伝』

河盛好蔵の『河岸の古本屋』(毎日新聞社)所収の「著者略年譜」によれば、前回のヴァレリー『詩学叙説』の他に、昭和十三年にはジイド『コンゴ紀行』とエーヴ・キュリー『キュリー夫人伝』 を翻訳刊行している。後者は川口篤、杉捷夫、本田喜代治との共訳で…

古本夜話811 ヴァレリー『詩学序説』と河盛好蔵

前回の林達夫『文芸復興』の戦前版が巻末広告に掲載されている一冊を入手している。それは昭和十三年に小山書店から刊行されたポール・ヴァレリーの河盛好蔵訳『詩学叙説』で、菊判一一四ページ、函入の堅牢にして瀟洒な本といっていいだろう。巻末広告には…

古本夜話810 フランス『舞姫タイス』と林達夫『文芸復興』

前回の全集の中にもあったアナトール・フランスの『舞姫タイス』は次のような物語である。 (『舞姫タイス』、白水社) この長編小説は四世紀のアレクサンドリアが栄えた時代を背景としている。原始キリスト教の苦行僧たちの若き指導者パフニュスは世俗生活…

古本夜話809 『アナトオル・フランス長篇小説全集』と『小さなピエール』

やはり昭和十年代後半に白水社から、『アナトオル・フランス長篇小説全集』が刊行されている。これは昭和十四年からの、同じく『アナトオル・フランス短篇小説全集』が全七巻の完結に続く企画で、全十七巻予定だったが、十冊が出されただけで中絶し、全巻の…

古本夜話808 太宰施門『ブゥルジェ前後』と髙桐書院

本連載799の辰野隆『仏蘭西文学』と同様に、太宰施門の『ブゥルジェ前後』も、戦前からの企画が戦後になって実際に刊行に至ったと考えられる。「序」の日付は昭和二十一年三月、発行は八月で、版元は発行者を馬場新二とする髙桐書院、住所は京都市中京区…

古本夜話807 金尾文淵堂と徳富健次郎・愛『日本から日本へ』

吉江孤雁や国木田独歩の著書を出した如山堂や隆文館が、金尾文淵堂や文録堂と並んで、春陽堂以後の「美本組」だったという小川菊松の『出版興亡五十年』の証言を、本連載801で紹介しておいた。私は小川菊松のいうところの「美本組」出版社にはあまり関心…

出版状況クロニクル123(2018年7月1日~7月31日)

18年6月の書籍雑誌推定販売金額は1029億円で、前年比6.7%減。 書籍は530億円で、同2.1%減。雑誌は499億円で、同11.2%減。 雑誌の内訳は月刊誌が406億円で、同11.5%減、週刊誌は92億円で、同9.6%減。 返品率は書籍が41.4%、雑誌が44.5%。 6月の大阪北部地震に…

古本夜話806 田山花袋『花紅葉』と大盛堂書店

続けて国木田独歩とその周辺にふれてきたが、新潮社の『二十八人集』や改造社の『国木田独歩全集』の編纂者として、田山花袋の功労を見逃すわけにはいかないだろう。本連載77などや262などでも田山に言及しているけれども、独歩と同様に花袋もまた、柳…

古本夜話805 小杉未醒『漫画一年』と独歩

これは本連載801の吉江孤雁『緑雲』や同803の国木田独歩『欺かざるの記』後篇を入手する半年ほど前のことだが、やはり浜松の時代舎で小杉未醒の『漫画一年』を購入している。これは明治四十年に編纂兼発行者を戸田直秀とし発行所を佐久良書房として刊…

古本夜話804 博文館『縮刷独歩全集』と改造社『国木田独歩全集』

国木田独歩の全集は、前回の『欺かざるの記』後篇刊行の翌年の明治四十三年に博文館から『独歩全集』前・後篇が出され、昭和五年には円本として改造社から全八巻の『国木田独歩全集』が刊行されている。これは幸いにしてというべきか、博文館版は大正時代の…

古本夜話803 国木田独歩『欺かざるの記』後篇と隆文館

実は前々回の吉江孤雁『緑雲』と一緒に、浜松の時代舎から購入してきた一冊があり、それは国木田独歩の『欺かざるの記』後篇である。これも続けて書いておくしかない。 (『緑雲』) この『欺かざるの記』は本連載156で、前篇を刊行した佐久良書房にふれ…

古本夜話802 メエテルリンク『貧者の宝』とマーテルランク

前回に続いて、吉江孤雁の翻訳も一冊手元にあるので、それも書いておきたい。それはメエテルリンクの『貧者の宝』で、大正六年に文庫判上製本で出され、入手しているのは大正十一年十二版である。この判型は『新潮社四十年』によれば、こうした小型本は当時…

古本夜話801 吉江孤雁『緑雲』と如山堂

これもまた毎度お馴染みのことになってしまうけれど、前回の『吉江喬松全集』に関する一文を書いてから、浜松の時代舎に出かけたところ、吉江孤雁の『緑雲』を見つけてしまったのである。これは吉江の前史としての孤雁名義ゆえに全集には収録されていないが…

古本夜話800 白水社『吉江喬松全集』とゾラ

前回の辰野隆『仏蘭西文学』の企画の範となったのは、昭和十六年に刊行された『吉江喬松全集』だったと思われる。これはその前年に亡くなった吉江の一周忌に出されたもので、当初全六巻予定だったが、好評、もしくは収録論稿などが増えたためか、十八年に全…

古本夜話799 辰野隆『仏蘭西文学』と改造社『フロオベエル全集』

前回ふれた福武書店の『辰野隆随想全集』は「随想」とあるだけに、辰野のフランス文学研究者としての仕事は第3巻の『フランス文芸閑談』にいわば抄録され、白水社の上下巻、A5判九〇〇ページに及ぶ『仏蘭西文学』はほとんどが省かれてしまったと推測される。…

古本夜話798 弘文堂書房と辰野隆『印象と追憶』

渡辺一夫訳のリラダン『トリビュラ・ボノメ』は「辰野隆博士に捧ぐ」との献辞がしたためられている。それはこの翻訳が辰野の註解などの「書き込み入り御本」を活用した「答案」で、いわば「堂々たるカンニング」によっているからだと述べられている。 渡辺は…

古本夜話797 リラダン『トリビュラ・ボノメ』と「白鳥扼殺者」

前々回、『ボードレール全集』や『プロスペル・メリメ全集』の訳者の一人である渡辺一夫が、装幀家の六隅許六に他ならないことを既述しておいた。それらだけでなく、渡辺は昭和十年代半ばのフランス文学研究と翻訳において、その中心的なポジションにいたは…

出版状況クロニクル122(2018年6月1日~6月30日)

18年5月の書籍雑誌推定販売金額は846億円で、前年比8.7%減。 書籍は433億円で、同8.8%減。雑誌は413億円で、同8.5%減。 雑誌の内訳は月刊誌が322億円で、同9.6%減、週刊誌は90億円で、同4.7%減。 返品率は書籍が43.7%、雑誌が48.6%。 雑誌返品率は16年12月以…