出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話703 井東憲『南洋の民族と文化』と「東亜文化叢書」

大東出版社は前々回の東亜協会との関係の他に、「東亜文化叢書」というシリーズも刊行している。国会図書館を調べると、九冊刊行されているが、昭和十六年十月時点で、四冊までは出版されている。それらを挙げてみる。 1. 実藤恵秀 『近代日支文化論』 2. 井…

古本夜話702 二宮尊徳偉業宣揚会と『二宮尊徳全集』

前回、『東亜連盟』の発売所が育生社で、その住所が『要説二宮尊徳新撰集』の二宮尊徳翁全集刊行会と同じであることから、両社は同じではないかとの推測を述べておいた。 そこで『二宮尊徳全集』の戦前における出版を、書誌研究懇話会編『全集叢書総覧新訂版…

古本夜話701 『東亜連盟』と育生社

前回の東亜協会が北支事変と同時に創立された華北協会の後身で改称されたこと、また同時期に、石原莞爾や宮崎正義たちによって思想運動団体としての東亜連盟が結成されたことを既述しておいた。 東亜連盟は『日本近現代史辞典』に立項されているので、それを…

古本夜話700 東亜協会編著『北支那総覧』

前回岩野夫妻の大東出版社にふれたこともあり、この版元の仏教書以外の書籍も取り上げておきたい。 まずは東亜協会編著『北支那総覧』で、昭和十三年の刊行である。菊判上製五〇五ページ、入手したのは裸本だが、定価が参円八拾銭とされていることからすれば…

古本夜話699 仏教経典叢書刊行会と立川雷平

もう一冊、大正時代の仏教書が残されているので、これもここで書いておこう。それは『現代意訳維摩経解深密教』である。同書は 著訳者を岩野真雄とし、仏教経典叢書刊行会から出版されている。 本連載513で『維摩経』については既述しておいたが、同じく…

古本夜話698 『岩波哲学小辞典』、伊藤吉之助、仲小路彰

前回の仲小路彰のことだが、『砂漠の光』をきっかけにして、出版の世界に足を踏み入れたようで、その痕跡を残している一冊がある。それは岩波書店の四六判『岩波哲学小辞典』に他ならない。これは昭和五年に初版、十三年に増訂版が出され、戦後に至るまでの…

古本夜話697 仲小路彰『砂漠の光』

これはその出版経緯と事情もまったくつかめていないけれど、やはり新光社から大正十一年に仲小路彰の長篇戯曲『砂漠の光』が刊行されている。それは七八一ページに及ぶもので、まさに個人としては前例を見ない長篇戯曲の出版だったと思われる。しかも奥付の…

古本夜話696 三井晶史『法然』

新光社のことは本連載171、172、173などで言及してきたし、同642でも経営者の仲摩照久についてはその経歴などを提出しておいた。だがその出版物に関しては全貌がつかめていない。 とりわけ出版物は雑誌の他に三百余点に及んでいるとされるけれど…

出版状況クロニクル112(2017年8月1日〜8月31日)

17年7月の書籍雑誌の推定販売金額は952億円で、前年比10.9%減。 書籍は467億円で、同6.2%減、雑誌は484億円で、同15.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌が382億円で、同17.1%減、週刊誌は102億円で、同6.1%減。 返品率は書籍が42.0%、雑誌は46.2%で、月刊誌は47.8%、…

古本夜話695 畦上賢造訳『自助論』と内外出版協会

前回、これも言及できなかったけれど、山室軍平の『私の青年時代』の中に、活版小僧として働くかたわらで、勉強と読書にいそしんだことが語られ、次のような記述にも出会うのである。それは明治二十年頃だった。 其の頃私は又スマイルスの「自助論」(中村敬…

古本夜話694 山室軍平『私の青年時代』と救世軍

これは前回ふれなかったが、金森通倫『信仰のすゝめ』の巻末広告には山室軍平の『青年への警告』が掲載されていたし、星野天知の『黙歩七十年』には思いがけずに山室が伝道仲間だったことが記されていた。金森と同様に、山室に関しても、まず『世界宗教大事…

古本夜話693 金森通倫『信仰のすゝめ』と「大正伝道叢書」

ずっと新仏教運動と出版に関してふれてきたけれど、キリスト教においても、大正期は大いなる伝道の時代だったと思われる。 『信仰のすゝめ』という一冊がある。これが福澤諭吉のベストセラー『学問のすゝめ』(岩波文庫)のタイトルに由来していることはいう…

古本夜話692 金井為一郎『サンダー・シングの生涯及思想』と東光社

前々回ポール・ケラスの八幡関太郎訳『仏陀の福音』と同様に、これも長い間よくわからない一冊があった。それは 金井為一郎の『印度の聖者 サンダー・シングの生涯及思想』で、大正十三年十二月に初版が出され、入手しているのは十四年十二月の第九版である…

古本夜話691 ポール・ケーラス『悪魔の歴史』

前回のポール・ケラス=ケーラスだが、平成六年になって、未邦訳の『悪魔の歴史』(船木裕訳、青土社)が刊行されている。これは「悪魔学」の古典としての翻訳とされているが、それもあってか、正面からの言及を見ていないので、ここでふれておきたい。それ…

古本夜話690 ポール・ケラス、八幡関太郎訳『仏陀の福音』

前回のシカゴ万国宗教大会に関連して、もう一編書いてみる。大会の書記官長を務めたのがポール・ケーラスで、それをきっかけにして釈宗演は親交を結ぶようになり、釈は鈴木貞太郎=大拙をケーラスのもとに送ることになったのである。大拙は明治三十年に渡米…

古本夜話689 釈宗演、シカゴ万国宗教大会、佐藤哲郎『大アジア思想活劇』

本連載670で釈宗演が今北洪川の弟子にして、鎌倉円覚寺で、夏目漱石や杉村楚人冠の参禅に寄り添ったことを既述した。釈については『日本近代文学大事典』に立項が見えるので、まずそれを示す。 釈 宗演 しゃくそうえん 安政六・一二・一八~大正八・一一…

古本夜話688 ウォーレス『馬来諸島』と窪田文雄『南洋の天地』

前回、『南方年鑑』を取り上げたこともあり、ここで南洋協会に関してもふれておきたい。 この南洋協会から昭和十七年にA・R・ ウォーレスの『馬来諸島』が刊行されている。彼は『岩波西洋人名辞典』に立項が見出せるので、まずはそれを示す。 ウォーレス Wal…

古本夜話687 東邦社『南方年鑑』

戦前の地理学に関連して、三編ほど古今書院にふれてきたが、もう少し南進論絡みを続けてみたい。大東亜戦争下における南進論を象徴するような一冊がある。それは『南方年鑑』で昭和十八年版として、日本橋区本町の東邦社から刊行されている。年度版だが、こ…

古本夜話686 北原白秋『橡』、「多磨叢書」、靖文社

前回の「アララギ叢書」と併走するようにして、同じく歌集を中心とし、出版社も重なる「多磨叢書」が刊行されていた。古今書院と「アララギ叢書」にふれる機会を得たこともあり、これも続けて取り上げておきたい。この叢書を知ったのは、昭和十八年に靖文社…

古本夜話685 村田利明『早瀬』と川瀬清『アララギ叢書解題』

やはり前々回の古今書院の橋本福松の立項の中に、詩歌物も出版したという記述があった。その詩歌物を二冊ばかり入手していて、それらはいずれも歌集で、斎藤茂吉『寒雲』(昭和十五年)、村田利明『早瀬』(同十六年)である。 後者の巻末には斎藤茂吉、土屋…

出版状況クロニクル111(2017年7月1日〜7月31日)

17年6月の書籍雑誌の推定販売金額は1103億円で、前年比3.8%減。 書籍は541億円で、同0.2%減、雑誌は562億円で、同7.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌が459億円で、同6.3%減、週刊誌は102億円で、同9.6%減。 返品率は書籍が41.6%、雑誌は44.8%で、月刊誌は45…

古本夜話684 山本熊太郎『新日本地誌』

前回の古今書院の創業者橋本福松の立項のところには見えていなかったけれど、山本熊太郎の『新日本地誌』がある。これは全六巻で、明細を見れば、関東・奥羽篇、北海道・樺太篇、中部地方篇、近畿・中国篇、四国・九州篇、外地篇という構成により、昭和十二…

古本夜話683 佐藤弘、古今書院、パッサルゲ『景観と文化の発達』

前回、ダイヤモンド社の『南洋地理大系』の編輯者の一人が佐藤弘であると既述しておいた。この佐藤は地理学者にふさわしく、古今書院からも翻訳書を刊行している。それは国松久彌との「共抄訳」のパッサルゲ『景観と文化の発達』で、昭和八年の出版である。…

古本夜話682 ダイヤモンド社と『南洋地理大系』

「南進論」と歩みをともにして、出版界も「南へ、南へ」と向かっていた。それをダイヤモンド社の『南洋地理大系』にもうかがうことができる。これは昭和十七年に全八巻で出されている。その明細を示す。 1 『南洋総論』 2 『海南島・フィリピン・内南洋』 3 …

古本夜話681 堀真琴と『世界全体主義大系』

前々回の室伏高信の『戦争私書』の中に堀真琴への言及がある。この堀に関しては『現代人名情報事典』に立項を見出せるので、まずはそれを引いておく。 (中公文庫版) 堀真琴 ほりまこと 政治家(生)宮城1898・5・24‐980・1・16 (学)1923東京帝大政治学科…

古本夜話680 養賢堂、「東亜共栄圏国土計画資料」、田中長三郎『南方植産資源論』

昭和十年代後半における南進論関係の出版ブームは、本連載584、585などでも既述しているが、多くの出版社が参画していったようで、それは養賢堂のような農業書の版元も例外ではなかった。養賢堂に関してはこれも同528で少しだけふれているけれど、…

古本夜話679 室伏高信、日本評論社、『戦争私書』

前回の室伏高信の『南進論』の巻末広告には彼の『論語』『孔子』『山の小屋から』『支那遊記』が並び、室伏と日本評論社の密接な関係を伝えている。実際に彼は昭和九年から十八年にかけて、『日本評論』の主筆を務めていたのである。本連載ではふれてこなか…

古本夜話678 室伏高信『南進論』

本連載675で、大谷光瑞の南進論にふれたが、それは昭和十一年に日本評論社から刊行された室伏高信の『南進論』から始まり、国策としての南進政策と大東亜共栄圏構想がリンクしていたと見なせよう。明治末期から大正前半にかけて唱えられた民間の南進論は…

古本夜話677 東日大毎近衛賞「政治小説」と松永健哉『海の曙』

前回、『純粋小説全集』刊行記念としての「一千円懸賞長篇小説」にふれたが、もうひとつよく知られていない賞があるので、これも続けて書いておきたい。それは「東日大毎近衛賞『政治小説』」であり、私も松永健哉の『海の曙』を入手して知った次第だ。この…

古本夜話676 有光社と『純粋小説全集』

前回の大谷光瑞などの南進論に寄り添った出版社としての有光社についてはまったくふれられなかったので、もう一編書いておきたい。有光社は住所も麹町区丸ノ内三丁目とし、発行者を村田鐵三郎とする版元で、私が最初にこの出版社の本を入手したのは半世紀近…