出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話794 河出書房『ボードレール全集』とベンヤミン

河出書房は昭和九年の『バルザック全集』に続いて、十年には『モーパッサン傑作短篇集』、十三年には『ボードレール全集』、『プロスペル・メリメ全集』を刊行するに至る。(『バルザック全集』)(『モーパッサン傑作短篇集』) (『プロスペル・メリメ全集…

古本夜話793 杉山英樹『バルザックの世界』

前回のクルティウスの『バルザック論』は昭和十七年九月刊行だが、それに先行して、同年一月に中央公論社から杉山英樹の『バルザックの世界』が上梓されている。これはA5判並製で、『バルザック論』の装丁や造本に比べ、地味な一冊であるけれど、日本人によ…

古本夜話792 野上巖とクルティウス『バルザック論』

河出書房における昭和九年と十六年の二度に及ぶ『バルザック全集』の刊行は、他に外国文学としての例を見ていないはずで、それだけバルザックが読者を得ていたことを意味しているのだろうか。それとも単なる焼き直しの金融出版と考えるべきなのか、その判断…

古本夜話791 河出書房『バルザック全集』と『セラフィタ』

前回の河出書房の『新世界文学全集』の翻訳企画へと結実していく伏線は、それまでに刊行されていた、主としてフランス文学の個人全集などに胚胎していたのではないだろうか。 その先駆けは昭和九年に刊行された『バルザック全集』だったように思われる。これ…

古本夜話790 河出書房と『新世界文学全集』

河出書房は昭和十年代になって、本連載628や783で既述しておいたように、多くの全集類の刊行を始めている。しかもその特色は外国文学の翻訳に顕著だ。それはこれまでもふれてきたが、河出書房が社史や全出版目録を刊行していないので、詳らかな経緯と…

古本夜話789 『阿部知二自選集』と「野の人」

本連載785で、『阿部知二自選集』にふれ、河上徹太郎の証言を引き、同787において、昭和十年代半ばの「間違ひなく売れる」四人の作家の一人としての阿部の『北京』を紹介しておいた。他の三人は島木健作、石川達三、丹羽文雄だが、島木は正続『生活の…

古本夜話788 ゴビ沙漠学術探検隊編『ゴビの沙漠』と目黒書店

前回、阿部知二の『北京』において、支那が有史以前のゴビ砂漠にたとえられていることにふれ、それで閉じた。 実はそれから数日後、まったく偶然に浜松の時代舎で、ゴビ沙漠学術探検隊編『ゴビの沙漠』を見つけ、購入してきたばかりなのである。つまりここで…

古本夜話787 新潮社『昭和名作選集』と阿部知二『北京』

昭和十年代半ばには本連載でふれてきた実業之日本社や河出書房だけでなく、多くの日本文学シリーズが刊行されていたし、驚くほどの売れ行きを見ていたのである。 本連載767の『道徳と教養』の中で、河上徹太郎は「昭和十四年度文壇の回顧」において、本年…

出版状況クロニクル121(2018年5月1日~5月31日)

18年4月の書籍雑誌推定販売金額は1018億円で、前年比9.2%減。 書籍は538億円で、同2.3%減。 雑誌は480億円で、同15.8%減。 雑誌の内訳は月刊誌が393億円で、同15.7%減、週刊誌は87億円で、同16.2%減。 返品率は書籍が35.2%、雑誌が46.6%。 雑誌返品率の改善…

古本夜話786 岸田国士『力としての文化』

大東亜戦争下における出版の謎に関して、本連載でもずっとふれてきているし、前回の河出書房の例を挙げたばかりだが、そのことを考えるに当たって、恰好の一冊があるので、ここで取り上げてみたい。 それは岸田国士の『力としての文化』で、「若き人々へ」と…

古本夜話785 河出書房「短篇集叢書」

「書きおろし長篇小説叢書」や「記録文学叢書」や『シナリオ文学全集』と同様に、やはり同時代に河出書房から「短篇集叢書」が刊行されている。だがこれは『日本近代文学大事典』にも解題や明細は収録されておらず、たまたま手元に二冊あったので、それを知…

古本夜話784 飯島正他『欧米シナリオ傑作集』

前回の河出書房の「記録文学叢書」の既刊書として、飯島正の『バウンティ号の叛乱』をと挙げておいた。飯島に関しては本連載628などでふれているように、やはり同時期に河出書房から刊行されていた『シナリオ文学全集』の責任編輯者の一人だった。その際…

古本夜話783 「記録文学叢書」、前田河広一郎『サッコ・ヴァンゼッティ事件』、井伏鱒二『ジョン万次郎漂流記』

前回の井伏鱒二『多甚古村』の巻末広告に、「直木賞受賞作品」と銘打たれた『ジョン万次郎漂流記』が掲載されていることを既述していた。それは一ページジ広告で、菊池寛の「直木賞も井伏君の『ジョン万次郎漂流記』を得て、新生命を招き得たと思ふ」を始め…

古本夜話782 井伏鱒二『多甚古村』、河出書房、「書きおろし長編小説叢書」

本連載771の『日本語録』で、保田与重郎の著作への言及はひとまず終えるし、しかもそれが「新潮叢書」収録でもあり、これから戦時下の小説叢書類を取り上げてみたい。 本連載767の河上徹太郎の『道徳と教養』において、彼が『東大新聞』(昭和十四年十…

古本夜話781 ロンブロオゾオ『天才論』と辻潤

前回のノルダウの邦訳『現代の堕落』には献辞名が省略されているが、ダイクストラが『倒錯の偶像』で指摘しているように、チェザーレ・ロンブローゾに捧げられている。それはロンブローゾたちの『女性犯罪者』(未訳)において、女性犯罪者たちが男性的な特…

古本夜話780 マックス・ノルダウ『現代の堕落』

しばらくぶりで前々回「大日本文明協会叢書」にふれたこと、またかなり長きに渡って探していたその中の一冊を最近になって入手したこともあり、これも取り上げておきたい。 それはマックス・ノルダウの『現代の堕落』で、大正三年に大日本文明協会から刊行さ…

古本夜話779 羽太鋭治、澤田順次郎『最近犯罪の研究』と天弦堂

中村古峡の日本変態心理学会=日本精神医学会が、当時の「変態」というコードを通じて警察講習所などの権力構造とリンクしていたこと、及び『変態性欲』の主筆の田中香涯が羽太鋭治や澤田順次郎と並んで、「性欲三銃士」と称せられていたことを既述しておい…

古本夜話778 コーリアット『変態心理』と大日本文明協会

前回の北野博美『変態性欲講義』の参考文献として、大日本文明協会から翻訳刊行されたクラフト・エビングの『変態性欲心理』を挙げ、北野の著書もそれをベースにしていることを既述しておいた。 (ゆまに書房復刻版) その大日本文明協会の「大日本文明協会…

古本夜話777 北野博美『変態性欲講義』

前々回の上田恭輔『生殖器崇拝教の話』の内容紹介に、「本書は当今大人気の性欲問題を捉へて流行の風潮に乗ぜんとするキワ物では御座らぬ」という一文が見えていた。それを読んで、大正が「当今大人気の性欲問題」時代でもあったことを想起させてくれた。 そ…

古本夜話776 神谷敏夫『最新日本著作者辞典』と「大同館発行分類図書目録」

続けてふれてきた大同館のことだが、本連載でもしばしば参照してきた神谷敏夫の『最新日本著作者辞典』が大同館から出され、しかもその巻末には「東京神田大同館発行図書分類目録」三百点ほど二十四ページにわたって掲載されていることもあり、もう一回書い…

出版状況クロニクル120(2018年4月1日~4月30日)

18年3月の書籍雑誌推定販売金額は1625億円で、前年比8.0%減。 書籍は1017億円で、同3.2%減。 雑誌は608億円で、同15.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌が507億円で、同15.9%減、週刊誌は101億円で、同10.2%減。 返品率は書籍が27.1%、雑誌が42.0%。 書店店頭売上は…

古本夜話775 上田恭輔『支那骨董と美術工芸図説』と大阪屋号書店

大同館の本間久雄『エレン・ケイ思想の真髄』の巻末広告には、これも参考書出版社らしからぬ一冊が見られる。それは上田恭輔の『生殖器崇拝教の話』で、「生殖器崇拝問題を学術的組織的に研究したる本邦最初の試み」とされ、「好評三版」と謳われている。こ…

古本夜話774 大同館、阪本真三、野村隈畔

前々回は『エレン・ケイ思想の真髄』の版元である大同館にまったくふれられなかったので、ここで書いておきたい。 『日本出版百年史年表』によれば、大同館は明治四十四年に阪本真三によって参考書出版社として設立されている。 それを『日本出版大観』(出…

古本夜話773 エレン・ケイ『恋愛と結婚』とハヴロック・エリス

前回の岩波文庫の元版といえるエレン・ケイの原田実訳『恋愛と結婚』の聚英閣版が手元にあるので、やはり取り上げておこう。これは大正十三年発行、十四年五版で、その版元の聚英閣についてはかつて拙稿「聚英閣と聚芳閣」(「古本屋散策」54、『日本古書通…

古本夜話772 本間久雄『エレン・ケイ思想の真髄』と原田実

ここで本連載763の本間久雄と大同館に関する補遺を何編か、はさんでおきたい。それは本間が大正十年に大同館から刊行した増補版『エレン・ケイ思想の真髄』も入手しているからだ。 保田与重郎との関係を調べるために、『日本近代文学大事典』における本間…

古本夜話771 保田与重郎『日本語録』と「新潮叢書」

続けて保田与重郎の著書を取り上げてきたし、昭和十年代が保田と日本浪漫派の時代だったのではないかと既述しておいたように、彼と『日本浪漫派』同人の著作を合わせれば、かなりの量になると思われる。 それらを刊行したのは新潮社も例はなく、昭和十七年に…

古本夜話770 『日本国家科学大系』と統制経済

実業之日本社は昭和十年代半ばから日本の文芸書や外国文学を刊行する一方で、ご多分にもれず、本連載582の日本評論社、同681の白揚社、同708の朝倉書店、同715のアルスなどと同様に、大東亜戦争下に寄り添うシリーズを刊行していた。 それは昭和…

古本夜話769 柳田国男『火の昔』とシヴェルブシュ『闇をひらく光』

『実業之日本社七十年史』を読んでいくと、昭和十六年三月に『新女苑』が第一回文化講座を開催したことを知らされる。講師は佐多稲子、川端康成、柳田国男などで、「従来の女性向き講習会とは趣を異にした、講座の形式による充実した講師と講話とは、当時す…

古本夜話768「仏蘭西文学賞叢書」と『サント・ブウヴ選集』

前回はふれられなかったが、実業之日本社における昭和十年代半ばの文芸書出版の隆盛は外国文学にも及び、十五年から「仏蘭西文学賞叢書」が刊行されていく。それらの刊行予告も含め、ラインナップを挙げてみる。例によって番号は便宜的にふったものである。 …

古本夜話767 『新女苑』と河上徹太郎『道徳と教養』

本連載764で、保田与重郎の『美の擁護』の装幀が青山二郎によるものだが、疲れた裸本ゆえにそのはっきりしたイメージがつかめないこと、及び同じ実業之日本社から河上徹太郎の『道徳と教養』も刊行されていたことにふれた。 実はこちらも入手したばかりで…