出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話888 岩田豊雄『海軍』と獅子文六『娘と私』

火野葦平の『陸軍』に先駆けて、昭和十七年の『朝日新聞』に岩田豊雄の『海軍』が連載され、十八年二月に単行本として刊行されている。岩田はいうまでもなく、獅子文六の本名である。『朝日新聞出版局50年史』によれば、火野が公職追放されたことに対し、岩…

古本夜話887 火野葦平『麦と兵隊』から『陸軍』へ

大東亜戦争下の昭和十八年五月から十九年四月にかけて、『朝日新聞』に火野葦平の小説『陸軍』が連載された。それが単行本として刊行されたのは昭和二十年八月のことで、『朝日新聞出版局50年史』は次のように述べている。 『陸軍』(B6判・六八八ページ・五…

古本夜話886 『現代海洋文学全集』とグッドリッヂ『デリラ』

前回の海洋文化社の「海洋文学名作叢書」と同様に、本連載487で改造社の『現代海洋文学全集』にもふれておいた。しかしその際には『現代海洋文学全集』に関して未見であった。だがその後、それを二冊入手しているので、続けて書いておきたい。 書誌研究懇…

古本夜話885 齋藤忠『海戦』と海洋文化社

本連載487で、昭和十七年に海洋文化社から「海洋文学名作叢書」の一冊として刊行されたコンラッドの『陰影線』を取り上げておいた。 海洋文化社と発行者の中村正利に関しての詳細はつかめていないけれども、やはり昭和十七年刊行の齋藤忠『海戦』を入手し…

古本夜話884 高見順とバイコフ『ざわめく密林』

そういえば高見順も徴用され、南進していたことを思い出し、『高見順日記』(勁草書房、全九巻)を読んでみた。すると第一巻にバリ島やジャワの「渡南遊記」、タイの「徴用日記」、第二巻/上に「ビルマ従軍」が収録され、それらは昭和十六年から十八年にか…

古本夜話883 徳川義親、朝倉純孝『馬来語四週間』と大学書林

これも古本屋の均一台から拾ってきたものだが、大学書林の徳川義親、朝倉純孝『馬来語四週間』、本連載517の今岡十一郎『洪牙利語四週間』、同279の日本出版社の久田原正夫『タイ語の研究』を入手している。これらは大東亜共栄圏幻想の拡大に伴うよう…

古本夜話882 正木不如丘『法医学教室』

前回、アルスの『フロイド精神分析大系』の第九巻『洒落の精神分析』の訳者が正木不如丘であることを既述しておいた。この原タイトルは Der Witz und seine Beziechung zum Unbewussten とされているので、人文書院版『フロイト著作集』では、「機知―その無…

古本夜話881 フロイト、吉岡永美訳『トーテムとタブー』と啓明社

前回の長谷川誠也『文芸と心理分析』の刊行が、やはり春陽堂の『フロイド精神分析学全集』全十巻と併走していたことを既述しておいた。それは本連載82などでふれておいたように、長谷川、大槻憲二、対馬完治、矢部八重吉を訳者とするものだった。ただ当初…

古本夜話880 長谷川誠也『文芸と心理分析』

長谷川誠也といえば、明治三十年からゾラなどを紹介し、日本の自然主義文学を開拓していった文芸評論家とされ、『長谷川天渓文芸評論集』(岩波文庫)や『島村抱月・長谷川天渓・片上天弦・相馬御風集』(『明治文学全集』43、筑摩書房)が編まれている。ま…

古本夜話879 日本エスペラント学会、小坂狷二『エスペラント捷径』、彩雲閣

前回の土岐善麿の『外遊心境』にエスペラント語の訳文が収録されていることもあり、ここで日本エスペラント学会の出版物にもふれておきたい。それはこれも例によってだが、浜松の時代舎で、小坂狷二の『エスペラント捷径』なる「独習用・教師用」テキストを…

出版状況クロニクル130(2019年2月1日~2月28日)

19年1月の書籍雑誌推定販売金額は871億円で、前年比6.3%減。 書籍は492億円で、同4.8%減。 雑誌は378億円で、同8.2%減。その内訳は月刊誌が297億円で、同7.6%減、週刊誌は81億円で、同10.2%減。 18年12月の、2年1ヵ月ぶりのプラスである同1.8%増の反動の…

古本夜話878 土岐哀果『生活と芸術』

前回はふれなかったけれど、土岐善麿は歌人としての土岐哀果の名前で、朝日新聞社入社以前の大正時代初めに『生活と芸術』を創刊している。この雑誌は『日本近代文学大事典』に立項があるので、それを抽出紹介してみる。 「生活と芸術」せいかつとげいじゅつ…

古本夜話877 土岐善麿『外遊心境』

前回、「朝日常識講座」の『文芸の話』の著者土岐善麿を外したのは、彼のことを別に一本書くつもりでいたからである。彼の『文芸の話』はアメリカに見られる文学の大衆化から始まり、それが日本の大衆文学やプロレタリア文学にも投影されていると見なし、そ…

古本夜話876 朝日新聞社「朝日常識講座」

前回、「朝日常識講座」の一冊である米田実『太平洋問題』にふれた。これは朝日新聞社の昭和円本時代の企画と見なせるので、ここでその明細なども取り上げておきたい。なぜならば、何度か既述しているように、本連載の目的のひとつは円本の詳細を探索するこ…

古本夜話875 海軍有終会『増訂太平洋二千六百年史』

『増訂太平洋二千六百年史』という大著が昭和十八年に刊行されている。これも大東亜戦争下における南方問題と密接に関連しているというしかない。A5判上製、函入、本文一〇八六ページ、索引と付表が八八ページ、補遺が一三二ページ、定価は十五円で、編輯者…

古本夜話874 岩生成一『南洋日本町の研究』と地人書館

『世界名著大事典』(平凡社)などによって、岩生成一の『南洋日本町の研究』が名著であることは仄聞していたけれど、それを入手するまで、昭和十五年に発行所を南亜細亜文化研究所、発売所を地人書館として刊行されたことを知らないでいた。 その奥付によれ…

古本夜話873 岩倉具栄、大槻憲二、アンドレ・モーロア『詩人と豫言者』

前回、高橋鐵の『南方夢幻郷』の序に当たる一文を寄せているのが、太平洋協会理事の岩倉具栄であることを既述しておいた。幸いにして『現代人名情報事典』にその立項を見出せたので、それを引いてみる。 岩倉具栄 いわくら ともひで 政治学者、英文学者 【生…

古本夜話872 高橋鐵『世界神秘郷』、『南方変幻郷』、「蕃女の涙」

大東亜戦争下において、多くの人々が南方へと向かっていた。それは本連載9の戦後の性科学者として著名な高橋鐵も例外ではなかった。しかもそれは前回の太平洋協会の岩倉具栄の序を添えてであった。 だがそれを知ったのは近年のことで、高橋の『世界神秘郷』…

古本夜話871 古野清人編『南方問題十講』

前回の昭和十八年刊行の『バリ島』がA4判二段組、定価五円五十銭で、初版三千部だったことを示しておいた。これも所謂南進論関連の一冊として、軍関係の助成金を得ての出版だと見なせよう。だがこうした特殊な専門書ともいうべき『バリ島』ではなく、一般的…

古本夜話870 カヴァラビアス『バリ島』と産業経済社

前回の阿部知二の『火の島』に関して、ジャワ島だけで終わってしまったこともあり、今回はバリ島にふれてみたい。 (中公文庫) 阿部はバリのことを思い出してみると、ボオドレールの『悪の華』の「異国の香」の一節「ひとつの懶い島、そこに自然が恵むもの…

古本夜話869 阿部知二『火の島』とボゴール植物園

本連載866で、大木惇夫と一緒にジャワに向かい、同様に船を撃沈され、海を漂流した後、救助された人々の中に、阿部知二もいたことを既述しておいた。 帰国してから大木は「愛国詩」を盛んに書くようになるのだが、阿部のほうは昭和十九年に創元社から「ジ…

出版状況クロニクル129(2019年1月1日~1月31日)

18年12月の書籍雑誌推定販売金額は1163億円で、前年比1.8%増。 これは16年11月以来の2年1ヵ月ぶりのプラスである。 書籍は586億円で、同5.3%増。双葉文庫の佐伯泰英の新刊『未だ行ならず』(上下)、ポプラ社の原ゆたか『かいけつゾロリ ロボット大さくせん…

古本夜話868 パピニ『基督の生涯』

前回の原稿を書いてから、所用があり、静岡に出かけ、たまたま あべの古書店に寄ったところ、大木篤夫訳のパピニ『基督の生涯』後篇を見つけ、購入してきた。 それは大正十三年八月発行の初版だった。大木が『緑地 ありや』において、「東中野の家でパピーニ…

古本夜話867 大木惇夫と『世界大衆文学全集』

前回の大木惇夫の『緑地 ありや』の中に、やはり見逃せない出版史に関する証言があり、それにもふれておきたい。 大木は同僚だった本連載676の岡田三郎の勧めで、ロープシン作、青野季吉訳『われ青馬を見たり』を読み、その文体の新鮮さに驚き、文学に新…

古本夜話866 大木惇夫『緑地 ありや』と『豊旗雲』

詩人の大木篤夫=惇夫も大正時代に博文館に在籍していて、彼は戦後になって自伝ともいうべき『緑地 ありや』(講談社、昭和三十二年)を著わし、その時代を回想している。これは娘の宮田毬栄の評伝『忘れられた詩人の伝記』(中央公論社)のベースになってい…

古本夜話865 大日本雄弁会講談社編『新支那写真大観』

前回の博文館の『新青年』の特別増刊『輝く皇軍』ではないけれど、昭和十二年の支那事変の始まりを受け、それに関連する多くの出版物が刊行された。しかもそれらの戦記物は大小出版社を問わず、膨大な数量に及んでいるはずだ。しかし本連載で繰り返し既述し…

古本夜話864 水谷準、『新青年』、特別増刊『輝く皇軍』

本連載でも『新青年』編集長に関して、同94の森下雨村、87の横溝正史、95の延原謙、477の乾信一郎のことなどに言及してきているが、水谷準=納戸三千男はまだふれていなかった。それに本連載844の木々高太郎『人生の阿呆』も水谷によって見出さ…

古本夜話863 改造社『新日本文学全集』と『川端康成集』

鎌倉文庫のことなどから、少しばかり戦後に足を踏み入れてしまったけれど、ここで再び戦前へと戻らなければならない。それに鎌倉文庫の中心人物といえる川端康成の一冊があるからだ。その一冊とは『新日本文学全集』第二巻の『川端康成集』で、昭和十五年九…

古本夜話862 織田作之助『西鶴新論』と修文館

前回、『世界文学』の表紙目次にある織田作之助「ジュリアン・ソレル」にふれられなかったので、続けて織田に関しての一編を挿入しておきたい。 織田は大阪の下町に生きる人々を描いた『夫婦善哉』、及び豊田四郎監督、森繁久彌と淡島千景共演の同名映画によ…

古本夜話861 『世界文学』、世界文学社、柴野方彦

やはり本連載854などの『人間』と同じく、戦後の文芸雑誌としての『世界文学』がある。しかもこれはまったくの偶然だが、入手しているのは一冊だけだけれど、『人間』と同様の昭和二十一年十月号で、表紙には「6」とある。これは第6号を意味していると思…