出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話972 ジェネップ『民俗学入門』

本連載936のバーンの岡正雄訳『民俗学概論』に続いてとは言えないけれど、その五年後の昭和七年にヴァン・ジェネップの後藤興善訳『民俗学入門』が、郷土研究社から刊行されている。 その第一章は「フォークロアの歴史」と題され、次のように始まっている…

古本夜話971 三国書房、「女性叢書」、江馬三枝子『飛騨の女たち』

前回の六人社の「民俗選書」として刊行されなかったが、江馬三枝子の『白川村の大家族』が挙げられていたことを既述しておいた。 本連載489などで、江馬修が『山の民』を飛騨の郷土研究誌『ひだびと』に連載し、その編集や執筆を支えたのは妻の三枝子だっ…

出版状況クロニクル139(2019年11月1日~11月30日)

19年10月の書籍雑誌推定販売金額は938億円で、前年比5.3%減。 書籍は470億円で、同3.2%減。 雑誌は468億円で、同7.4%減。 その内訳は月刊誌が380億円で、同6.0%減、週刊誌は87億円で、同12.9%減。 返品率は書籍が37.0%、雑誌は43.3%で、月刊誌は43.5%、週刊…

古本夜話970 六人社、「民俗選書」、橋浦泰雄『民俗採訪』

『近代出版史探索』で、六人社と『民間伝承』にふれているが、『民間伝承』が六人社から発売される昭和十五年五月号から、六人社の出版広告が掲載されるようになり、そのひとつが「民俗学文庫」で、実際には「民俗選書」として刊行されるに至る。 その「近刊…

古本夜話969 岩田準一『志摩の海女』

前々回の田中梅治『粒々辛苦・流汗一滴』の他にもう一冊、「アチック・ミューゼアム彙報」として出された著作を持っている。ただそれは原本ではなく、戦後になって復刻された岩田準一の『志摩の海女』である。これは「同彙報 第38」の『志摩の蜑女』として、…

古本夜話968 赤松啓介、栗山一夫、『民俗学』

前回の赤松啓介(栗山一夫)に関しては後に三笠書房や唯物論研究会のところで言及するつもりでいたが、彼が昭和十三年に『民俗学』(三笠書房)を上梓し、柳田民俗学を批判していることを考えれば、続けてふれておくべきだろう。 それに昭和六十年代には明石…

古本夜話967 「アチック・ミューゼアム彙報」と田中梅吉『粒々辛苦・流汗一滴』

『民間伝承』の第一号には「最初の世話人」として、柳田国男、橋浦泰雄、守随一などを含めた十四人の名前が挙がっているが、意外なのは宮本常一を始めとして、澤田四郎作、桜田勝徳が名前を連ねていることである。 佐野眞一の宮本と澁澤敬三を描く『旅する巨…

古本夜話966 萩原正徳、三元社、『旅と伝説』

昭和十年に創刊された『民間伝承』を読んでいると、雑誌の紹介欄に多くの民俗学に関連するリトルマガジンの新しい号の概要が記され、これらのトータルなコラボレーションによって、日本の民俗学も造型、展開されてきたことを実感させる。 その中に必ず『旅と…

古本夜話965 青磁社、米岡来福、桑田忠親『千利休』

伊波普猷『古琉球』を刊行した青磁社に関しては本連載393などでふれておいたように、この版元は山平太郎を発行者としていたが、出版社の戦時下の企業整備により、合併した八雲書林の鎌田敬止が編集長となり、折口信夫の『死者の書』を刊行したことを既述…

東京古書組合 トークイベントのお知らせ

この度、第29回ドゥマゴ文学賞を受賞しました。 その受賞記念として、12月7日(土)、東京古書組合主催のトークイベントが開催されます。 トークイベント要綱 ご希望の方は、下記のサイトからお申し込み下さい。 申し込み

古本夜話964 稲村賢敷『沖縄の古代部落マキョの研究』

もう一冊の沖縄書は稲村賢敷の『沖縄の古代部落マキョの研究』で、昭和四十三年に販売所を琉球文教図書株式会社として刊行されている。定価は五弗とあり、本土復帰以前の出版だったことを伝えている。 (『沖縄の古代部落マキョの研究』) 奥付の「著者略歴…

古本夜話963 眞堺名安興と『沖縄一千年史』

もう二冊ほど沖縄書があるので、続けて書いてみる。 一冊は眞堺名安興、島倉龍治著『沖縄一千年史』で、昭和二十七年の四版とあり、発行者は福岡市の親泊政博、発行所は住所を同じくする沖縄新民報社、発売所は琉球文教図書株式会社となっている。 (『沖縄…

古本夜話962 笹森儀助『南嶋探験』

柳田国男は昭和三十六年に筑摩書房から刊行された『海上の道』(岩波文庫)の中で、笹森儀助の『南島探検』に言及し、次のように述べている。 笹森儀助の『南島探験』という一書は、明治二十六年(一八九三)かに、この人が沖縄県の島々を巡歴して、還ってき…

古本夜話961 比嘉春潮、崎浜秀明編訳『沖縄の犯科帳』

本連載958で、伊波普猷『古琉球』の「後記」が比嘉春潮と角川源義の連名で書かれていることを既述しておいた。後者の角川は昭和二十年に角川書店を創業し出版業界ではよく知られているので、ここでは前者の比嘉にふれてみたい。たまたま彼と崎浜秀明編訳…

出版状況クロニクル138(2019年10月1日~10月31日)

19年9月の書籍雑誌推定販売金額は1177億円で、前年比3%減。 書籍は683億円で、同0.2%増。 雑誌は494億円で、同7.3%減。その内訳は月刊誌が409億円で、同8.4%減、週刊誌は85億円で、同1.5%減。 書籍のプラスは4.7%という出回り平均価格の大幅な上昇によるもの…

古本夜話960 柳田国男と『山島民譚集』

前回ふれておいたように、金田一京助の『北蝦夷古謡遺篇』は「甲寅叢書」、知里幸恵の『アイヌ神謡集』は「爐辺叢書」の一冊として、それぞれ郷土研究社から刊行されたのである。(『北蝦夷古謡遺篇』) (『アイヌ神謡集』) 「甲寅叢書」に関しては、拙稿…

古本夜話959 金田一京助『北の人』と知里幸恵『アイヌ神謡集』

伊波普猷の『古琉球』の「改版に際して」の中に、青磁社の山平太郎が見え、「北人の『ユーカラ概説』に対して、南人の『おもろ概説』が欲しい」といわれ、それは少なくとも一ヶ年を要するので、代わりに『古琉球』の「改版」を提案したとの言があった。 その…

古本夜話958 伊波普猷『古琉球』

南島研究の嚆矢が、前回もその名を挙げた伊波普猷の『古琉球』であることは今さらいうまでもないだろうし、現在では今世紀に入って岩波文庫化もされ、読むことに関してもアクセスが容易になっている。ところがその出版史をたどってみると、それが困難な道筋…

古本夜話957 「爐辺叢書」と本山桂川『与那国島図誌』

前回の『生蕃伝説集』と併走するように、同時代に南島文献が出され始めていた。柳田国男研究会編『柳田国男伝』(三一書房)は、「甲寅叢書」の継続事業ともいうべき郷土研究社の「炉(ママ)辺叢書」が、南島研究史に大きな意味を持ち、全三十六冊のうち八冊が…

古本夜話956 佐藤融吉、大西吉寿『生蕃伝説集』と杉田重蔵書店

きだみのるは『道徳を否む者』の中で、台湾の町の印象に関して、「アルジェリア・モロッコに範を取ったと云われる台北の町は美しく、そして歩道は張り出した二階の下になって、日射が遮られていた」と記している。そして「植民地に漂う異種文化は少年の中に…

古本夜話955 トラピスト修道院と間世潜『トラピスチヌ大修道院』

きだみのるの『道徳を否む者』において、「私」は十五歳の少年時代を回想する。「少年」は台湾の父のところから東京の叔父の家に引き取られ、中学時代を送っていた。しかしそれは台湾の自然と光に包まれた暮らしと異なり、「溝泥の霧の中で生活しているよう…

古本夜話954 きだみのる『道徳を否む者』

もう一編、ジョゼフ・コットに関して書いてみる。 前回取り上げた小説 『道徳を否む者』は『きだみのる自選集』第二巻に収録されている。これは明らかにきだみのる=山田吉彦の自伝というべきものだが、「山村槙一の手記」によるとのサブタイトルが付されて…

古本夜話953 ジョゼフ・コットとオリバー・ロッジ『心霊生活』

本連載946から少し飛んでしまったが、もう一度山田吉彦に戻る。山田はきだみのるの名での『道徳を否む者』の中で、「J…C…」=ジョゼフ・コットのポルトレを描いている。コットのことは本連載926でもふれているが、もう少し詳細にたどってみる。 彼は日…

古本夜話952 花森安治、生活社『くらしの工夫』、今田謹吾

本連載927に続けて、同948でも生活社にふれたこともあり、やはり生活社に関しても一編を挿入しておきたい。それは後者を書き終え、浜松の時代舎に出かけたところ、ずっと探していた生活社の一冊を見つけることができたからでもある。 その一冊とは昭和…

古本夜話951 マスペロ『道教』

続けてマスペロに言及してみる。まず『世界名著大事典』(平凡社)の著者立項を挙げてみよう。 マスペロ Henri Maspero(1883-1945)フランスの中国学者。オリエント史の大家ガストン・マスペロの子。中国学者シャヴァンヌに師事。ハノイ極東学院研究員、コ…

出版状況クロニクル137(2019年9月1日~9月30日)

19年8月の書籍雑誌推定販売金額は850億円で、前年比8.2%減。 書籍は414億円で、同13.6%減。 雑誌は435億円で、同2.4%減。その内訳は月刊誌が359億円で、同1.2%減、週刊誌は75億円で、同7.5%減。 書籍の大幅減は7月に大物新刊が集中したこと、前年同月が3.3%…

古本夜話950 松山俊太郎、『法華経』、プシルスキー『大女神』

続けて一九三〇年前後のフランス民族学や社会学に大きな影響を与えたと推測される、トリックスター的な「パリのアメリカ人」であるW・B・シーブルックに言及してきた。 本連載935の松本信広はシーブルックがパリに現われる前に帰国している。彼の「巴里よ…

古本夜話949 シーブルック『アラビア遊牧民』と大陸書房

前回のシーブルックだが、真島一郎が「ヤフバ・ハベ幻想」(『文化解体の想像力』所収、人文書院)の「註」で付記しているように、一九六八年=昭和四十三年は「シーブルック元版」で、大陸書房から『アラビア遊牧民』(斎藤大助訳)と『魔法の島〈ハイチ〉…

古本夜話948 シーブルック、ミシェル・レリス、ドゴン族

これは別のところで書くつもりでいたけれど、マルセル・モースやその時代、及び前回の山田吉彦のモロッコ行とも密接にリンクしているので、ここに挿入しておく。 前回、フランス人類学の記念すべき始まりとしての西アフリカのダカール・ジプチ調査団の出発に…

古本夜話947 山田吉彦とモロッコ

山田吉彦もモースの弟子だから、彼のことももう少しトレースしておこう。彼は一九三九年にソルボンヌ大学を中退し、モロッコ旅行を経て、日本へと帰国する。そして二年後の昭和十八年に、マルセル・モース『太平洋民族の原始経済』の版元である日光書院から…