出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2013-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話300 平林鳳二、大西一外『新撰俳諧年表』と書画珍本雑誌社

これは特価本業界とダイレクトな関係は見えないけれど、前回に続いて大阪の俳句絡みの一冊を取り上げてみる。それは平林鳳二、大西一外を著者とする『新撰俳諧年表』で、大正十二年十二月に発行され、翌年の一月に再版が出されている。発行所は大阪市東区北…

混住社会論23 佐々木譲『真夜中の遠い彼方』(大和書房、一九八四年)

混住社会という言葉が生まれたのは、都市近郊の農村地帯が郊外化する過程において、農家と非農家の混住が始まり、一九七〇年代にはその比率が逆転し、非農家数が農家数を上回ることになり、それが全国的な現象を示すようになったからである。これに続いて八…

古本夜話299 前田文進堂と鈴木重胤『和歌作語大辞典』

特価本業界の辞典について続けてみる。脇阪要太郎の『大阪出版六十年のあゆみ』の中に、出版物への言及はないけれど、前田文進堂とその主人梅吉の名前が出てくる。明治三十年代に立ち上がった出版社のようで、日露戦争の勇士で戦傷者、細君が店を守っていて…

古本夜話298 佐藤周一、牧書店、アリス館牧新社

福島の古書ふみくらの佐藤周一が亡くなった。まだ六十代半ばであり、早世というしかない。彼には「出版人に聞く」シリーズに、『震災に負けない古書ふみくら』(論創社)として登場してもらった。しかもそれは胃癌の手術、東日本大震災、原発事故というトリ…

混住社会論22 浦沢直樹『MONSTER』(小学館、一九九五年)

(完全版)かつて「図書館での暗殺計画」(『図書館逍遥』所収)という一文を書き、浦沢直樹の『MONSTER』にふれたことがあった。だがそれは二〇〇一年のことで、『MONSTER』はまだ連載中であり、完結していなかった。タイトルからわかるように、拙稿は主と…

古本夜話297 集文館と『和漢故事成語海』

これまで既述してきたように、特価本業界が「造り本」にしても数多くの辞典や事典類を送り出してきたことは紛れもない事実であるけれども、それらの出版物については収集も研究もなされておらず、出版史においても無視されているに等しいと思われる。昭和九…

古本夜話296 神谷泰治と古本夜話296 神谷泰治と大京堂

『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』の中で一ページが割かれ、そこで紹介されている重要な人物や出版社に関して、ずっと言及してきた。しかしそれらとは別に、異例と思われる四ページにわたって、立項と思い出が語られている人物がいて、それは大京堂…

混住社会論21 深作欣二『やくざの墓場・くちなしの花』(東映、一九七六年)

深作欣二のやくざ映画といえば、ただちに『仁義なき戦い』ということになってしまうが、このシリーズ以外にも秀作があり、一九七〇年代において、『仁義なき戦い』と併走していたし、時代を生々しく表象する作品として送り出されていた。 それらを私の好みか…

古本夜話295 橋口景二、研文書院『最新実用家事全書』、大妻コタカ『ごもくめし』

前回の東京書院は戦前からの出版社であるとの記述を紹介しておいたが、その出版物については入手していなかった。 しかしまったく偶然ながら、家事に関するカラー口絵などに興味を覚え、気紛れに菊判箱入、ビロード装七百ページ近い『最新実用家事全書』を購…

古本夜話294 石黒敬七監修『趣味娯楽芸能百科事典』と東京書院

『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』をベースにして、それに属する出版社とその周辺、及び出版物に関して、ずっと書いてきたわけだが、同書が刊行されたのは昭和五十六年であるから、すでに三十年以上が過ぎていることになる。この三十年間の日本の出…

混住社会論20 後藤明生『書かれない報告』(河出書房新社、一九七一年)

前回の黒井千次と同様に、後藤明生も「内向の世代」の一人と目され、一九七〇年前後に団地を舞台とするいくつもの作品を発表している。これらの一連の団地小説は会社を辞めた男と団地を描いた『何?』、週刊誌のゴーストライターと団地の生活、及びその過去…

出版状況クロニクル60(2013年4月1日〜4月30日)

出版状況クロニクル60(2013年4月1日〜4月30日)イオンがダイエーを子会社化すると発表された。ダイエーが創業以来、初の経営赤字に陥ったのは1998年で、2001年創業者の中内㓛が退任し、02年産業再生法の適用認定を受け、04年産業再生法の支援、07年丸紅、イ…

混住社会論19 黒井千次『群棲』(講談社、一九八四年)

一九七一年に小田切秀雄は、古井由吉、黒井千次、後藤明生、阿部昭たちを「内向の世代」とよび、彼らが外部社会との対決を避け、内向的になっていることを批判した。しかしそのような批判も生じる一方で、「内向の世代」の作家たちは戦後文学において、これ…

古本夜話293 金の星社と黎明社

特価本業界はマンガの揺籃の地であったばかりでなく、金の星社のような児童書出版社とともに歩んだ記録をも残している。『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』は金の星社を仲間として扱い、次のように記している。「金の星社(黎明社)―黎明社としてわれ…

古本夜話292 貸本屋、白土三平『忍者武芸帳』、長井勝一『「ガロ」編集長』

読者としてのマンガと貸本屋体験も語っておくべきだろう。以前にも雑貨屋兼貸本屋のことを記していて、それと相前後し、読んだ貸本マンガに関して、どちらが先だったのか、記憶の混同があるかもしれないが、書いてみよう。あれは昭和三十五、六年のことでは…

混住社会論18 スティーヴン・キング『デッド・ゾーン』(新潮文庫、一九八七年)

大友克洋の『童夢』と岡崎京子の『リバーズ・エッジ』におけるスティーヴン・キングの影響に関して指摘したこともあり、ここでキングについても一編書いておきたい。それは大友と岡崎のコミックのみならず、キングは一九八〇年代以降の日本の小説や映画に多…

古本夜話291 謝花凡太郎『まんが忠臣蔵』と『勇士イリヤ』

近年になって小熊秀雄原作の漫画に関しては、創風社が『小熊秀雄詩集』『小熊秀雄童話集』に続いて『小熊秀雄漫画傑作集』全四巻を編み、大城のぼる以外の渡辺加三、謝花凡太郎、渡辺太刀雄の『不思議の国インドの旅・勇士イリヤ』『コドモ新聞社』『火打箱…

古本夜話290 小熊秀雄(旭太郎)と中村書店

前回、入手経路はまったく不明だが、たまたま家にあり、小学生の頃に読んだマンガを取り上げ、それが中村書店から刊行された大城のぼるの『愉快な探検隊』で、三一書房の『少年小説大系』に復刻収録されていることを記しておいた。そしてその事実を知ったこ…

混住社会論17 岡崎京子『リバーズ・エッジ』(宝島社、一九九四年)

大友克洋の『童夢』に続いて、もう一冊コミックを取り上げてみる。それは岡崎京子の『リバーズ・エッジ』で、九〇年代の作品であるが、同じ郊外の風景を舞台とし、やはりスティーヴン・キングの影響を見てとれるからだ。さらに付け加えれば、梶井基次郎の「…

古本夜話289 大城のぼる『愉快な探検隊』と中村書店

個人的なマンガの体験についても語ってみることにしよう。これはまったく入手した経路がわからないのだが、私が小学校の低学年だった頃、家に一冊のマンガがあった。私以外に子供はいなかったから、私が誰かからもらったマンガでないことだけは確かである。…

古本夜話288 貸本マンガ、手塚治虫、竹内書房

これは戦後編でと考えていたけれども、特価本業界に関してずっと書いてきたことからすれば、マンガにふれないわけにはいかないだろう。『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』も、「全版組合の歴史をたどる上で、マンガと貸本を除いては語れないものがあ…

混住社会論16 菊地史彦『「幸せ」の戦後史』(トランスビュー、二〇一三年)

この連載としては初めてのことだが、出たばかりの新刊の紹介と書評を兼ねた一編を挿入しておきたい。その新刊は菊地史彦の『「幸せ」の戦後史』である。彼はこの著作において、「私もまた昭和と平成を生きてきたひとつの社会現象」という認識のもとに、「自…

古本夜話287 その後の松岡虎王磨と南天堂

『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』の中に、敗戦を迎えた昭和二十年の秋深くなった頃、出版物卸商業協同組合が立ち上げられたとの記述がある。それは同十六年の日配の成立以来、特価本業界も統制下に置かれ、市会も開くことができなかった状況に対し…

古本夜話286 松木玉之助、マツキ書店、金鈴社

坂東恭吾へのインタビュー、「三冊で一〇銭! ポンポン蒸気の中で本を売る」(尾崎秀樹・宗武朝子編、『日本の書店百年』所収、青英舎)の中に、言及しておかなければならない名前も出てきていた。それは残本をばらしている博文館の倉庫で、坂東が出会った人…

出版状況クロニクル59(2013年3月1日〜3月31日)

出版状況クロニクル59(2013年3月1日〜3月31日)アダム・スミスは『国富論』第一編において、次のようなことを述べている。労働生産力を向上させた機械の発明や改善は哲学者、もしくは思索家によってなされたのであり、社会の進歩につれて、哲学や思索は他の…

古本夜話285 坂東恭吾と博文館の月遅れ雑誌

本連載261で、私が出版業界の寅さんとよんでいる坂東恭吾のことを書いておいたが、彼は特価本業界のパイオニアであり、その走りとしての月遅れ雑誌を最初に扱った立役者だった。坂東が寅さんたるゆえんはその販売の語り口に求められ、彼の口上の無類の面…

古本夜話284 福永書店と徳富健次郎『小説富士』

前回、創元社の矢部良策の最初の出版『文芸辞典』は、大正七年に福永一良が福永書店を創業し、徳富蘆花の『新春』を処女出版したことに刺激を受け、矢部も大阪で出版社をと考えたことがきっかけだと既述しておいた。福永書店は特価本業界と直接関係ないけれ…

混住社会論15 大友克洋『童夢』(双葉社、一九八三年)

大友克洋の『童夢』において、まず迫ってくるのは、突出した団地の風景とその描写に他ならないし、それは冒頭の見開き二ページの夜の高層団地の風景に象徴されているといえよう。そこでは屋上も俯瞰されているが、まったく人影もなく、「どさッ」という小さ…

古本夜話283 創元社『文芸辞典』と大谷晃一『ある出版人の肖像』

日本出版社、湯川弘文社に続く錦城出版社の東京進出は、創元社の東京での成功と活躍に影響を受けているのではないかと既述しておいた。しかし創元社にしても、先行する日本出版社や湯川弘文社の出版活動に影響を受けてスタートしたことは間違いないし、それ…

古本夜話282 錦城出版社、大坪草二郎、太宰治『右大臣実朝』

前回の崇文館の藤谷芳三郎や立川文明堂の立川が経営に関わった大阪の出版社についても書いてみる。それは錦城出版社で、湯川松次郎の『上方の出版と文化』の中にも出てくるのではないかと期待していたが、まったく言及されていなかった。そのために脇阪の『…