出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2013-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話319 共楽館『名人遺跡囲碁独案内』と丁未会出版部『囲碁定石集』

前回 吉田俊男の『奇美談碁』やその他の囲碁書にもふれたが、それこそ囲碁に関する出版物は実用書を一つの柱とする特価本業界の定番商品であり、明治時代から多くの刊行を見ていたと思われる。たまたまそのことを示す囲碁書を二冊入手したので、それを書いて…

混住社会論31 青山真治『ユリイカ EUREKA』(JWORKS、角川書店、二〇〇〇年)

(映画)(小説) 一九九〇年代のVシネマの隆盛は前回の三池崇史のみならず、多くの優れた映画監督を輩出させた。青山真治もその一人であり、最初に『Helpless』(九六年)を観て、これまでと異なる郊外のロードサイドの犯罪と物語の萌芽を感じた。しかしそれ…

出版状況クロニクル63(2013年7月1日〜7月31日)

出版状況クロニクル63(2013年7月1日〜7月31日)旧知の読者から連絡が入り、様々な情報を伝えてくれたのだが、それには本クロニクルを続け、最後まで見届けてほしいとの依頼も含まれていた。 彼は大手取次経験者なので、取次関係に限定して要約してみる。取…

古本夜話318 小川寅松、尚栄堂、吉田俊男『奇美談碁』

前回、小川菊松が大洋堂出身であり、その大洋堂からは多くの出版人たちが誕生したことを既述しておいた。それに関連して小川がどうして言及しなかったのか、やはり何らかの事情が潜んでいると思われる人物と出版社がある。その人物とは小川寅松、出版社は尚…

混住社会論30 三池崇史『新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争』(大映、一九九五年)

日本映画状況とそのインフラを考えるにあたって、一九八〇年代に立ち上がったビデオレンタル市場を抜きにして語れないだろう。とりわけ九〇年代に入ると、Vシネマというジャンルが急速に台頭してくる。Vシネマとは劇場公開されないビデオレンタル専門映画の…

古本夜話317 大洋堂、小川菊松、加藤美倫『世界に於ける珍しい話と面白い噺』

本連載で『出版興亡五十年』を始めとする誠文堂新光社の小川菊松の著作を拳々服膺してきたが、彼のルーツも特価本業界の系譜上にあると考えていいだろう。小川の出版人生は十六歳で上京し、大洋堂に入ったことから始まっている。小川のことも含んで、大洋堂…

古本夜話316 金竜堂と原浩三『日本好色美術史』

前回、また坂東恭吾に登場してもらったので、再びもう少し彼のことをたどってみる。『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』における「坂東恭吾の足跡」によれば、月遅れ雑誌の販売から始まり、大正十年頃から三星社として「造り本」の出版と特価本の卸に…

混住社会論29 篠田節子『ゴサインタン・神の座』(双葉社、一九九六年)

(双葉文庫) 神 荒野の道より民を導きたまふ 「出エジプト記」 折口信夫が「国文学の発生(第三稿)」(、『古代研究(国文学篇所収)』所収、『折口信夫全集』第一巻、中公文庫)でいうところの神としての「まれびと」が、古代ならぬ現代の郊外に、しかも混…

古本夜話315 木村小舟と『図解趣味の仏像』

本連載261で木村小舟が坂東恭吾のために、雑誌『興国少年』(後に『皇国日本』)を立案し、昭和十年代に坂東が七年間にわたってその発行に携わっていたことを既述しておいた。木村は博文館の『少年世界』に寄稿したことがきっかけで、その主筆巌谷小波に…

古本夜話314 淡海堂と南川潤『心の四季』

前回、梧桐書院が淡海堂系列の出版社であることを記しておいたが、淡海堂については『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』の中にまとまった紹介がなされていない。本来であれば、淡海堂と酒井久三郎はこれまでに取り上げてきた春江堂、大川屋、河野書店…

混住社会論28 馳星周『不夜城』(角川書店、一九九六年)

少しばかり時代が飛んでしまうけれど、前回の大沢在昌『毒猿』における新宿と台湾の関係の後日譚と見なしていい作品が九六年に刊行される。それは馳星周の『不夜城』である。『不夜城』は次のように書き出されている。 (角川文庫) 土曜日の歌舞伎町。クソ熱…

古本夜話313 中山太郎『日本民俗学辞典』と梧桐書院

特価本業界とともに歩んだのはプロフィルの定かでない著者、作家、編集者だけでなく、本連載でも既述してきたように、梅原北明一派や宮武外骨たちも同様で、彼らの本が成光館などの出版社から再版されていることからもうかがわれる。また民俗学に関係する人…

古本夜話312 高木斐川『政治及社会思想』(教文社)と高木、古賀峡谷編『世界風俗奇聞大観』(廣文社)

ここで大阪から東京に戻り、もう少し特価本業界のことを続けてみよう。まだ本が残されているからだ。特価本業界にはプロフィルの定かでない著者や作家や編集者たちが多くいて、「造り本」を始めとする多種多様な出版企画に関係していたと思われる。そのよう…

混住社会論27 大沢在昌『毒猿』(光文社カッパノベルス、一九九一年)

一九九〇年に発表された大沢在昌の『新宿鮫』(光文社カッパノベルス)と九一年の第二作『毒猿』はいずれも一匹狼の刑事の新宿鮫を主人公とし、その舞台を新宿としていることは変わらないけれど、後者は私のいう混住小説のファクターを導入したことによって…

古本夜話311 久世勇三『漫画と落語のどぼとけ』、霞亭会、大鐙閣

ここでひとまず大阪の出版業界への言及を終えるので、最後にもう一本付け加えておきたい。それは大鐙閣についてである。拙稿の「天佑社と大鐙閣」(『古本探究』所収)、本連載172において大鐙閣と『解放』と新光社の関係、同193でゾラの翻訳を刊行し…

古本夜話310 小笠原白也『女教師』と青木嵩山堂

二回大阪の和本に関して続けたので、もう一回それについて書いてみる。これもまったく偶然なのだが、脇阪要太郎が『大阪出版六十年のあゆみ』で語っている大阪の近代文芸書の草分けで、駸々堂と並ぶ青木嵩山堂の一冊でもある。それは痛みの激しい菊判二百八…

出版状況クロニクル62(2013年6月1日〜6月30日)

出版状況クロニクル62(2013年6月1日〜6月30日)ヤマダ電機の13年度の売上高は1兆7014億円で、これは12年の出版物売上高1兆7398億円とほとんど同じであることを示している。このヤマダ電機の他に、エディオン、ケーズ、ヨドバシカメラを加えた家電量販店4社…

古本夜話309 駸々堂、坪内逍遥『当世書生気質』、『花道全書』

脇阪要太郎は『大阪出版六十年のあゆみ』において、明治二十年代後半の大阪の新しい文芸書出版の草分けは駸々堂と嵩山堂によって担われたと述べている。その出版と書店を兼ねた駸々堂が破綻したのは今世紀を迎えた最初の年であり、それは出版危機の象徴的事…

古本夜話308 田中宋栄堂と近藤元粋評訂『李太白詩集』

また続けて大阪の出版社のことにふれてきたので、田中宋栄堂=秋田屋宋栄堂を取り上げておきたい。この版元に関して、特価本業界とダイレクトな関係は見ていないけれど、本連載279で示したように、ずっと参照してきた『大阪出版六十年のあゆみ』の著者の…

混住社会論26 内山安雄『ナンミン・ロード』(講談社、一九八九年)

前回の笹倉明の『遠い国からの殺人者』が発表された同じ八九年に、内山安雄の『ナンミン・ロード』が「特別書き下ろし長篇小説」として、講談社から刊行された。これは中絶してしまった船戸与一の「東京難民戦争・前史」の系列に位置する作品と見なせるし、…

古本夜話307 石井琴水『変態郷土史』と石田龍蔵『明治変態風俗史』

本連載などで、昭和円本時代がエロ・グロ・ナンセンスの時代でもあり、梅原北明たちによって多くのポルノグラフィが、アンダーグラウンド的出版として刊行されたことに言及してきた。その時代にあって、「変態」や「猟奇」という言葉が流行語にもなっていた…

古本夜話306 天田愚庵『東海遊侠伝』、神田伯山『清水次郎長』、村上元三『次郎長三国志』

講談において、立川文庫を発祥とする猿飛佐助や霧隠才蔵などの真田一族の物語が大きな魅力であったことを、新島広一郎の『講談博物志』を始めとして、当時の多くの読者が語っている。また実際にそれらの物語は現在に至るまで、様々な小説、映画、コミックな…

混住社会論25 笹倉明『東京難民事件』(三省堂、一九八三年)と『遠い国からの殺人者』(文藝春秋、八九年)

(集英社文庫) 前々回の佐々木譲『真夜中の遠い彼方』や前回の船戸与一「東京難民戦争・前史」に先駆け、八三年に笹倉明によって『東京難民事件』が三省堂から出されている。これは小説ではなくノンフィクションであるが、まったく無視されたようだ。だが幸…

古本夜話305 富士屋書店「長編講談」と『侠客国定忠治』

もう一編だけ、新島広一郎の『講談博物志』に関連して書いておく。それも新島の収集によって明らかになったのであり、戦後出されたものではあるけれど、明らかに戦前版の焼き直しだと確認できたからだ。それは富士屋書店から昭和三十年に刊行された『侠客国…

古本夜話304 三教書院「袖珍文庫」と集文館「日本歴史文庫」

新島広一郎の『講談博物志』に、シリーズとしての掲載ではないけれど、立川文庫のところで、三教書院の「袖珍文庫」の書影を掲載している。それは脇阪要太郎の『大阪出版六十年のあゆみ』で、立川文庫は東京のアカギ文庫にヒントを得たと述べられているが、…

混住社会論24 船戸与一「東京難民戦争・前史」(徳間書店、一九八五年)

これは一九八五年に『問題小説』に「東京難民戦争・前史」の総タイトルで、「運河の流れに」(1月号)、「巣窟の鼠たち」(7月号)、「銃器を自由を!」(10月号)と三回にわたって連載され、残念なことにそのまま中絶してしまった作品である。その後、『男…

古本夜話303 講談社『少年講談』と『評判講談全集』

新島広一郎の『講談博物志』の中に挙げられた講談本シリーズをリストアップしながら、あらためて確認したのは、講談本出版が赤本業界=特価本業界、それらと取引している大阪の出版社群、及び講談社によって担われていた事実である。大日本雄弁会は明治四十…

古本夜話302 新島広一郎『講談博物志』と講談本出版

前回の末尾のところで、新島広一郎の『講談博物志』に言及したが、これは講談本に対する情熱と長い年月にわたる収集をベースにした驚くべき労作である。その収集は明治二十年代の大川屋の講談本から始まり、昭和六十年の講談社の「歴史講談」に至る、ほぼ百…

出版状況クロニクル61(2013年5月1日〜5月31日)

出版状況クロニクル61(2013年5月1日〜5月31日) 今月インタビューした『裏窓』の元編集長飯田豊一から、大衆演劇に関する教示を得た。そこで早速調べてみると、焼津の黒潮温泉で常に観劇できることがわかり、出かけることにした。5月公演は劇団新で、昼の部…

古本夜話301 村田松栄館「評判長編講談」と『筑紫巷談妖術白縫譚』

前々回、またしても大阪の宝文館関連のことにふれたので、村田松栄館のことも取り上げておこう。村田松栄館は『全国出版物卸商業協同組合三十年の歩み』や脇阪要太郎の『大阪出版六十年のあゆみ』、湯浅末次郎の『上方の出版と文化』にもよく出てくるし、そ…