出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話

古本夜話744 中谷治宇二郎『考古学研究への旅』と『ドキュマン』

前回の松本清張の「断碑」の主人公木村卓治=森本六爾は、「N」という「同じ年配の考古学者」のパリからの手紙をもらい、自分も「フランスに行って箔をつけたい」と思い、妻の実家の援助で、昭和六年にシベリア経由でフランスに向かう。 木村のパリでの一年…

古本夜話743 森本六爾と雄山閣「考古学講座」

藤森栄一の『二粒の籾』に添えられた「森本六爾年譜」で、森本の処女作『金鐙山古墳の研究』が大正十五年に雄山閣から出されたことを知った。もちろん未見だが、その時彼は二十三歳だった。(『二粒の籾』) 雄山閣に関しては本連載519などでも取り上げて…

古本夜話742 松本清張「断碑」のモデルと濱田耕作『東洋美術史研究』

前回の松本清張の「断碑」は在野の考古学者森本六爾をモデルとする小説だが、森本を木村としているように、多くの人物が仮名となっている。その中で、鳥居龍蔵は実名で登場し、森本の弟子に当たる人々はイニシャル処理され、人名はフィクションとノンフィク…

古本夜話741 葦牙書房、森本六爾、松本清張「断碑」

本連載737において、小林行雄が在野の考古学者で、浜田耕作に認められ、京大考古学研究室助手となったことを既述しておいた。彼は森本六爾たちの東京考古学会にも加わっていた。 その東京考古学会に関連して、葦牙書房の肥後和男『文化と伝統』の巻末に、…

古本夜話740 須井一『清水焼風景』

これも例によって浜松の時代舎で見つけ、購入してきた一冊だが、須井一の『清水焼風景』という小説集がある。これは五編の中編、長編が収録され、そのうちの長編がタイトルになって言う。改造社から昭和七年に刊行されているけれど、作家名を初めて目にする…

古本夜話739 土居客郎、恒星社、渡辺敏夫『暦』

本連載730の山本実彦『蒙古』の参考資料として、水島治男の 『改造社の時代・戦前編』『同戦中編』(図書出版社)を読み、ふたつほど気になっていたことが氷解したので、それらを二編挿入しておきたい。 水島は大正十三年に創立された夜間の大学である早…

古本夜話738 座右宝刊行会とアンダーソン『黄金地帯』

前回の『古代の南露西亜』の訳者による「参考書目」の中に、アンデルソンの『黄土地帯』と『支那の原始文化』の二冊が挙げられ、前者が昭和十七年に座右宝刊行会から刊行されていることを既述しておいた。ただ著者表記はアンダーソンとあるが、これだけは入…

古本夜話737 桑名文星堂とロストウツエフ『古代の南露西亜』

前回の『シベリヤ年代史』が刊行された昭和十九年に、やはりロストウツエフの『古代の南露西亜』が坪井良平、 本亀次郎訳で、京都の桑名文星堂から出版されている。函の有無は不明だが、並製の菊判四二〇ページ、初版二千部、定価は十二円五十銭で、千ページ…

古本夜話736 日本公論社とシチェグロフ、吉村柳里訳『シベリヤ年代史』

大東亜戦争下において、その大東亜共栄圏幻想の拡大とパラレルに、この時期にしか刊行されなかったと思われる翻訳書を見ることができる。そのような一冊として、前回の『蒙古社会制度史』と同じく、シチェグロフの『シベリヤ年代史』も挙げられる。 しかもこ…

古本夜話735 ウラヂミルツォフ『蒙古社会制度史』

本連載725でドゥルーズ/ガタリ『千のプラトー』において、原注に『蒙古社会制度史』が挙げられていることにふれた。幸いにしてその『蒙古社会制度史』を入手できたので、ここで取り上げておきたい。 同書はソ連の有数の蒙古学者ウラヂミルツォフが一九三…

古本夜話734 小池新二『汎美計画』

前回、山岳書の翻訳者の小池新二にふれ、彼が日本工作文化連盟を組織し、デザインや建築の面からの国策協力を推進していたことにも言及しておいた。 その小池の主著『汎美計画』が手元にある。昭和十八年に発行者を福山須磨子とするアトリエ社から初版二千部…

古本夜話733 博文館「最新世界紀行叢書」とベヒトールト『ヒマラヤに挑戦して』

本田靖春の『評伝今西錦司』が『山と渓谷』に連載されたことを象徴するように、同書は今西の京都一中と三高での山岳部体験から始められている。そして大興西嶺探検に加わる梅棹忠夫、吉良龍夫、川喜田二郎たちも三高山岳部に属し、当然のことながら全員が京…

古本夜話732 磯野富士子『冬のモンゴル』

前回、昭和十七年の『大興安嶺探検』が戦後の二十七年になって刊行されたことを既述しておいた。それは今西錦司の内蒙古レポートも同様で、第二回調査は『草原行』(府中書院、昭和二十二年)、第三回調査は『遊牧論そのほか』(秋田屋、昭和二十三年、平凡…

古本夜話731 昭和十七年の『大興安嶺探検』

本連載719などの今西錦司がモンゴルの張家口に新設された蒙古善隣協会の西北研究所長として迎えられたのは昭和十九年四月で、京大からも所員が召喚された。それには前史があるので、たどってみたい。 昭和十四年に今西は、会長を羽田亨京大総長とする京都…

古本夜話730 山本実彦『蒙古』とハルヴァ『シャマニズム』

昭和十年に山本実彦の『蒙古』が改造社から刊行されている。彼は近代出版業界の立役者というべき人物だが、改造社も消滅して半世紀以上経つので、その立項を鈴木徹造の『出版人物事典』から引いておこう。 [山本実彦 やまもと・さねひこ]一八八五~一九五…

古本夜話729 萬里閣書房『大支那大系』

これは昭和十年代の出版物ではないけれど、昭和初期の円本時代に萬里閣書房から『大支那大系』が刊行されている。所謂支那シリーズとしては先駈けのように思われるので、ここで取り上げておく。ただ『全集叢書総覧新訂版』で確認してみると、昭和五年に全十…

古本夜話728 創元社「アジア問題講座」

前回、戦後の出版ではあるけれど、東京創元社の京都大学文学部東洋史研究室編『東洋史辞典』は、平凡社の『東洋歴史大辞典』の延長線上に成立したという推測を述べておいた。それはこれも既述しておいたように、『東洋歴史大辞典』の主たる執筆者たちは東京…

古本夜話727 平凡社『東洋歴史大辞典』

平凡社の『東洋歴史大辞典』は『平凡社六十年史』を確認してみると、昭和十二年三月から十四年八月にかけて、全九巻が刊行されている。その刊行とパラレルに、昭和十二年七月には支那事変、完結の十四年五月にはノモンハン事件が起きている。まさに日本とア…

古本夜話726 冨山房「支那歴史地理叢書」と内田吟風『古代の蒙古』

前回のドーソン、田中萃一郎訳『蒙古史』と同様に、本連載724で柳田泉も挙げていなかったけれど、やはり昭和十五年に冨山房から内田吟風の『古代の蒙古』が刊行されている。それは「支那歴史地理叢書」の第五篇としてで、「同叢書」は巻末広告によれば、…

古本夜話725 ドーソン、田中萃一郎訳『蒙古史』とドゥルーズ/ガタリ『千のプラトー』

前回、成吉思汗に関する基礎文献に言及したけれど、どうしてなのか、柳田泉も挙げていなかったモンゴル書があるので、それにもふれてみたい。それはドーソンの『蒙古史』上下で、明治四十二年に田中萃一郎訳として刊行され、前回の那珂通世『成吉思汗実録』…

古本夜話724 柳田泉『成吉思汗平話 壮年のテムヂン』

柳田泉が昭和十七年に大観堂から、『成吉思汗平話 壮年のテムヂン』なる一冊を上梓している。前々回の尾崎士郎『成吉思汗』の刊行は同十五年だから、時代背景はもちろんのことだが、おそらく尾崎の作品に刺激を受け、共感を得て書かれたのではないだろうか。…

古本夜話723 小谷部全一郎『増補改版成吉思汗は源義経也』

前回の尾崎士郎『成吉思汗』において、尾崎が小谷部全一郎の『成吉思汗は源義経也』の一節を引いていることを既述しておいた。その小谷部全一郎の著書が手元にあるので、これも書いておこう。(外函) その前に書誌的なことを述べておけば、『成吉思汗は源義…

古本夜話722 尾崎士郎『成吉思汗』

前回、戦後に井上靖や司馬遼太郎が西域小説を書いていたことにふれたが、それは彼らだけでなく、大東亜戦争下においてはいくつもの作品が発表されたと考えられる。その典型としての尾崎士郎『成吉思汗』が手元にある。これも例によって、浜松の時代舎で購入…

古本夜話721 フレミング『ダッタン通信』とスミグノフ『コンロン紀行』

昭和三十年代末の『ヘディン中央アジア探検紀行全集』全十一巻に続いて、四十年代に入り、同じ白水社から『西域探検紀行全集』全十六巻が刊行された。後者は監修を深田久弥、本連載716の江上波夫、協力を長沢和俊とするもので、推薦文というべき「刊行に…

古本夜話720 大日本回教協会、照文閣『回教民族運動史』、川原久仁於

前回、善隣協会の名前を挙げたが、本連載577の回教圏研究所もここに属していたのである。この回教圏研究所とは異なるかたちで、東京モスクが開堂された昭和十三年に、続いて大日本回教協会も設立され、これは前首相、陸軍大将林銑十郎を会長とし、評議員…

古本夜話719 蒙古善隣協会と西北研究所

前々回の小川晴暘の『大同の石仏』に、蒙古旅行に関して善隣協会や京都の東方文化研究所への謝意があることにふれた。だが前回の『蒙古高原横断記』においては、その探検が小川に先駆ける昭和六年と十年だったので、蒙古の張家口から出発しているにもかかわ…

古本夜話718 江上波夫と東亜考古学会蒙古調査班『蒙古高原横断記』

本連載357の『瓜哇の古代芸術』や前回の『大同の石仏』ではないけれど、昭和十年代から、「東亜」に関する図版写真入りの報告書や研究などが多く出されていくようになる。そのような一冊が、これも本連載706の日光書院から、昭和十六年に刊行されてい…

古本夜話717 小川晴暘『大同の石仏』と「アルス文化叢書」

前回の「ナチス叢書」と同時期に、やはりアルスから「アルス文化叢書」が出されている。これはB6判、多くのアート刷写真の収録が特色のシリーズで、定価が「ナチス叢書」」の六十銭に対して、一円二十銭なのはそれゆえだ。実際に手元にある『大同の石仏』も…

古本夜話716 高嶋辰彦『皇戦』

藤沢親雄、スメラ学塾、「ナチス叢書」と続けてきたので、ここで本連載130でその名前を挙げている高嶋辰彦のことも書いておきたい。 その前に昭和二十六年刊行の木下半治編『現代ナショナリズム辞典』(学生文庫、酣燈社)の中に、高嶋の名前も見えるスメ…

古本夜話715 八條隆孟『ナチス政治論』と「ナチス叢書」

続けてもう一編、藤沢親雄絡みのシリーズのことも書いておきたい。それは本連載127でふれているアルスの「ナチス叢書」に関してで、その際には未見だった「同叢書」の一冊を入手したからだ。その一冊は昭和十六年刊行の八條隆孟の『ナチス政治論』である…