出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話

古本夜話966 萩原正徳、三元社、『旅と伝説』

昭和十年に創刊された『民間伝承』を読んでいると、雑誌の紹介欄に多くの民俗学に関連するリトルマガジンの新しい号の概要が記され、これらのトータルなコラボレーションによって、日本の民俗学も造型、展開されてきたことを実感させる。 その中に必ず『旅と…

古本夜話965 青磁社、米岡来福、桑田忠親『千利休』

伊波普猷『古琉球』を刊行した青磁社に関しては本連載393などでふれておいたように、この版元は山平太郎を発行者としていたが、出版社の戦時下の企業整備により、合併した八雲書林の鎌田敬止が編集長となり、折口信夫の『死者の書』を刊行したことを既述…

古本夜話964 稲村賢敷『沖縄の古代部落マキョの研究』

もう一冊の沖縄書は稲村賢敷の『沖縄の古代部落マキョの研究』で、昭和四十三年に販売所を琉球文教図書株式会社として刊行されている。定価は五弗とあり、本土復帰以前の出版だったことを伝えている。 (『沖縄の古代部落マキョの研究』) 奥付の「著者略歴…

古本夜話963 眞堺名安興と『沖縄一千年史』

もう二冊ほど沖縄書があるので、続けて書いてみる。 一冊は眞堺名安興、島倉龍治著『沖縄一千年史』で、昭和二十七年の四版とあり、発行者は福岡市の親泊政博、発行所は住所を同じくする沖縄新民報社、発売所は琉球文教図書株式会社となっている。 (『沖縄…

古本夜話962 笹森儀助『南嶋探験』

柳田国男は昭和三十六年に筑摩書房から刊行された『海上の道』(岩波文庫)の中で、笹森儀助の『南島探検』に言及し、次のように述べている。 笹森儀助の『南島探験』という一書は、明治二十六年(一八九三)かに、この人が沖縄県の島々を巡歴して、還ってき…

古本夜話961 比嘉春潮、崎浜秀明編訳『沖縄の犯科帳』

本連載958で、伊波普猷『古琉球』の「後記」が比嘉春潮と角川源義の連名で書かれていることを既述しておいた。後者の角川は昭和二十年に角川書店を創業し出版業界ではよく知られているので、ここでは前者の比嘉にふれてみたい。たまたま彼と崎浜秀明編訳…

古本夜話960 柳田国男と『山島民譚集』

前回ふれておいたように、金田一京助の『北蝦夷古謡遺篇』は「甲寅叢書」、知里幸恵の『アイヌ神謡集』は「爐辺叢書」の一冊として、それぞれ郷土研究社から刊行されたのである。(『北蝦夷古謡遺篇』) (『アイヌ神謡集』) 「甲寅叢書」に関しては、拙稿…

古本夜話959 金田一京助『北の人』と知里幸恵『アイヌ神謡集』

伊波普猷の『古琉球』の「改版に際して」の中に、青磁社の山平太郎が見え、「北人の『ユーカラ概説』に対して、南人の『おもろ概説』が欲しい」といわれ、それは少なくとも一ヶ年を要するので、代わりに『古琉球』の「改版」を提案したとの言があった。 その…

古本夜話958 伊波普猷『古琉球』

南島研究の嚆矢が、前回もその名を挙げた伊波普猷の『古琉球』であることは今さらいうまでもないだろうし、現在では今世紀に入って岩波文庫化もされ、読むことに関してもアクセスが容易になっている。ところがその出版史をたどってみると、それが困難な道筋…

古本夜話957 「爐辺叢書」と本山桂川『与那国島図誌』

前回の『生蕃伝説集』と併走するように、同時代に南島文献が出され始めていた。柳田国男研究会編『柳田国男伝』(三一書房)は、「甲寅叢書」の継続事業ともいうべき郷土研究社の「炉(ママ)辺叢書」が、南島研究史に大きな意味を持ち、全三十六冊のうち八冊が…

古本夜話956 佐藤融吉、大西吉寿『生蕃伝説集』と杉田重蔵書店

きだみのるは『道徳を否む者』の中で、台湾の町の印象に関して、「アルジェリア・モロッコに範を取ったと云われる台北の町は美しく、そして歩道は張り出した二階の下になって、日射が遮られていた」と記している。そして「植民地に漂う異種文化は少年の中に…

古本夜話955 トラピスト修道院と間世潜『トラピスチヌ大修道院』

きだみのるの『道徳を否む者』において、「私」は十五歳の少年時代を回想する。「少年」は台湾の父のところから東京の叔父の家に引き取られ、中学時代を送っていた。しかしそれは台湾の自然と光に包まれた暮らしと異なり、「溝泥の霧の中で生活しているよう…

古本夜話954 きだみのる『道徳を否む者』

もう一編、ジョゼフ・コットに関して書いてみる。 前回取り上げた小説 『道徳を否む者』は『きだみのる自選集』第二巻に収録されている。これは明らかにきだみのる=山田吉彦の自伝というべきものだが、「山村槙一の手記」によるとのサブタイトルが付されて…

古本夜話953 ジョゼフ・コットとオリバー・ロッジ『心霊生活』

本連載946から少し飛んでしまったが、もう一度山田吉彦に戻る。山田はきだみのるの名での『道徳を否む者』の中で、「J…C…」=ジョゼフ・コットのポルトレを描いている。コットのことは本連載926でもふれているが、もう少し詳細にたどってみる。 彼は日…

古本夜話952 花森安治、生活社『くらしの工夫』、今田謹吾

本連載927に続けて、同948でも生活社にふれたこともあり、やはり生活社に関しても一編を挿入しておきたい。それは後者を書き終え、浜松の時代舎に出かけたところ、ずっと探していた生活社の一冊を見つけることができたからでもある。 その一冊とは昭和…

古本夜話951 マスペロ『道教』

続けてマスペロに言及してみる。まず『世界名著大事典』(平凡社)の著者立項を挙げてみよう。 マスペロ Henri Maspero(1883-1945)フランスの中国学者。オリエント史の大家ガストン・マスペロの子。中国学者シャヴァンヌに師事。ハノイ極東学院研究員、コ…

古本夜話950 松山俊太郎、『法華経』、プシルスキー『大女神』

続けて一九三〇年前後のフランス民族学や社会学に大きな影響を与えたと推測される、トリックスター的な「パリのアメリカ人」であるW・B・シーブルックに言及してきた。 本連載935の松本信広はシーブルックがパリに現われる前に帰国している。彼の「巴里よ…

古本夜話949 シーブルック『アラビア遊牧民』と大陸書房

前回のシーブルックだが、真島一郎が「ヤフバ・ハベ幻想」(『文化解体の想像力』所収、人文書院)の「註」で付記しているように、一九六八年=昭和四十三年は「シーブルック元版」で、大陸書房から『アラビア遊牧民』(斎藤大助訳)と『魔法の島〈ハイチ〉…

古本夜話948 シーブルック、ミシェル・レリス、ドゴン族

これは別のところで書くつもりでいたけれど、マルセル・モースやその時代、及び前回の山田吉彦のモロッコ行とも密接にリンクしているので、ここに挿入しておく。 前回、フランス人類学の記念すべき始まりとしての西アフリカのダカール・ジプチ調査団の出発に…

古本夜話947 山田吉彦とモロッコ

山田吉彦もモースの弟子だから、彼のことももう少しトレースしておこう。彼は一九三九年にソルボンヌ大学を中退し、モロッコ旅行を経て、日本へと帰国する。そして二年後の昭和十八年に、マルセル・モース『太平洋民族の原始経済』の版元である日光書院から…

古本夜話946 松平斉光『祭ー 本質と諸相』とアウエハント『鯰絵』

『民族』に関係していた松本信広たちよりも少し遅れてパリに遊学した研究者がいる。それは松平斉光だった。 彼は明治三十年生まれで、大正十年東京帝大法学部卒業後、西洋思想史を講義するかたわらで、日本政治思想を探究する試みを続けていた。しかし北畠親…

古本夜話945 宇野円空『宗教民族学』と岡書院「人類学叢書」

マルセル・モースのもう一人の弟子は宇野円空である。彼も『文化人類学事典』に立項されているので、まずそれを引いてみる。 うのえんくう 宇野円空 1885-1949 宗教民族学者。京都の西本願寺派の尊徳寺で生まれる。1910年に東京帝国大学文科大学哲学科を卒…

古本夜話944 バーバラ・ドレーク、赤松克麿、赤松明子共訳『英国婦人労働運動史』春山行夫

前回の赤松智城が、社会運動家の赤松克麿の兄であることにふれておいた。たまたま昭和二年に厚生閣から出された赤松克麿、赤松明子共訳のバーバラ・ドレーク 『英国婦人労働運動史』を入手しているので、ここで一編を挿入しておきたい。 著者のバーバラ・ド…

古本夜話943 赤松智城『輓近宗教学説の研究』

『民族』の寄稿者にはもう一人の赤松がいて、それは「古代文化民族に於けるマナの観念に就て」(第一巻第三号~第六号)を連載している赤松智城である。彼は前回の赤松秀景と異なり、『文化人類学事典』(弘文堂)に立項が見出されるので、それをまず引いて…

古本夜話942 赤松秀景と高等研究実習院

マルセル・モースが弟子の一人として挙げていた「赤松」とは、昭和二年頃にモースの『呪術の一般理論』を翻訳した赤松秀景だと考えられる。これは岡書院の「原始文化叢書」全七巻のうちの一冊だが、それだけでなく、全冊が未見で、いずれも稀覯本と化してい…

古本夜話941 松本信広「巴里より」と『日本神話の研究』

『民族』における「巴里(松本信広君)より『民族』同人へ」は第一巻第一号だけでなく、同第二号へと続き、第二巻第一号からは「巴里より」として、同第三号、第三巻第一号まで三回分が掲載されている。以下「巴里より」と統一する。それは大正十四年から昭…

古本夜話940 桑原隲蔵『考史遊記』

前回の石田幹之助『増訂 長安の春』に関して、もう一編ふれるつもりでいたが、紙幅が尽きてしまったので、今回のイントロダクションとしたい。 それは「隋唐時代に於けるイラン文化の支那流入」で、これも隋唐における支那とイラン文化の関係に言及して興味…

古本夜話939 石田幹之助『増訂 長安の春』

同じく『民族』編集委員であった石田幹之助は、岩崎久弥が購入した東洋学文献を主とするモリソン文庫を委託され、そのための財団法人東洋文庫の運営に長きにわたって携わっていた。 その石田は昭和十六年に創元社から『長安の春』 を上梓しているが、昭和四…

古本夜話938 ラッツェル『アジア民族誌』

やはり『民族』編集委員の奥平武彦に関連する一編を挿入しておく。 佐野眞一は『旅する巨人』において、澁澤敬三が戦前の日銀時代に、マルクス経済学者の向坂逸郎や大内兵衛に対し、ひそかに経済的支援をするために、日銀の仕事をさせていたことにふれ、その…

古本夜話937 有賀喜左衛門『家』と名子制度

有賀喜左衛門も『民族』の編集委員の一人であり、昭和九年の日本民族学会の設立発起人も務めていた、その翌年に日本民族学会事務局は澁澤敬三邸内のアチック・ミューゼアムに移された。彼は明治三十年長野県生まれ、二高で渋澤と同期、岡正雄は二年後輩で、…