出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話

古本夜話924 神原泰『蘭印の石油資源』と「朝日時局新輯」

前回のリーゼンバーグの『太平洋史』の出版の翌年の昭和十七年に、やはり朝日新聞社から神原泰の『蘭印の石油資源』という七三ページのブックレット判の一冊が出ている。「蘭印」とはその見返しの地図に示されているように、オランダ植民地の東インド、つま…

古本夜話923 リーゼンバーグ、太平洋協会訳『太平洋史』

続けてマリノウスキー『西太平洋の遠洋航海者』、マーガレット・ミード『マヌス族の生態研究』、マルセル・モース『太平洋民族の原始経済』などの太平洋民族に関する文化人類学や社会学の著作にふれてきた。また以前にも本連載584などで太平洋協会とその…

古本夜話922 マルセル・モース『太平洋民族の原始経済』と山田吉彦

マリノウスキーは『西太平洋の遠洋航海者』などで、ニューギニアのトロブリアンド諸島におけるクラ、前回その名前を挙げたブランツ・ボアズは北米インディアンに見られるポトラッチという贈与の慣習を報告している。これらを参照しながら、「フランス人類学…

古本夜話921 マーガレット・ミード『マヌス族の生態研究』

ニューギニアで文化人類学のフィールドワークを試みていたのは、本連載916などのイギリス人のマリノウスキーばかりでなく、アメリカのマーガレット・ミードたちも同様だった。ただ前者が一九一四年から一八年にかけてのトロブリアンド諸島であったことに…

古本夜話920 河出書房『世界性学全集』とマリノウスキー『未開人の性生活』

本連載916で、マリノウスキーの『未開人の性生活』も新泉社から刊行されていることにふれたが、実はこれも復刊なのである。それも元版は戦前ではなく、戦後の昭和三十二年に河出書房の、『世界性学全集』第九巻として、泉靖一、蒲生正男、島澄の共訳で出…

古本夜話919 服部之総『明治維新史・唯物史観的研究』

これはまったくの偶然だけれど、前回の新泉社「叢書名著の復興」リストを挙げていて、そのうちの服部之総の『明治維新史』を最近購入したばかりであることに気づいた。それはA5判函入の一冊で、『明治維新史・唯物史観的研究』とあり、昭和五年に大鳳閣書房…

古本夜話918 小汀良久、新泉社、「叢書名著の復興」

前々回の新泉社の「叢書名著の復興」は戦前の、それも昭和四十年代前半の企画刊行だけれど、この「叢書」に関しては考えさせられることもあるし、現在の文庫問題とも重なってくるので、ここで取り上げておきたい。 それにこの「叢書」は単行本復刊ではなく、…

古本夜話917 青山道夫、ウエスターマルク『婚姻と離婚』、改造文庫

前回のマリノウスキー『未開社会における犯罪と慣習』が、新泉社「叢書名著の復興」の一冊としての刊行に際し、青山道夫は改造文庫版にはなかった「訳者の序」を寄せている。 (『未開社会における犯罪と慣習』、新泉社版) そこで青山は「この訳書をはじめ…

古本夜話916 マリノウスキー『未開社会における犯罪と慣習』『原始民族の文化』『神話と社会』

昭和四十二年に新泉社から復刊されたマリノウスキーの青山道夫訳『未開社会における犯罪と慣習』(「叢書名著の復興」6)に寄せた「解説」で、法社会学者の江守五夫は次のように始めている。 (『未開社会における犯罪と慣習』) ブロニスロゥ・カスミパル・マ…

古本夜話915 柳田国男はフレイザーと会っていたのか

前回、メアリー・ダグラスが十九世紀思想の「人間のものの考え方のはじまり」に関する「謎解き競争」の勝利者として、『金枝篇』のフレイザーを位置づけていたことを既述しておいた。日本において、この「謎解き競争」に加わったのは柳田国男、折口信夫、南…

古本夜話914 永橋卓介と『金枝篇』翻訳史

サビーヌ・マコーミック編『図説金枝篇』(内田昭一郎他訳、東京書籍、平成六年)の序文で、メアリー・ダグラスは次のように述べている。「人間のものの考え方のはじまりこそ、十九世紀の思想家たちがもっとも関心を寄せた問題」で、「無意味でばかげてみえ…

古本夜話913 生活社とフレイザー『金枝篇』

タイラーの『原始文化』と並んで、人類学や民俗学、神話と宗教研究に大きな影響を及ぼしたのはフレイザーの『金枝篇』に他ならないけれど、後者にしても、前者を抜きにしては語れないだろう。 この『金枝篇』は一八九〇年に全二巻の初版、一九三六年に全十三…

古本夜話912 ヤジロー伝説と窪田志一『岩屋天狗と千年王国』

比屋根安定の『日本基督教史』の「伝来時代」には、前回の中国景教碑文や太秦伝説の他にも、ヤジロー(以下、ヤジロオ、ヤジロウとも表記)伝説にほぼ一章が割かれ、彼はそれを「日本伝道の計画、パウロ弥次郎の経歴」と題し、次のように始めている。 一五四…

古本夜話911 比屋根安定『日本基督教史』

本連載906などで、タイラーの『原始文化』の訳者が比屋根安定で、彼がヴントの『民族心理学』も誠信書房から刊行していることを既述しておいた。この二冊に加えて、同じく昭和三十年代にマックス・ミュラーの『宗教学概論』の翻訳書もあることからすれば…

古本夜話910 刀江書院、小田内通敏『田舎と都会』、関根喜太郎

刀江書院から昭和十一年に小田内通敏の『田舎と都会』が刊行されている。その区付けには普及版とあるので、「はしがき」を確認してみると、昭和九年に元版が出されたようだ。しかもそれは「最初日本児童文庫の一篇として書かれたものであるが、今回刀江書院…

古本夜話909 ヴォルフ『民族文化史』、間崎万里、尾高豊作

前回のヴント『民族心理学』というタイトルにちなんでなのか、昭和九年に刀江書院からヴォルフの『民族文化史』という一冊が出されている。翻訳者は慶應大学教授で西洋史研究者の間崎万里である。彼は同書の巻末広告に見られるように、すでにシャール・リシ…

古本夜話908 ヴント『民族心理より見たる政治的社会』

前回の比屋根安定によれば、タイラー『原始文化』の所説はヴントの『民族心理学』へと継承されたこともあって、比屋根は後者も誠信書房から翻訳している。ただこれは全十九巻からなる『民族心理学』を要約した『民族心理学要論』の翻訳であるようだ。 (誠信…

古本夜話907  タイラー『原始文化』

前々回、画期的な写真集である熊谷元一『会地村』に関し、柳田国男からの言及がなかったことにふれたが、それは民俗、民族学の翻訳書も同様だと思われる。 (朝日新聞社版) 本連載755の棚瀬襄治『民族宗教の研究』や同758の南江二郎『原始民俗仮面考…

古本夜話906 熊谷元一と板垣鷹穂『古典精神と造形文化』

前回の『会地村』の出版に関して、熊谷元一は写真については板垣鷹穂、編集において本連載580の星野辰男を始めとする朝日新聞社出版局の人々に謝辞をしたためている。 だがそれだけでは『会地村』の成立と出版に至詳細な事情を把握できなかったといってい…

古本夜話905 熊谷元一『会地村』

前回の福田清人の『日輪兵舎』の奥付裏の新刊・重版案内に熊谷元一『会地村』を見出し、この長野県の「一農村の写真記録」もまた、大陸開拓の時代とパラレルに刊行された事実にあらためて気づいた。 (『会地村』、朝日新聞社版) といっても戦前版の『会地…

古本夜話904 「開拓文学叢書」と福田清人『日輪兵舎』

前回の「大陸叢書」と同時代に、やはり朝日新聞社から「開拓文学叢書」が出されている。それは「大陸叢書」と異なり、和田伝『大日向村』、福田清人『日輪兵舎』、丸山義二『庄内平野』の三冊だけで終わってしまったようだ。私にしても福田の『日輪兵舎』は…

古本夜話903 朝日新聞社「大陸叢書」とヤングハズバンド『ゴビよりヒマラヤへ』

本連載893の改造社の「大陸文学叢書」とシリーズ名が重なるものも出されている。それは本連載719などの今西錦司一統も読んでいたにちがいないシリーズで、昭和十四年から十七年にかけて、朝日新聞社から刊行された「大陸叢書」であり、『朝日新聞社図…

古本夜話902 「東洋民族史叢書」と岩永博『インド民族史』

前回の『印度支那』に続き、もうひとつ、同時代に出されたアジアを対象としたシリーズがあるので、これも書いておきたい。それは本連載831などの今日の問題社から刊行の「東洋民族史叢書」で、次のような構成となっている。 1 内藤智秀 『西アジア民族史…

古本夜話901 『世界地理政治大系』と室賀信夫『印度支那』

白揚社に関しては本連載115や229でふれているが、ここから昭和十六年に『世界地理政治大系』全十五巻が刊行され、そこには続けてふれてきた『印度支那』の一巻が収録されている。 監修者は地理学者で京都帝大教授の小牧実繁である。その「監修の辞」を…

古本夜話900 日下頼尚『邦人を待つ仏印の宝庫』

前回の久生十蘭『魔都』における安南のボーキサイト発掘権に関してだが、その数年後にそれに照応するような格好の一冊が出されている。その一冊とは東亜殖産理事の日下頼尚『邦人を待つ仏印の宝庫』で、昭和十六年に発行者を楠間亀楠とする文明社から刊行さ…

古本夜話899 久生十蘭『魔都』

続けて澁澤龍彥『高丘親王航海記』が戦前の南方論を背景とする高丘伝説を継承していることにふれたが、その南方論に関して、どうしても取り上げておかなければならない作品がある。それは昭和九年の東京を舞台としているけれど、物語の主要な人物とコード、…

古本夜話898 情報局記者会編『大東亜戦争事典』と大本営海軍報道部『珊瑚海海戦』

これまで本連載で言及してきた大東亜共栄圏や南進論などに関する大半が立項収録されている事典があり、それは前回の高丘親王も例外ではなく、次のように見出される。 真如法親王 金枝玉葉の御身を似つて今から千百年の昔、仏道の奥義を求められて御渡印の途…

古本夜話897 澁澤龍彦『高丘親王航海記』と西原大輔『日本人のシンガポール体験』

本連載895などの周達観の『真臘風土記』を参考文献のひとつとして書かれた幻想綺譚があり、それは澁澤龍彥の遺作となった『高丘親王航海記』(文藝春秋)に他ならない。この作品は昭和六十年から六十二年にかけて『文学界』に掲載されて、同年の十月に単…

古本夜話896 ポレ、マスペロ『カムボヂァ民俗誌』

本連載894のアンリ・ムオ『タイ、カンボヂア、ラオス諸王国遍歴記』の訳者の大岩誠は、昭和十九年にもカンボジア関連書を翻訳している。それはグイ・ポレ、エヴリーヌ・マスペロ著『カムボヂァ民俗誌』で、個人訳ではなく、浅見篤との共訳である。大岩の…

古本夜話895 ピエール・ロティ『アンコール詣で』と周達観『真臘風土記』

ピエール・ロティの『アンコール詣で』は佐藤輝夫訳で、昭和十六年に白水社から刊行されている。訳者の「はしがき」には、「これが訳されて、今日南方問題の喧しい折柄、少しでも曾てのクメール文化の一端を日本の読者に知って貰うことが出来たら」との主旨…