出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話

古本夜話801 吉江孤雁『緑雲』と如山堂

これもまた毎度お馴染みのことになってしまうけれど、前回の『吉江喬松全集』に関する一文を書いてから、浜松の時代舎に出かけたところ、吉江孤雁の『緑雲』を見つけてしまったのである。これは吉江の前史としての孤雁名義ゆえに全集には収録されていないが…

古本夜話800 白水社『吉江喬松全集』とゾラ

前回の辰野隆『仏蘭西文学』の企画の範となったのは、昭和十六年に刊行された『吉江喬松全集』だったと思われる。これはその前年に亡くなった吉江の一周忌に出されたもので、当初全六巻予定だったが、好評、もしくは収録論稿などが増えたためか、十八年に全…

古本夜話799 辰野隆『仏蘭西文学』と改造社『フロオベエル全集』

前回ふれた福武書店の『辰野隆随想全集』は「随想」とあるだけに、辰野のフランス文学研究者としての仕事は第3巻の『フランス文芸閑談』にいわば抄録され、白水社の上下巻、A5判九〇〇ページに及ぶ『仏蘭西文学』はほとんどが省かれてしまったと推測される。…

古本夜話798 弘文堂書房と辰野隆『印象と追憶』

渡辺一夫訳のリラダン『トリビュラ・ボノメ』は「辰野隆博士に捧ぐ」との献辞がしたためられている。それはこの翻訳が辰野の註解などの「書き込み入り御本」を活用した「答案」で、いわば「堂々たるカンニング」によっているからだと述べられている。 渡辺は…

古本夜話797 リラダン『トリビュラ・ボノメ』と「白鳥扼殺者」

前々回、『ボードレール全集』や『プロスペル・メリメ全集』の訳者の一人である渡辺一夫が、装幀家の六隅許六に他ならないことを既述しておいた。それらだけでなく、渡辺は昭和十年代半ばのフランス文学研究と翻訳において、その中心的なポジションにいたは…

古本夜話796 細川書店、「細川叢書」、『天野貞祐著作集』

前回、杉捷夫編訳『メリメ怪奇小説選』を挙げたが、この中に「ヴィーナスの殺人」が収録されている。これは『プロスペル・メリメ全集』第三巻所収の「イールのヴィーナス」を改題したものである。 (『プロスペル・メリメ全集』) この杉捷夫訳「イールのヴ…

古本夜話795 『プロスペル・メリメ全集』と堀辰雄訳「マダマ・ルクレチア小路」

『プロスペル・メリメ全集』のほうは『ボードレール全集』と異なり、全六巻を架蔵している。これも六隅許六=渡辺一夫装幀で、渡辺も第二巻の「エトルリアの壺」や「雙六将棋の勝負」などの訳者であるけれど、同巻には左翼から転向後の水野成夫が「シャルル…

古本夜話794 河出書房『ボードレール全集』とベンヤミン

河出書房は昭和九年の『バルザック全集』に続いて、十年には『モーパッサン傑作短篇集』、十三年には『ボードレール全集』、『プロスペル・メリメ全集』を刊行するに至る。(『バルザック全集』)(『モーパッサン傑作短篇集』) (『プロスペル・メリメ全集…

古本夜話793 杉山英樹『バルザックの世界』

前回のクルティウスの『バルザック論』は昭和十七年九月刊行だが、それに先行して、同年一月に中央公論社から杉山英樹の『バルザックの世界』が上梓されている。これはA5判並製で、『バルザック論』の装丁や造本に比べ、地味な一冊であるけれど、日本人によ…

古本夜話792 野上巖とクルティウス『バルザック論』

河出書房における昭和九年と十六年の二度に及ぶ『バルザック全集』の刊行は、他に外国文学としての例を見ていないはずで、それだけバルザックが読者を得ていたことを意味しているのだろうか。それとも単なる焼き直しの金融出版と考えるべきなのか、その判断…

古本夜話791 河出書房『バルザック全集』と『セラフィタ』

前回の河出書房の『新世界文学全集』の翻訳企画へと結実していく伏線は、それまでに刊行されていた、主としてフランス文学の個人全集などに胚胎していたのではないだろうか。 その先駆けは昭和九年に刊行された『バルザック全集』だったように思われる。これ…

古本夜話790 河出書房と『新世界文学全集』

河出書房は昭和十年代になって、本連載628や783で既述しておいたように、多くの全集類の刊行を始めている。しかもその特色は外国文学の翻訳に顕著だ。それはこれまでもふれてきたが、河出書房が社史や全出版目録を刊行していないので、詳らかな経緯と…

古本夜話789 『阿部知二自選集』と「野の人」

本連載785で、『阿部知二自選集』にふれ、河上徹太郎の証言を引き、同787において、昭和十年代半ばの「間違ひなく売れる」四人の作家の一人としての阿部の『北京』を紹介しておいた。他の三人は島木健作、石川達三、丹羽文雄だが、島木は正続『生活の…

古本夜話788 ゴビ沙漠学術探検隊編『ゴビの沙漠』と目黒書店

前回、阿部知二の『北京』において、支那が有史以前のゴビ砂漠にたとえられていることにふれ、それで閉じた。 実はそれから数日後、まったく偶然に浜松の時代舎で、ゴビ沙漠学術探検隊編『ゴビの沙漠』を見つけ、購入してきたばかりなのである。つまりここで…

古本夜話787 新潮社『昭和名作選集』と阿部知二『北京』

昭和十年代半ばには本連載でふれてきた実業之日本社や河出書房だけでなく、多くの日本文学シリーズが刊行されていたし、驚くほどの売れ行きを見ていたのである。 本連載767の『道徳と教養』の中で、河上徹太郎は「昭和十四年度文壇の回顧」において、本年…

古本夜話786 岸田国士『力としての文化』

大東亜戦争下における出版の謎に関して、本連載でもずっとふれてきているし、前回の河出書房の例を挙げたばかりだが、そのことを考えるに当たって、恰好の一冊があるので、ここで取り上げてみたい。 それは岸田国士の『力としての文化』で、「若き人々へ」と…

古本夜話785 河出書房「短篇集叢書」

「書きおろし長篇小説叢書」や「記録文学叢書」や『シナリオ文学全集』と同様に、やはり同時代に河出書房から「短篇集叢書」が刊行されている。だがこれは『日本近代文学大事典』にも解題や明細は収録されておらず、たまたま手元に二冊あったので、それを知…

古本夜話784 飯島正他『欧米シナリオ傑作集』

前回の河出書房の「記録文学叢書」の既刊書として、飯島正の『バウンティ号の叛乱』をと挙げておいた。飯島に関しては本連載628などでふれているように、やはり同時期に河出書房から刊行されていた『シナリオ文学全集』の責任編輯者の一人だった。その際…

古本夜話783 「記録文学叢書」、前田河広一郎『サッコ・ヴァンゼッティ事件』、井伏鱒二『ジョン万次郎漂流記』

前回の井伏鱒二『多甚古村』の巻末広告に、「直木賞受賞作品」と銘打たれた『ジョン万次郎漂流記』が掲載されていることを既述していた。それは一ページジ広告で、菊池寛の「直木賞も井伏君の『ジョン万次郎漂流記』を得て、新生命を招き得たと思ふ」を始め…

古本夜話782 井伏鱒二『多甚古村』、河出書房、「書きおろし長編小説叢書」

本連載771の『日本語録』で、保田与重郎の著作への言及はひとまず終えるし、しかもそれが「新潮叢書」収録でもあり、これから戦時下の小説叢書類を取り上げてみたい。 本連載767の河上徹太郎の『道徳と教養』において、彼が『東大新聞』(昭和十四年十…

古本夜話781 ロンブロオゾオ『天才論』と辻潤

前回のノルダウの邦訳『現代の堕落』には献辞名が省略されているが、ダイクストラが『倒錯の偶像』で指摘しているように、チェザーレ・ロンブローゾに捧げられている。それはロンブローゾたちの『女性犯罪者』(未訳)において、女性犯罪者たちが男性的な特…

古本夜話780 マックス・ノルダウ『現代の堕落』

しばらくぶりで前々回「大日本文明協会叢書」にふれたこと、またかなり長きに渡って探していたその中の一冊を最近になって入手したこともあり、これも取り上げておきたい。 それはマックス・ノルダウの『現代の堕落』で、大正三年に大日本文明協会から刊行さ…

古本夜話779 羽太鋭治、澤田順次郎『最近犯罪の研究』と天弦堂

中村古峡の日本変態心理学会=日本精神医学会が、当時の「変態」というコードを通じて警察講習所などの権力構造とリンクしていたこと、及び『変態性欲』の主筆の田中香涯が羽太鋭治や澤田順次郎と並んで、「性欲三銃士」と称せられていたことを既述しておい…

古本夜話778 コーリアット『変態心理』と大日本文明協会

前回の北野博美『変態性欲講義』の参考文献として、大日本文明協会から翻訳刊行されたクラフト・エビングの『変態性欲心理』を挙げ、北野の著書もそれをベースにしていることを既述しておいた。 (ゆまに書房復刻版) その大日本文明協会の「大日本文明協会…

古本夜話777 北野博美『変態性欲講義』

前々回の上田恭輔『生殖器崇拝教の話』の内容紹介に、「本書は当今大人気の性欲問題を捉へて流行の風潮に乗ぜんとするキワ物では御座らぬ」という一文が見えていた。それを読んで、大正が「当今大人気の性欲問題」時代でもあったことを想起させてくれた。 そ…

古本夜話776 神谷敏夫『最新日本著作者辞典』と「大同館発行分類図書目録」

続けてふれてきた大同館のことだが、本連載でもしばしば参照してきた神谷敏夫の『最新日本著作者辞典』が大同館から出され、しかもその巻末には「東京神田大同館発行図書分類目録」三百点ほど二十四ページにわたって掲載されていることもあり、もう一回書い…

古本夜話775 上田恭輔『支那骨董と美術工芸図説』と大阪屋号書店

大同館の本間久雄『エレン・ケイ思想の真髄』の巻末広告には、これも参考書出版社らしからぬ一冊が見られる。それは上田恭輔の『生殖器崇拝教の話』で、「生殖器崇拝問題を学術的組織的に研究したる本邦最初の試み」とされ、「好評三版」と謳われている。こ…

古本夜話774 大同館、阪本真三、野村隈畔

前々回は『エレン・ケイ思想の真髄』の版元である大同館にまったくふれられなかったので、ここで書いておきたい。 『日本出版百年史年表』によれば、大同館は明治四十四年に阪本真三によって参考書出版社として設立されている。 それを『日本出版大観』(出…

古本夜話773 エレン・ケイ『恋愛と結婚』とハヴロック・エリス

前回の岩波文庫の元版といえるエレン・ケイの原田実訳『恋愛と結婚』の聚英閣版が手元にあるので、やはり取り上げておこう。これは大正十三年発行、十四年五版で、その版元の聚英閣についてはかつて拙稿「聚英閣と聚芳閣」(「古本屋散策」54、『日本古書通…

古本夜話772 本間久雄『エレン・ケイ思想の真髄』と原田実

ここで本連載763の本間久雄と大同館に関する補遺を何編か、はさんでおきたい。それは本間が大正十年に大同館から刊行した増補版『エレン・ケイ思想の真髄』も入手しているからだ。 保田与重郎との関係を調べるために、『日本近代文学大事典』における本間…