出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話

古本夜話862 織田作之助『西鶴新論』と修文館

前回、『世界文学』の表紙目次にある織田作之助「ジュリアン・ソレル」にふれられなかったので、続けて織田に関しての一編を挿入しておきたい。 織田は大阪の下町に生きる人々を描いた『夫婦善哉』、及び豊田四郎監督、森繁久彌と淡島千景共演の同名映画によ…

古本夜話861 『世界文学』、世界文学社、柴野方彦

やはり本連載854などの『人間』と同じく、戦後の文芸雑誌としての『世界文学』がある。しかもこれはまったくの偶然だが、入手しているのは一冊だけだけれど、『人間』と同様の昭和二十一年十月号で、表紙には「6」とある。これは第6号を意味していると思…

古本夜話860 占領下の『婦人文庫』

これも鎌倉文庫が発行していた『婦人文庫』が一冊出てきたので、やはりここで書いておこう。それは昭和二十一年十一月刊行の第七号である。 木村徳三は『文芸編集者その跫音』において、『人間』創刊後の鎌倉文庫の昭和二十一年状況と雑誌創刊に関して、次の…

古本夜話859 高梨茂と中央公論社『荷風全集』

もう一編『断腸亭日乗』に関して続けてみる。昭和二十二年で扶桑書房主人についての言及は消え、昭和二十三年六月からは中央公論社の高梨氏の名前が頻出するようになる。そしてそれは昭和三十年以降は少なくなるにしても、荷風の死の三十四年まで絶えること…

古本夜話858 扶桑書房と永井荷風『勲章』

本連載856で、横光利一の戦後の遺作ともいうべき『夜の靴』を取り上げたので、永井荷風の戦後の出版にもふれておきたい。それは昭和二十二年に扶桑書房から刊行の小説・随筆集『勲章』が手元にあるからだ。 (『勲章』) 戦後を迎えて、荷風は扶桑書房か…

古本夜話857 桜沢如一、岩波書店、カレル『人間』

前回、本連載146の桜沢如一が戦時下の横光利一の近傍にいたらしいことにふれておいた。桜沢に関しては、その実用的東洋哲学の無双原理=「極東のすべての科学、哲学、すべての大宗教、すべての文明の母胎」の紹介である自著『東洋医学の哲学』(日本CI協…

古本夜話856 横光利一『夜の靴』

前回、鎌倉文庫の『人間』に橋本英吉の小説が連載されていたことに加え、彼が横光利一のところに出入りし、その影響を受けていたことを既述しておいた。これは別の機会とも考えていたが、鎌倉文庫と横光といえば、生前の最後の著書は鎌倉文庫から出された『…

古本夜話855 橋本英吉『東方の種族』と翼賛出版協会「農村建設文学叢書」

前回はふれなかったけれど、橋本英吉の「富士山頂」が鎌倉文庫の『人間』昭和二十一年十月号で、「連載完結」とあった。連載が始まったのは七月号からで、二十三年には鎌倉文庫で単行本化されている。この十月号で見るかぎり、唯一の連載小説だったと思われ…

古本夜話854 鎌倉文庫『人間』と木村徳三

本連載825などの鎌倉文庫の文芸雑誌『人間』の一冊が出てきたので、これも書いておきたい。 『人間』は『日本近代文学大事典』にほぼ一ページにわたって立項されているように、戦後の雑誌として、思想と文芸、新人と旧人、海外文学なども包含した多角的編…

古本夜話853 新潮社『文章倶楽部』とアジール

前々回『若き剣士物語』の森本岩夫が新潮社の『文章倶楽部』の記者だったことを既述しておいた。 『文章倶楽部』は『新潮社七十年』においても、「日本にただひとつの文章雑誌として新潮社より刊行され、文章研究者の手引たると共に新文芸入門者の伴侶たるこ…

古本夜話852 大倉書店と落合直文『言泉』

前回はふれられなかったが、森本岩夫の『若き剣士物語』の中において、ニューヨークのモルガン邸のマダム・モンの居間の光景が描かれていた。彼女は太郎一が思いを寄せた女学生のモンで、アメリカ人と結婚し、渡米したが、夫を亡くし、未亡人となっていた。…

古本夜話851 新潮社「新作青年小説叢書」と森本岩夫『若き剣士物語』

昭和十九年になって、新潮社から「新作青年小説叢書」として、森本岩夫の『若き剣士物語』が刊行されている。しかし「同叢書」は『新潮社七十年』の「刊行図書年表」を確認してみると、ほぼ同時に和田伝『父祖の声』が出されただけで、その後は続かなかった…

古本夜話850 荒木巍『幸運児』、「博文館純文学書」、石光葆

昭和十七年にやはり博文館から刊行された荒木巍の小説集『幸運児』という一冊がある。荒木の名前は本連載782の河出書房の「書きおろし長篇小説叢書」や同785の「短篇集叢書」の著者として名前を挙げてきたけれど、現在ではもはや忘れ去られてしまった…

古本夜話849 坂口安吾『吹雪物語』と竹村書房

前回ふれた坂口安吾『吹雪物語』の昭和十三年の竹村書房版は、『坂口安吾』(「新潮日本文学アルバム」35)で書影を見ているだけだが、昭和二十三年に山根書店から刊行された山根書店版は入手している。これは同二十二年の新體社の再版に続く三度目の出版…

古本夜話848 『日暦』と川端康成『抒情歌』

本連載840の昭和十年前後の文芸リトルマガジンの相次ぐ創刊が、その後の文学書出版の隆盛へとリンクして行ったと見なすことができる。そうした出版状況を考えると、それは必然的に当時の小出版社の位相へとも結びついていくことになる。 『日本近代文学大…

古本夜話847 聖紀書房「名作歴史文学」と藤岡淳吉

昭和十年代後半には「名作歴史文学」といったシリーズが刊行され、かなりの売れきを示したようだ。これは昭和十八年に聖紀書房から出され、そのうちの一冊の吉川英治『大谷刑部』を浜松の時代舎で購入している。 これは表題作をタイトルとする短編集だが、四…

古本夜話846 白鳥省吾、東苑書房「学芸随筆」、五来素川『動乱の静観』

昭和十年代には小説や外国文学の叢書やシリーズだけでなく、前回の石坂洋次郎の『雑草園』ではないけれど、随筆なども出されている。そのひとつとして、昭和十二年に東宛書房から刊行の「学芸随筆」があり、その一冊である五来素川『動乱の静観』を入手して…

古本夜話845 石坂洋次郎『麦死なず』と『雑草園』

本連載842の正宗白鳥とは異なる意味で、少しばかり意外に思われるかもしれないが、石坂洋次郎にしても改造社との関係は深く、昭和十一年の『麦死なず』、翌年に『若い人』を改造社から刊行し、作家的地位を確立したとされる。しかも前者は同社の『文芸』…

古本夜話844 平井博、映画荘、木々高太郎『人生の阿呆』

本連載839の新潮社「新日本少年少女文庫」の著者として、前回の高須芳次郎と並んで、林髞の名前も挙がっていた。林は慶應大学医学部出身で、ソ連に留学し、パブロフの下で条件反射理論を学び、大脳生理学を研究し、昭和九年から慶大医学部教授に就任して…

古本夜話843 新声社、高須芳次郎『明治大正昭和文学講話』、牧神社『江戸情調と悪の讃美』

前回の正宗白鳥の証言によれば、『文芸評論』や『現代文芸評論』にしても、改造社の『現代日本文学全集』や春陽堂の『明治大正文学全集』の出現によって、それらの作家や作品を初めて読んだり、再読したことを通じて、あらためて書くことができたという。そ…

古本夜話842 正宗白鳥『現代文芸評論』

前回の「文芸復興叢書」も含めて、改造社の文芸書の全貌を俯瞰することは難しい。それは本連載でも繰り返しふれているように、改造社も社史や全出版目録が出されていないし、シリーズ物はともかくとして、単行本に関しては実物を見るまで、改造社から出てい…

古本夜話841 改造社「文芸復興叢書」、深田久弥『雪崩』、広津和郎『昭和初年のインテリ作家』

本連載でずっとふれてきた本連載でずっとふれてきた昭和十年代半ばの外国文学も含んだ文芸書出版の隆盛は、突然もたらされたものではなく、そこに至る出版ムーブメントの結実と考えるべきだろう。高見順は『昭和文学盛衰史』の一章を「文芸復興」と題し、昭…

古本夜話840 誠文堂新光社「僕らの科学文庫」と二神哲五郎『ひかりの話』

前々回の新潮社の「日本少国民文庫」の他にも、多くの「少国民」をタイトルにすえたシリーズ、及び同じく前回の「新日本少年少女文庫」のような科学的色彩の強いシリーズも、戦時下において増えていったと見られる。その双方と備えた企画として、岩波書店か…

古本夜話839 新潮社「新日本少年少女文庫」と『日本文学選』

『新潮社七十年』は「日本少国民文庫」に続いて、昭和十四年から島崎藤村編「新日本少年少女文庫」全二十巻の刊行を始めたが、内容は「日本少国民文庫」と大同小異であるが、福永恭助『国の護り(陸・海・空)』を第一回配本としたことはすでに時局の緊迫を…

古本夜話838 山本有三編「日本少国民文庫」と吉野源三郎『君たちはどう生きるか』

前回に続いて、この際だから児童書にも言及してみる。『新潮社七十年』において、昭和十年に刊行された山本有三編「日本少国民文庫」全十六巻は「新潮社の誇るに足る出版」として、その一章を当てている。だがそれらは全巻の書影が見えているだけなので、「…

古本夜話837 鈴木三重吉訳『家なき児』、童話春秋社、篠崎仙司

昭和十年代には児童書の分野においても、フランス文学の新訳が試みられていた。それはエクトル・マロの『家なき児』で、しかもその訳者は鈴木三重吉である。実はそのことをまったく知らず、それは浜松の時代舎で、童話春秋社から昭和十六年に出されたA5判上…

古本夜話836 永井荷風『歓楽』、易風社、西本波太

本連載829で、生田長江訳『死の勝利』が易風社から刊行予定だったという佐藤義亮の証言を引いておいた。 その易風社の本を一冊だけ持っていて、それは永井荷風の『歓楽』で、明治四十二年に刊行されている。ただこの四六判の一冊は初版本だけれども、ほと…

古本夜話835 博文館『紅葉全集』、春陽堂『紅葉全集』、中央公論社『尾崎紅葉全集』

前回、生田長江が『文学入門』で挙げた紅葉、一葉、樗牛の三人の全集はいずれも博文館から出されていて、明治後半が博文館の時代だったことを告げている。 本連載271で『一葉全集』、前回は『樗牛全集』を取り上げたこともあり、今回は『紅葉全集』にふれ…

古本夜話834 博文館『樗牛全集』

前回はふれられなかったけれど、谷沢永一は「生田長江」(『大正期の文芸評論』所収、中公文庫)において、生田の『文学入門』は「通俗的読者相手の請負仕事」で、「年少子弟に寄せる砂をかむような処世上の教訓に終わっている」と批判している。 しかし生田…

古本夜話833 生田長江『文学入門』

前回、新潮社が大正時代に入って、本格的な外国文学の翻訳出版を企画し、「近代名著文庫」を創刊したことを既述しておいた。佐藤義亮は「出版おもひ出話」(『新潮社四十年』所収)で、次のように述べている。 (「近代名著文庫」、『サフオ』) 新潮社が翻…