出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話

古本夜話774 大同館、阪本真三、野村隈畔

前々回は『エレン・ケイ思想の真髄』の版元である大同館にまったくふれられなかったので、ここで書いておきたい。 『日本出版百年史年表』によれば、大同館は明治四十四年に阪本真三によって参考書出版社として設立されている。 それを『日本出版大観』(出…

古本夜話773 エレン・ケイ『恋愛と結婚』とハヴロック・エリス

前回の岩波文庫の元版といえるエレン・ケイの原田実訳『恋愛と結婚』の聚英閣版が手元にあるので、やはり取り上げておこう。これは大正十三年発行、十四年五版で、その版元の聚英閣についてはかつて拙稿「聚英閣と聚芳閣」(「古本屋散策」54、『日本古書通…

古本夜話772 本間久雄『エレン・ケイ思想の真髄』と原田実

ここで本連載763の本間久雄と大同館に関する補遺を何編か、はさんでおきたい。それは本間が大正十年に大同館から刊行した増補版『エレン・ケイ思想の真髄』も入手しているからだ。 保田与重郎との関係を調べるために、『日本近代文学大事典』における本間…

古本夜話771 保田与重郎『日本語録』と「新潮叢書」

続けて保田与重郎の著書を取り上げてきたし、昭和十年代が保田と日本浪漫派の時代だったのではないかと既述しておいたように、彼と『日本浪漫派』同人の著作を合わせれば、かなりの量になると思われる。 それらを刊行したのは新潮社も例はなく、昭和十七年に…

古本夜話770 『日本国家科学大系』と統制経済

実業之日本社は昭和十年代半ばから日本の文芸書や外国文学を刊行する一方で、ご多分にもれず、本連載582の日本評論社、同681の白揚社、同708の朝倉書店、同715のアルスなどと同様に、大東亜戦争下に寄り添うシリーズを刊行していた。 それは昭和…

古本夜話769 柳田国男『火の昔』とシヴェルブシュ『闇をひらく光』

『実業之日本社七十年史』を読んでいくと、昭和十六年三月に『新女苑』が第一回文化講座を開催したことを知らされる。講師は佐多稲子、川端康成、柳田国男などで、「従来の女性向き講習会とは趣を異にした、講座の形式による充実した講師と講話とは、当時す…

古本夜話768「仏蘭西文学賞叢書」と『サント・ブウヴ選集』

前回はふれられなかったが、実業之日本社における昭和十年代半ばの文芸書出版の隆盛は外国文学にも及び、十五年から「仏蘭西文学賞叢書」が刊行されていく。それらの刊行予告も含め、ラインナップを挙げてみる。例によって番号は便宜的にふったものである。 …

古本夜話767 『新女苑』と河上徹太郎『道徳と教養』

本連載764で、保田与重郎の『美の擁護』の装幀が青山二郎によるものだが、疲れた裸本ゆえにそのはっきりしたイメージがつかめないこと、及び同じ実業之日本社から河上徹太郎の『道徳と教養』も刊行されていたことにふれた。 実はこちらも入手したばかりで…

古本夜話766 吉田絃二郎『おくのほそ道の記』と梅本育子『時雨のあと』

前回は『実業之日本社七十年史』、里見弴の名前だけで、書名が記されていなかった小説『愛と智と』を取り上げたが、実はそれなりに売れ、好評だったにもかかわらず、著者名も書名も挙げられていない一冊がある。 それは吉田絃二郎の『おくのほそ道の記』で、…

古本夜話765 里見弴『愛と智と』

前回、『実業之日本社七十年史』における、昭和十年代半ばからの文芸書出版の隆盛の記述を引き、作家と書名を挙げておいた。だが名前だけで、書名にふれていない作家もあった。その一人が里見弴で、彼は昭和十六年に小説『愛と智と』を刊行している。 戦前の…

古本夜話764 実業之日本社と保田与重郎『美の擁護』

前回、本間久雄は保田与重郎に日本の美学を見出し、それゆえに東京堂に『戴冠詩人の御一人者』の出版を推奨したのではないかとの推測を述べておいた。そのことをタイトルが物語るように、保田は昭和十六年に『美の擁護』というエッセイ集を上梓している。 そ…

古本夜話763 東京堂、本間久雄、『日本文学全史』

前回ふれた芝書店の内情はともかく、保田与重郎にしても中村光夫にしても、印税はまとに得られなかったけれど、いずれも芝書店から最初の著書を出し、ともに第一回池谷信三郎賞を受賞したことによって、それなりのデビューを飾ったといっていいだろう。 さら…

古本夜話762 芝書店、ヴェルレエヌ『叡智』、中村光夫

あらためて『保田与重郎選集』(講談社、昭和四十六年)の第二巻を読み、彼の著書『日本の橋』が昭和十一年に芝書店から出され、その改版が十四年に東京堂から刊行されたことを教えられた。後者は棟方志功装幀の帙入小型本で、『東京堂の八十五年』に書影を…

古本夜話761 斎藤瀏『獄中の記』と『東京堂月報』

前回、保田与重郎の『戴冠詩人の御一人者』が昭和十三年に東京堂から刊行されていることを既述しておいた。 それを探していた際に、同じく東京堂刊行の斎藤瀏『獄中の記』と『防人の歌』が出てきた。前者は昭和十五年十二月発行、十六年五月四十九刷とあり、…

古本夜話760 保田与重郎『後鳥羽院』と思潮社

前回はふれなかったが、「新ぐろりあ叢書」には保田与重郎の『エルテルは何故死んだか』も含まれていた。その「新ぐろりあ叢書」と併走するように出された一冊、それも同じく装幀を棟方志功とする、保田与重郎の『後鳥羽院』も取り上げておきたい。それは昭…

古本夜話759 伊藤長蔵、「新ぐろりあ叢書」、田中克己『楊貴妃とクレオパトラ』

本連載757の田遊びではないけれど、早川孝太郎が昭和十七年に、『農と祭』をぐろりあ・そさえてから刊行している。手元にあるのは四六判の裸本で、表紙や箱装は見られないが、口絵写真に武田久吉による二葉の「道祖神祭りの御幣」が掲載されていることか…

古本夜話758 南江二郎『原始民俗仮面考』とレヴィ=ストロース『仮面の道』

本連載756や前回と同じ地平社書房の「民俗芸術叢書」がもう一冊出てきたので、これも付け加えておきたい。それは南江二郎『原始民俗仮面考』で、やはり以前に浜松の時代舎で購入したのだが、これが「民俗芸術叢書」の一冊だと思っていなかったのである。…

古本夜話757 柳田国男『民謡の今と昔』と新井恒易『農と田遊びの研究』

前回、柳田国男の『民謡の今と昔』の内容にふれなかったので、それをここで書いておきたい。柳田は明治以降の民謡の主たる発祥は村の小さな子守娘の「口すさび」、すなわち子守唄にあったと推察している。それに影響を与えたのは、労働と祭が融合した田植唄…

古本夜話756 富永董、北野博美、地平社書房「民俗芸術叢書」

本連載749、750と続けて小寺融吉の本を取り上げてきたが、書き終えてから、浜松の時代舎に出かけ、柳田国男の『民謡の今と昔』を見つけた。これは昭和四年に地平社書房から刊行されたものである。四六判一四六ページの地味な本で、調べてみると、筑摩…

古本夜話755 畝傍書房と棚瀬襄爾『民族宗教の研究』

少しばかり飛んでしまったが、この際だから、ここで昭和十六年に畝傍書房から刊行された棚瀬襄爾の『民族宗教の研究』をはさんでおこう。この出版社名は日本の古代文化をイメージさせる奈良の地名を借用したと見ていいし、本連載741などの森本六爾や樋口…

古本夜話754 桑原天然「精神霊動」シリーズと開発社

拙稿「心霊研究と出版社」(『古本探究3』所収)で、日本心霊学会の刊行書目を挙げ、大正十三年に渡辺藤交の『心霊治療秘書』が出されていることを既述しておいた。本連載137でもふれておいたように、この渡辺藤交こそが、『出版人物事典』などに立項さ…

古本夜話753 カーリングトン、関昌祐訳『現代心霊現象の研究』と福来友吉

二回続けて人文書院の文芸書にふれてきたが、拙稿「心霊研究と出版社」(『古本探究3』所収)や本連載137で言及しておいたように、人文書院は日本心霊学会としてスタートしている。その拙稿で、大正十三年から十五年にかけての日本心霊学会としての出版…

古本夜話752 人文書院の文芸書出版と『文芸日本』

前回の丸岡明『或る生涯』の巻末広告を見ると、昭和十年代半ばの人文書院が『作家自選短篇小説傑作集』だけでなく、多くの文芸書を刊行していることがわかる。そこには佐藤春夫『むさゝびの冊子』、岸田国士『時・処・人』、吉江喬松『朱線』、正宗白鳥『一…

古本夜話751 丸岡明『或る生涯』と『作家自選短篇小説傑作集』

前回の丸岡明の作品集を入手している。それは昭和十五年に人文書院から刊行された『或る生涯』で、『作家自選短篇小説傑作集』の一冊である。このシリーズのキャッチコピーとして、「書中の各短篇は、作家自らが、最も自信と愛情を持つ、文字通りの代表作許…

古本夜話750 宮尾しげを、『をどりの小道具』、能楽書林

前回の小寺融吉『郷土民謡舞踊辞典』には民謡舞踊に伴う様式や、身体の動きを描いた多くの絵画が添えられていた。だがそれにふれられなかったので、続けてもう一編書いておきたい。 (復刻) まだテレビがなかった戦前の時代において、このような辞典を編む…

古本夜話749 小寺融吉『郷土民謡舞踊辞典』と市村宏

『ミネルヴァ』に関してもう一編書いておきたい。といってもそれは『ミネルヴァ』自体ではなく、第五号の裏表紙に掲載された広告の書籍についてである。 その書籍は小寺融吉の『日本民謡辞典』で、「少部数を限定読者への奉仕」と謳われ、定価四円のところを…

古本夜話748 直良信夫と松本清張「石の骨」

前々回の山内清男と喜田貞吉の「ミネルヴァ論争」が続いている『ミネルヴァ』第四号に、直良信夫が「日本の最新世と人類発達史」を寄稿している。「最新世」とは洪積世をさし、直良の論稿は発掘化石や石器などの写真も示し、この時期から日本の旧石器時代も…

古本夜話747 喜田貞吉『福神』

前回、喜田貞吉にふれたこと、及び戦前の本ではないけれど、喜田の気になる一冊を入手しているので、それを書いておきたい。その一冊とは喜田貞吉編著『福神』(山田野理夫補編、宝文館出版、昭和五十一年)である。 その前に喜田に関する簡略なプロフィルを…

古本夜話746 翰林書房『ミネルヴァ』と甲野勇

前回もふれた寺田和夫の『日本の人類学』の中で、岡書院の『ドルメン』が昭和十年で休刊した後、東大人類学教室の甲野勇がその方針に則り、翰林書房から『ミネルヴァ』を創刊したが、これは同十一年に第十号を出したところで終わってしまったと述べられてい…

古本夜話745 東京人類学会編『日本民族』と東大人類学教室の選科生たち

前回、中谷治宇二郎が東京帝大理学部人類学選科生で、前々回の雄山閣の「考古学講座」の松村瞭博士の下で先史学研究に従事していたことを挙げておいた。 明治十七年に東大理学部生物科の学生だった坪井正五郎たちの呼びかけで、一ツ橋の植物学教室において人…