出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話

古本夜話842 正宗白鳥『現代文芸評論』

前回の「文芸復興叢書」も含めて、改造社の文芸書の全貌を俯瞰することは難しい。それは本連載でも繰り返しふれているように、改造社も社史や全出版目録が出されていないし、シリーズ物はともかくとして、単行本に関しては実物を見るまで、改造社から出てい…

古本夜話841 改造社「文芸復興叢書」、深田久弥『雪崩』、広津和郎『昭和初年のインテリ作家』

本連載でずっとふれてきた本連載でずっとふれてきた昭和十年代半ばの外国文学も含んだ文芸書出版の隆盛は、突然もたらされたものではなく、そこに至る出版ムーブメントの結実と考えるべきだろう。高見順は『昭和文学盛衰史』の一章を「文芸復興」と題し、昭…

古本夜話840 誠文堂新光社「僕らの科学文庫」と二神哲五郎『ひかりの話』

前々回の新潮社の「日本少国民文庫」の他にも、多くの「少国民」をタイトルにすえたシリーズ、及び同じく前回の「新日本少年少女文庫」のような科学的色彩の強いシリーズも、戦時下において増えていったと見られる。その双方と備えた企画として、岩波書店か…

古本夜話839 新潮社「新日本少年少女文庫」と『日本文学選』

『新潮社七十年』は「日本少国民文庫」に続いて、昭和十四年から島崎藤村編「新日本少年少女文庫」全二十巻の刊行を始めたが、内容は「日本少国民文庫」と大同小異であるが、福永恭助『国の護り(陸・海・空)』を第一回配本としたことはすでに時局の緊迫を…

古本夜話838 山本有三編「日本少国民文庫」と吉野源三郎『君たちはどう生きるか』

前回に続いて、この際だから児童書にも言及してみる。『新潮社七十年』において、昭和十年に刊行された山本有三編「日本少国民文庫」全十六巻は「新潮社の誇るに足る出版」として、その一章を当てている。だがそれらは全巻の書影が見えているだけなので、「…

古本夜話837 鈴木三重吉訳『家なき児』、童話春秋社、篠崎仙司

昭和十年代には児童書の分野においても、フランス文学の新訳が試みられていた。それはエクトル・マロの『家なき児』で、しかもその訳者は鈴木三重吉である。実はそのことをまったく知らず、それは浜松の時代舎で、童話春秋社から昭和十六年に出されたA5判上…

古本夜話836 永井荷風『歓楽』、易風社、西本波太

本連載829で、生田長江訳『死の勝利』が易風社から刊行予定だったという佐藤義亮の証言を引いておいた。 その易風社の本を一冊だけ持っていて、それは永井荷風の『歓楽』で、明治四十二年に刊行されている。ただこの四六判の一冊は初版本だけれども、ほと…

古本夜話835 博文館『紅葉全集』、春陽堂『紅葉全集』、中央公論社『尾崎紅葉全集』

前回、生田長江が『文学入門』で挙げた紅葉、一葉、樗牛の三人の全集はいずれも博文館から出されていて、明治後半が博文館の時代だったことを告げている。 本連載271で『一葉全集』、前回は『樗牛全集』を取り上げたこともあり、今回は『紅葉全集』にふれ…

古本夜話834 博文館『樗牛全集』

前回はふれられなかったけれど、谷沢永一は「生田長江」(『大正期の文芸評論』所収、中公文庫)において、生田の『文学入門』は「通俗的読者相手の請負仕事」で、「年少子弟に寄せる砂をかむような処世上の教訓に終わっている」と批判している。 しかし生田…

古本夜話833 生田長江『文学入門』

前回、新潮社が大正時代に入って、本格的な外国文学の翻訳出版を企画し、「近代名著文庫」を創刊したことを既述しておいた。佐藤義亮は「出版おもひ出話」(『新潮社四十年』所収)で、次のように述べている。 (「近代名著文庫」、『サフオ』) 新潮社が翻…

古本夜話832 新潮社「近代名著文庫」、昇曙夢、ドストエーフスキイ『虐げられし人々』

続けて新潮社の『世界文学全集』などに言及してきたが、それは大正時代の「近代名著文庫」に起源が求められる。だが「近代名著文庫」は『日本近代文学大事典』に明細が掲載されていないので、『新潮社四十年』からリストアップしてみる。 1 ダヌウツイオ 『…

古本夜話831 今日の問題社「ノーベル賞文学叢書」、『新鋭文学選集』

やはり昭和十年代半ばに「ノーベル賞文学叢書」が刊行されている。これはマルタン・デュ・ガールの『ジャン・バロアの生涯』しか入手していないし、その巻末に三冊の既刊が記載されているのを見ているだけだが、最終的に全十八巻で完結したようだ。 (『ジャ…

古本夜話830 新潮社『世界新名作選集』とウィルダア『運命の橋』

昭和十年代半ばに、新潮社も新たな外国文学シリーズを立ち上げている。それは『世界新名作選集』で、まずそのラインナップを挙げてみる。 1 ヘルマン・ヘッセ 『放浪と懐郷』(高橋健二訳) 2 ドリュ・ラ・ロッシェル 『夢見るブルジョア娘』(堀口大學訳) …

古本夜話829 『新潮社七十年』と山内義雄訳『モンテ・クリスト伯』

河盛好蔵は『新潮社七十年』において、創業者の佐藤義亮の企画編集による『世界文学全集』の成功が、大出版社としての基礎を固めたと述べている。これは昭和二年から七年にかけての第一期全三十八巻、第二期全十九巻に及ぶ六年間にわたる出版であった。この…

古本夜話828 山田珠樹『フランス文学覚書』とユイスマン

ずっと辰野隆にふれたからには、その盟友である山田珠樹を取り上げないわけにはいかないだろう。山田と結婚し、同じくフランス文学者の山田[ジャク]をもうけた森茉莉の証言によれば、二人の関係はホモソーシャルな秘密結社のようだったとされる。 しかも山…

古本夜話827 豊島与志雄訳『レ・ミゼラブル』と新潮社『世界文学全集』

辰野隆は『仏蘭西文学』の中で、フランス文学の重要な訳業として、豊島与志雄によるヴィクトル・ユゴー『レ・ミゼラブル』を挙げているが、これがフランス語原書からの初めての大長編小説の翻訳だったからである。 まず『レ・ミゼラブル』は大正七年から八年…

古本夜話826 ゴンクウル『ジェルミニィ・ラセルトゥウ』

前回ふれたように、戦後を迎えての『ゴンクウルの日記』の翻訳刊行に伴い、ゴンクウル・ルネサンスというほどではないにしても、小説の『ジェルミニイ・ラセルトゥ』と『娼婦エリザ』が様々な版元から出されるに至った。前者は同タイトルで前田晃訳、平凡社…

古本夜話825 大西克和訳『ゴンクウルの日記』と鎌倉文庫

辰野隆は『仏蘭西文学』の中で、『ルナアル日記』とともに、『ゴンクウルの日記』を挙げ、フランス近代文学における「骨の髄まで文学者であつた人間のドキュマンとして、罕に見る宝庫」だと述べている。 (『ゴンクウルの日記』) だが『ルナアル日記』と異…

古本夜話824 青山出版社と岸田国士『生活と文化』

前回や本連載786の岸田国士『生活と文化』も出てきたので、これも取り上げておきたい。それは昭和十六年十二月に青山出版社から刊行されていること、また内容は先の『力としての文化』と重なり、大政翼賛会と文化の新体制に関する文章から構成されている…

古本夜話823 岸田国士訳『ルナアル日記』と『にんじん』

これまで昭和十年代におけるフランス文学翻訳ブームといったトレンドにふれてきたが、その中の一人がルナアルでもあった。それは本連載808のブールジェほどではないにしても、私たち戦後世代にとっては馴染みが薄い。『にんじん』の作者であることは承知…

古本夜話821 谷口武訳『現代仏蘭西二十八人集』とコント

前回のカルコの『モンマルトル・カルティエラタン』において、これを映画とすれば、カルコ主演で、共演が詩人でコント作家のピエール・マコルランだと既述しておいた。この「コント」に関して教えられたのは、柳沢孝子の「コントというジャンル」(『文学』…

古本夜話820 永田逸郎、フランシス・カルコ『モンマルトル・カルティエラタン』、春秋書房

昭和十年前後のフランス文学翻訳ブームは、これまで取り上げてきた全集に値する文学者たちばかりでなく、マイナーポエットにまで及んでいる。それは前回のピチグリリではないけれど、その典型を昭和八年に刊行されたフランシス・カルコの『モンマルトル・カ…

古本夜話819 ピチグリリ『貞操帯』と和田顕太郎

もう一冊、建設社の単行本を取り上げておく。それは前々回、書名を挙げなかったけれど、ピチグリリ作、和田顕太郎訳『貞操帯』である。これは昭和六年の刊行なので、建設社の創業の翌年の出版物に位置づけられる。 (『貞操帯』) 和田顕太郎は本連載791…

古本夜話818 原久一郎訳『大トルストイ全集』と中央公論社

前回の建設社、及び河出書房や白水社のフランス文学全集類と競うように、昭和十一年から十四年にかけて、中央公論社から『大トルストイ全集』全二十二巻が刊行されている。しかもこれは原久一郎の個人訳によるもので、入手しているのは昭和十四年五月の第二…

古本夜話817 建設社と『ジイド全集』

前回、昭和十年代に入って招来した、第一書房と白水社を中心とするジイドの時代にふれたが、両社に先駆け、いずれも昭和九年に『ジイド全集』が建設社と金星堂から刊行されている。金星堂版は後述するつもりなので、ここでは建設社版を取り上げておきたい。…

古本夜話816 ジイドの時代と『ソヴエト旅行記』

やはり白水社のアンドレ・ジイドの『贋金つくり』(山内義雄訳)を入手している。これは昭和十年二月初版発行、十四年八月十三版と奥付に示され、順調に版を重ねているとわかる。『白水社80年のあゆみ』を繰ってみると、前々回も記述しておいたように、昭和…

古本夜話815 ポオル・モオラン『レヰスとイレエン』と伏字

前回の堀口大學訳『ドルヂェル伯の舞踏会』の「同じ訳者によりて」一覧に示したように、ポオル・モオランの『夜ひらく』『夜とざす』『恋の欧羅巴』の三冊は挙げられていたけれど、私が浜松の時代舎で入手している『レヰスとイレソン』の記載はなかった。こ…

古本夜話814 ラディゲ『ドルヂェル伯の舞踏会』と堀口大学

前回、長谷川郁夫の『堀口大學』における堀口、長谷川巳之吉の第一書房と東京、京都帝大仏文科の対立にふれたが、出版社の場合、そのような構図はあったにしても、フランス文学翻訳者は限られているし、売れる企画は耐えず追求されなければならない。 前々回…

古本夜話813 ヴァレリイ、堀口大学訳『文学論』と斎藤書店

前々回、堀口大学と第一書房によるポール・ヴァレリイの翻訳『詩論・文学』と『文学雑考』を挙げておいたが、これは戦後の昭和二十一年四月に斎藤書店から、合本『文学論』として復刻されている。第一書房の二冊は所持していないけれど、こちらは手元にある…

古本夜話812 河盛好蔵と白水社『キュリー夫人伝』

河盛好蔵の『河岸の古本屋』(毎日新聞社)所収の「著者略年譜」によれば、前回のヴァレリー『詩学叙説』の他に、昭和十三年にはジイド『コンゴ紀行』とエーヴ・キュリー『キュリー夫人伝』 を翻訳刊行している。後者は川口篤、杉捷夫、本田喜代治との共訳で…