出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1303 中富兵衛『永岡鶴蔵伝』

片山潜をめぐる人々として、その両頭とでもいうべき田口運蔵や近藤栄蔵に言及してきたが、異色の人物に挙げられる永岡鶴蔵にもふれておくべきだろう。そうはいっても僥倖のように、永岡に関しては中富兵衛による「犠牲と献身の生涯」というサブタイトルが付…

古本夜話1302 片山潜『革命的社会主義への道』

一九二〇年=大正九年に片山潜はアメリカ当局による検挙の危険から、大西洋を臨むアトランティック・シティに逃れ、自伝と社会主義論を書いていた。 これらのうちの自伝のほうは翌年に室伏高信の手にわたり、『改造』に連載され、『自伝』として改造文庫化さ…

古本夜話1301  高橋亀吉の履歴書

『近藤栄蔵自伝』で、片山潜の在米日本人社会主義者のメンバーに高橋亀吉が挙げられているのを初めて知った。高橋の名前を目にしたのはかなり前のことで、確か谷沢永一の『完本紙つぶて』(文藝春秋、昭和五十三年)においてだったと思う。 あらためて『紙つ…

古本夜話1300  IWW、ビル・ヘイウッド、吉原太郎

『近藤栄蔵自伝』には暁民共産党事件と相前後して、ビー・グレー事件が起きたことへの言及がある。この事件に関しての詳細は近藤にしても判然としないし、実相はつかめないとされるけれど、次のようなものだった。 前回の反軍プロパガンダに対する警視庁特高…

古本夜話1299 『近藤栄蔵自伝』と『コムミンテルンの密使』

前回の在米日本人社会主義団が結成される以前から片山潜に寄り添っていた人物がいて、それは近藤栄蔵である。彼は片山門下において、田口運蔵と並ぶ重要なコミンテルン関係者であり、幸いなことに田口と異なり、同志社大学人文科学研究所編『近藤栄蔵自伝』…

古本夜話1298 片山潜と在米日本人社会主義団

前回、「大庭柯公問題」をめぐるコミンテルンの在米日本人グループと日本グループの構図にふれたが、前者は一九一九年=大正八年に片山潜を中心として結成された在米日本人社会主義団のメンバーを主としていたし、田口運蔵もその一人に他ならなかった。その…

出版状況クロニクル171(2022年7月1日~7月31日)

22年6月の書籍雑誌推定販売金額は861億円で、前年比10.8%減。 書籍は440億円で、同10.2%減。 雑誌は421億円で、同11.4%減。 雑誌の内訳は月刊誌が352億円で、同13.5%減、週刊誌は68億円で、同1.3%増。 これは刊行本数の増加と『an・an』のBTS特集の即日重版…

古本夜話1297 大庭柯公『露国及び露人研究』

本探索1288の荻野正博『弔詩なき終焉』を読むことで、田口運蔵が大庭柯公問題に深く関わっていたことを教えられた。これは大庭と田口の大正十、十一年のモスクワ滞在が重なっている事実からすれば、意外ではないけれど、荻野による田口の評伝の刊行によって…

古本夜話1296 日本評論社『日本歴史学大系』と清水三男『日本中世の村落』

出版は前々回の「社会科学叢書」から十年以上後になるが、続けて同じく日本評論社の『日本歴史学大系』を取り上げておきたい。この『大系』のことは清水三男の『日本中世の村落』を入手したことで知ったのである。本体の裸本は背のタイトルも読めないほどだ…

古本夜話1295 大鎧閣、北一輝『支那革命外史』、平凡社『世界興亡史論』

大鎧閣は前回の石川三四郎『改訂増補西洋社会運動史』に先行して、大正六年に北一輝の『支那革命外史』を出版している。 それを知ったのは、みすず書房の『北一輝著作集』第二巻所収の『支那革命外史』に付された「本巻のテキストについて」によってだった。…

古本夜話1294 日本評論社「社会科学叢書」、石川三四郎『社会主義運動史』、大鎧閣『改訂増補西洋社会運動史』

前回のシンクレア『資本』の表紙カバーの裏面はめずらしいことに、日本評論社の一八〇冊に及ぶ出版目録となっていて、ここで初めて目にする書籍も多く、あらためて日本評論社も全出版目録を刊行していないことを残念に思う。それだけでなく、裏表紙は「社会…

古本夜話1293 シンクレア、前田河広一郎訳『資本』

前回の『セムガ』の前田河広一郎はやはり昭和五年に、同じ日本評論社からアプトン・シンクレア『資本』を翻訳刊行している。両者が併走するかたちで出版されたことは裏表紙見返しの『日本プロレタリア傑作選集』の広告が伝えていよう。そのリストは本探索1…

古本夜話1292 前田河広一郎『セムガ』と田口運蔵

ここで日本へと戻る。本探索1253の日本評論社『日本プロレタリア傑作選集』に前田河広一郎の『セムガ』があったことを覚えているだろうか。 この『セムガ』は入手していないけれど、「セムガ」はタイトル作の他に「長江進出軍」「太陽の黒点」を収録した作品…

古本夜話1291 ボリス・スヴァーリン、ジョルジュ・バタイユ、セルジュ『一革命家の回想』

『エマ・ゴールドマン自伝』において、最も長い第52章「ロシア一九二〇-二一年」のところに、ロシアを訪れてきたヨーロッパラテン諸国共産党のグループへの言及がなされ、その中でも、フランス共産党員のボリス・スーヴァーリーヌが「最も思慮深く鋭い質問…

古本夜話1290 エマ・ゴールドマンとシェイクスピア・アンド・カンパニイ書店

『エマ・ゴールドマン自伝』において、前回既述しておいたように、スペイン内戦やガルシア・オリベルとの関係はふれられていない。それはこの『自伝』がクライマックスというべき第52章「ロシア一九二〇~二一年」で実質的に閉じられているからである。彼女…

古本夜話1289 『エマ・ゴールドマン自伝』をめぐって

前回のインターナショナリスト田口運蔵をめぐる様々な人脈などにリンクして、拙訳『エマ・ゴールドマン自伝』を例にとり、承前的な数編を書いておきたい。 これから田口に関連する日本、アメリカ、ロシア、ドイツなどの社会主義人脈に分け入っていくつもりだ…

古本夜話1288 荻野正博『弔詩なき終焉―インターナショナリスト田口運蔵』

少し飛んでしまったが、本探索1272でふれたトロツキイ『自己暴露』の実質的な翻訳者と思しき田口運蔵に関して、『近代出版史探索Ⅱ』389のウェルズ『生命の科学』の訳者の一人としても挙げているが、荻野正博『弔詩なき終焉』(御茶の水書房、昭和五十八年)…

古本夜話1287 森戸辰男『クロポトキンの片影』と『大原社会問題研究所雑誌』

『日本アナキズム運動人名事典』は「まえがき」などで明言されていないけれど、『近代日本社会運動史人物大事典』におけるアナキスト人名選択と立項の不足不備の問題を発端として、企画編纂へと至っている。 それもあって、前回の若山健治の立項もあるわけだ…

出版状況クロニクル170(2022年6月1日~6月30日)

22年5月の書籍雑誌推定販売金額は734億円で、前年比5.3%減。 書籍は407億円で、同3.1%減。 雑誌は327億円で、同7.9%減。 雑誌の内訳は月刊誌が268億円で、同7.4%減、週刊誌は58億円で、同10.2%減。 返品率は書籍が38.8%、雑誌は45.4%で、月刊誌は45.8%、週刊…

古本夜話1286 聚英閣「新人会叢書」と若山健治訳『無政府主義論』

本探索1283で聚英閣のチェネェ『劇場革命』を取り上げたが、この版元に関しては同1236のタイトルで示しているように、聚英閣と並べて言及してきたこともあり、ここでやはり聚英閣のほうにもふれておこう。 それはこの出版社も左翼文献と無縁であるどころか、…

古本夜話1285 カウツキー、小池四郎訳『五ヶ年計画立往生』

左翼文献は『近代出版史探索Ⅵ』1141の『大日本思想全集』の先進社からも刊行され、入手しているのは昭和六年のカール・カウツキー、小池四郎訳『五ヶ年計画立往生』で、サブタイトルは「サウィエート・ロシアの革命的実験は成功したか?」とある。(『大日本…

古本夜話1284 大森義太郎『唯物弁証法読本』と永田広志『唯物弁証法講話』

本探索1279で、プロレタリア文学や社会運動の隆盛に伴う多種多様な左翼文献の翻訳出版を指摘しておいた。それは『近代出版史探索Ⅱ』213に典型的な左翼系小出版社だけでなく、大手出版社にも及んでいて、時代のトレンドとして売れ行きもよかったのである。 そ…

古本夜話1283 川添利基訳『劇場革命』、中村雅男訳『デッド・エンド』、テアトロ社

前回日本プロレタリア演劇同盟(略称プロット)発行の機関誌『プロレタリア演劇』を挙げておいたが、残念ながらこの雑誌は復刻されていない。それでも『日本近代文学大事典』第五巻「新聞・雑誌」には三段に及ぶ解題があり、昭和五年に創刊、六年に『プロッ…

古本夜話1282 『プロレタリア文化』、波多野一郎、寺島一夫

もう一冊、近代文学館の「複刻 日本の雑誌」(講談社)にプロレタリア関係がある。それは『プロレタリア文化』で、これも『日本近代文学大事典』第五巻「新聞・雑誌」に解題が見出せる。その解題を繰ってみると、その前後に思いがけずにプロレタリアがタイト…

古本夜話1281 円本としての「囲碁大衆講座」

やはり前回の典昭堂で、平凡社の「囲碁大衆講座」第九輯を見つけた。これも昭和六年の出版で、前回の『世界裸体美術全集』と併走するように刊行されていたのである。平凡社の 拙稿「平凡社と円本時代」(『古本探究』)所収)では実用的な講座物と見なし、円…

古本夜話1280 平凡社『世界裸体美術全集』

前回、ハウゼンスタイン『芸術と唯物史観』は原著の内容とタイトルから考えれば、『芸術と裸体』としたほうがふさわしいのではないかと述べておいた。 (『芸術と唯物史観』) ところが『芸術と唯物史観』との関連は不明だが、昭和六年になって平凡社から『…

古本夜話1279 ハウゼンスタイン『芸術と唯物史観』と阪本勝

本探索でプロレタリア文学や社会運動の隆盛に伴う、いくつものリトルマガジンの創刊をみてきたが、それらは多くが従来の出版社によるものではない。そのことは翻訳に関しても同様であり、想像する以上に多種多様な訳書が刊行されたと思われる、そうした典型…

古本夜話1278 希望閣、野々宮三夫『世界プロレタリア年表』、市川義雄

昭和に入ってのプロレタリア文学全盛の時代にはそれらの分野に類する多くの文献が刊行されていたはずで、野々宮三夫『世界プロレタリア年表』も、その一冊に挙げられるだろう。同書は菊判函入、上製一九四ページとして、昭和七年に希望閣から出されている。 …

古本夜話1277 岩波書店と『思想』創刊号

前回の改造社『社会科学』創刊号は浜松の典昭堂で見つけたものだが、そこには岩波書店の『思想』創刊号もあり、ともに入手してきたのである。創刊号こそ前者が大正十四年、後者が同十年と異なるものの、判型、表紙レイアウトもほぼ同じで、創刊定価のほうも…

古本夜話1276 改造社と『社会科学』創刊号

手元に大正十四年六月と日付入りの『社会科学』創刊号があって、これは前々回の『我等』と異なり、近代文学館の「複刻日本の雑誌」の一冊ではなく、実物を入手している。(『社会科学』) (『我等』創刊号) この『社会科学』は『日本近代文学大事典』第五巻…