出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

古本夜話1231 柳田泉編『世界名著解題』

春秋社の『大思想エンサイクロペヂア』は異なるバージョンの企画も生み出していく。それは昭和十三年に刊行された柳田泉編『世界名著解題』全三巻で、そのうちの二冊が手元にある。 (『大思想エンサイクロペヂア』)(『世界名著解題』) 柳田は拙稿「春秋…

古本夜話1230 春秋社『大思想エンサイクロペヂア』と高畠素之人脈

本探索1224、1225の『世界大思想全集』に続いて、春秋社から菊判の『大思想エンサイクロペヂア』も刊行されていく。しかしこちらも書誌的にいって全巻数の確認が難しいようで、『全集叢書総覧新訂版』では全二十一巻、『春秋社図書目録創業100年二〇一八年度…

古本夜話1229 暁書院『小麦』と鄰友社『地』

前々回の暁書院のフランツ・ノリス『オクトパス』は入手していないけれど、やはりノリスの犬田卯訳『小麦』は手元にある。これは上下巻で、昭和十七年に牛込区新小川町の片山量雄を発行者とする肇書房から刊行されている。 しかし『小麦』を古書目録で見つけ…

古本夜話1228 東方出版「世界文学大綱」

春秋社の「世界家庭文学名著選」ではないけれど、円本と認識されていないシリーズはまだ他にもいくつもあり、「世界文学大綱」もそのひとつと見なすべきだろう。それは大正十五年に東方出版株式会社(東方出版)から全十八巻で刊行されている。この版元は京…

古本夜話1227 加藤朝鳥『十字軍』、シヨウ『神を探す黒人娘の冒険』、暁書院

前回の春秋社「世界家庭文学名著選」の訳者の一人である加藤朝鳥をたどって、大正時代の翻訳も兼ねた文学者のポルトレを描いてみたい。それは浜松の時代舎で、加藤が訳したバアナアド・シヨウの『神を探す黒人娘の冒険』を買い求めたばかりだし、数年前にそ…

古本夜話1226 春秋社「世界家庭文学名著選」

前回の最後のところでふれた春秋社の「世界家庭文学名著選」のラインナップを挙げてみる。このシリーズは「全訳」が売りのようで、大半のタイトルにそれが付されているが、ここでは省略する。 1 フアラア 村山勇三訳 『三家庭』 2 マロック 中村千代子訳 『…

古本夜話1225 コントと石川三四郎訳『実証哲学』

前回のエドワード・スペンサーと同様に、オーギュスト・コントもまた忘れられてしまった思想家であろう。それにコントの場合、森村進編訳『ハーバート・スペンサー』のような新訳アンソロジーも編まれておらず、その復権は難しいように思われる。しかし清水…

古本夜話1224 スペンサーと澤田謙訳『第一原理』

本探索1219で、板垣退助が明治十六年の外遊の際に、スペンサーとも会っていたことにふれておいた。それゆえに板垣が持ち帰った英仏独の数百巻の中にスペンサーの著作もあったはずだ。 しかしスペンサーの『社会平権論』はすでに明治十四年から松島剛訳によっ…

出版状況クロニクル164(2021年12月1日~12月31日)

21年11月の書籍雑誌推定販売金額は955億円で、前年比0.6%増。 書籍は542億円で、同11.0%増。 雑誌は412億円で、同10.4%減。 雑誌の内訳は月刊誌344億円で、同10.8%減、週刊誌は68億円で、同8.1%減。 返品率は書籍が33.6%、雑誌は41.3%で、月刊誌は40.7%、週…

古本夜話1223 森田思軒訳『十五少年』と白石実三  

前回ふれなかったが、『巌窟王』を収録した春陽堂『明治大正文学全集』8は『森田思軒 黒岩涙香篇』で、思軒のほうはジュール・ヴェルヌの『十五少年』が選ばれている。これはいうまでもなく、思軒訳を発祥として、その邦訳タイトルに使われることになる『十…

古本夜話1222 黒岩涙香『巌窟王』

黒岩涙香のことは『近代出版史探索』102、103で、『天人論』や『現今名家碁戦』などの朝報社の出版物に言及しているが、本探索1218の堺利彦『哀史梗概』に関連づけられる涙香の『巌窟王』や『噫無情』の翻訳にはふれてこなかった。 涙香は明治二十五年に『万…

古本夜話1221 大鐙閣と木蘇穀訳『血縁』

実は『労働』に続いて、大正十二年六月に大鐙閣から「ルーゴン=マッカール叢書」の木蘇穀訳『血縁』が刊行されている。これは『近代出版史探索』193でふれ、同188の吉江喬松訳『ルゴン家の人々』にあたるが、『血縁』のほうが先行しているし、拙稿「天佑閣と…

古本夜話1220 大鐙閣「ゾラ傑作集」と飯田旗軒訳『労働』

本探索1217で、堺利彦がゾラの「四福音書」のうちの『労働』を『労働問題』として翻訳し、明治三十七年に春陽堂から刊行されていることにふれた。これは大正九年に叢文閣の『労働』(「労働文芸叢書」2)としての再版が出ているけれど、『堺利彦全集』所収を…

古本夜話1219 板垣退助監修『自由党史』と五車楼

前回のヴィクトル・ユゴーのことだが、板垣退助が明治十年代に外遊し、その際にユゴーに会い、読むべき書物として彼の小説を勧められ、『レ・ミゼラブル』などの著作を持ち帰ったというエピソードを想起させる。 それは確か板垣退助監修『自由党史』(岩波文…

古本夜話1218 堺利彦訳『哀史梗概』

堺利彦の死と同年に刊行された中央公論社の『堺利彦全集』は、その短期間の準備と編集にもかかわらず、多彩な堺の仕事と業績を俯瞰するようなかたちで、見事な全集として編まれている。 編集者の荒畑寒村は「翻訳は全部を割愛し」、翻訳小説も「特に興味の深…

古本夜話1217 中央公論社『堺利彦全集』とゾラ『子孫繁昌の話』『労働問題』

前回のゾラ『肉塊』(『パリの胃袋』)の訳者が秋庭俊彦ではなく、堺利彦の売文社の関係者ではないかと推測しておいた。また実際に本探索1202の奥栄一も売文社の翻訳係だった。(『肉塊』) それに『近代出版史探索Ⅵ』1180でふれたように、堺も『木芽立』(…

古本夜話1216 秋庭俊彦訳『肉塊』と三徳社

もう一冊「ルーゴン=マッカール叢書」があるので続けてみる。それは三徳社の大正十二年の秋庭俊彦訳『肉塊』上巻で、『巴里の胃袋』の最初の翻訳といえる。ただ下巻は未見で、本探索1210の『陥落』と同様に、関東大震災に巻きこまれ、刊行されていないのかも…

古本夜話1215 世界文豪代表作全集刊行会と井上勇訳『ナナ』

今にして、われ穢れたるものなること、道 穢れたるものの一族なること露われぬ。 おお、なんじ、わが血を吸いたる三つの道よ、 なれ、隠れたる谷、樫の林よ、三つの道の狭き出口よ。 『暴君オイディプス』 これもずっと未入手だった『世界文豪代表作全集』の…

古本夜話1214 椎名其二『野へ』とヱルノス

『近代出版史探索外伝』の表紙カバー写真に一九〇六年のフランス語版『ゾラ全集』の書影を使っていることを既述しておいた。前回の榎本秋村訳『沐浴』がこの第十八巻所収の『新ニノンへのコント』だと判明したが、やはり同巻の短編集『ナイス・ミクラン』(N…

古本夜話1213 榎本秋村訳『沐浴』と『新ニノンへのコント』

天佑社のゾラの翻訳をもう一冊見つけたので、それも続けて書いておきたい。それは大正十二年七月刊行の訳『沐浴』である。天佑社の六冊目のゾラの翻訳だが、三〇六ページの短篇集ゆえか、『貴女の楽園』などの厚い四六大判と異なり、一回り小さい判型で、函…

出版状況クロニクル163(2021年11月1日~11月30日)

21年10月の書籍雑誌推定販売金額は914億円で、前年比8.7%減。 書籍は514億円で、同4.1%減。 雑誌は399億円で、同14.0%減。 雑誌の内訳は月刊誌332億円で、同13.1%減、週刊誌は67億円で、同18.2%減。 返品率は書籍が32.8%、雑誌は43.9%で、月刊誌は43.4%、週…

古本夜話1212 国民教育普及会『怖ろしき夢魔・獣人』

前回、天佑社のゾラ『貴女の楽園』の巻末広告に、やはり三上於菟吉訳『怖ろしき夢魔』『苦き歓楽』、松本泰訳『アベ・ムウレの罪』が既刊として並んでいることにふれた。また『近代出版史探索Ⅵ』1176、1179で、『怖ろしき夢魔』が『獣人』として、改造社の「…

古本夜話1211 三上於菟吉訳『貴女の楽園』、天佑社、小林政治

これも三十年ほど探していたゾラの三上於菟吉訳『貴女の楽園』を入手した。同書は『ボヌール・デ・ダム百貨店』の初訳で、大正十一年に天佑社から刊行されていたが、かつては数年に一冊しか古書市場に出ないという稀覯本で、古書価も数万円すると伝えられて…

古本夜話1210 ゾラ、渡辺俊夫訳『陥落』と日本書院

ゾラの渡辺俊夫訳『陥落』をようやく入手した。これも二十年ほど探し求めていた一冊だったが、『近代出版史探索』193で推測しておいたように、やはり「ルーゴン=マッカール叢書」第十九巻の『壊滅』に他ならなかった。『陥落』は次のように始まっている。 ラ…

古本夜話1209 中央出版社「袖珍世界文学叢書」、戸田保雄訳『ゾラ集』、中島孤島訳『生の悦び』

昭和円本時代に特価本業界も世界文学全集に類する出版を試みていて、それは中央出版社の「袖珍世界文学叢書」である。その一巻は昭和五年刊行の『ゾラ集』で、そこには『生の悦び』と『呪はれたる抱擁』の二作が収録されている。それに言及する前に、まずは…

古本夜話1208 三水社と西牧保雄訳『女優ナナ』

もう一冊『女優ナナ』がある。それは大正十五年に大谷徳之助を発行者とする日本橋区蠣殻町の三水社から刊行されている。四六判並製一九八ページの一冊で、クロージング部分はナナの死と「伯林へ、伯林へ、伯林へ!」で終わり、前々回の永井荷風の『女優ナナ…

古本夜話1207 本間久と『女優ナナ』

最近になって、前回の永井荷風訳『女優ナナ』と異なる二冊の『女優ナナ』を入手している。一冊は『近代出版史探索Ⅵ』1179でリストアップしておいたように、大正時代に入っての最初の「ルーゴン=マッカール叢書」の翻訳で、本間久訳として、大正二年に東亜堂…

古本夜話1206 新声社と永井荷風『女優ナナ』

『近代出版史探索Ⅵ』に、ゾラの「ルーゴン=マッカール叢書」の出版、翻訳、訳者に関して、十編ほど収録しておいたが、その後さらに六冊入手したので、それらも付け加えておきたい。だがその前に永井荷風『女優ナナ』の出版をめぐる一編を書いておかなければ…

古本夜話1205 加藤敬事『思言敬事』、大久保和郎、八木さわ子

みすず書房の元編集長加藤敬事の『思言敬事』(岩波書店)を読み、教えられることがあったので、それを書いてみたい。 加藤はその「出会った人々のこと」の章において、「翻訳者素描」を試み、最初に大久保和郎にふれている。大久保の名前は『近代出版史探索…

古本夜話1204 笠井鎮夫『近代日本霊異実録』『日本神異見聞伝』

前回、新潮社の「海外文学新選」のポルトガル文学の編集兼訳者として、笠井鎮夫の名前を挙げておいた。だがこの笠井には外国文学者としてのプロフィルの他に、もうひとつの側面があり、それは『日本近代文学大事典』の立項にも見えている。 笠井鎮夫 かさい…