2022-01-01から1年間の記事一覧
ここで日本へと戻る。本探索1253の日本評論社『日本プロレタリア傑作選集』に前田河広一郎の『セムガ』があったことを覚えているだろうか。 この『セムガ』は入手していないけれど、「セムガ」はタイトル作の他に「長江進出軍」「太陽の黒点」を収録した作品…
『エマ・ゴールドマン自伝』において、最も長い第52章「ロシア一九二〇-二一年」のところに、ロシアを訪れてきたヨーロッパラテン諸国共産党のグループへの言及がなされ、その中でも、フランス共産党員のボリス・スーヴァーリーヌが「最も思慮深く鋭い質問…
『エマ・ゴールドマン自伝』において、前回既述しておいたように、スペイン内戦やガルシア・オリベルとの関係はふれられていない。それはこの『自伝』がクライマックスというべき第52章「ロシア一九二〇~二一年」で実質的に閉じられているからである。彼女…
前回のインターナショナリスト田口運蔵をめぐる様々な人脈などにリンクして、拙訳『エマ・ゴールドマン自伝』を例にとり、承前的な数編を書いておきたい。 これから田口に関連する日本、アメリカ、ロシア、ドイツなどの社会主義人脈に分け入っていくつもりだ…
少し飛んでしまったが、本探索1272でふれたトロツキイ『自己暴露』の実質的な翻訳者と思しき田口運蔵に関して、『近代出版史探索Ⅱ』389のウェルズ『生命の科学』の訳者の一人としても挙げているが、荻野正博『弔詩なき終焉』(御茶の水書房、昭和五十八年)…
『日本アナキズム運動人名事典』は「まえがき」などで明言されていないけれど、『近代日本社会運動史人物大事典』におけるアナキスト人名選択と立項の不足不備の問題を発端として、企画編纂へと至っている。 それもあって、前回の若山健治の立項もあるわけだ…
22年5月の書籍雑誌推定販売金額は734億円で、前年比5.3%減。 書籍は407億円で、同3.1%減。 雑誌は327億円で、同7.9%減。 雑誌の内訳は月刊誌が268億円で、同7.4%減、週刊誌は58億円で、同10.2%減。 返品率は書籍が38.8%、雑誌は45.4%で、月刊誌は45.8%、週刊…
本探索1283で聚英閣のチェネェ『劇場革命』を取り上げたが、この版元に関しては同1236のタイトルで示しているように、聚英閣と並べて言及してきたこともあり、ここでやはり聚英閣のほうにもふれておこう。 それはこの出版社も左翼文献と無縁であるどころか、…
左翼文献は『近代出版史探索Ⅵ』1141の『大日本思想全集』の先進社からも刊行され、入手しているのは昭和六年のカール・カウツキー、小池四郎訳『五ヶ年計画立往生』で、サブタイトルは「サウィエート・ロシアの革命的実験は成功したか?」とある。(『大日本…
本探索1279で、プロレタリア文学や社会運動の隆盛に伴う多種多様な左翼文献の翻訳出版を指摘しておいた。それは『近代出版史探索Ⅱ』213に典型的な左翼系小出版社だけでなく、大手出版社にも及んでいて、時代のトレンドとして売れ行きもよかったのである。 そ…
前回日本プロレタリア演劇同盟(略称プロット)発行の機関誌『プロレタリア演劇』を挙げておいたが、残念ながらこの雑誌は復刻されていない。それでも『日本近代文学大事典』第五巻「新聞・雑誌」には三段に及ぶ解題があり、昭和五年に創刊、六年に『プロッ…
もう一冊、近代文学館の「複刻 日本の雑誌」(講談社)にプロレタリア関係がある。それは『プロレタリア文化』で、これも『日本近代文学大事典』第五巻「新聞・雑誌」に解題が見出せる。その解題を繰ってみると、その前後に思いがけずにプロレタリアがタイト…
やはり前回の典昭堂で、平凡社の「囲碁大衆講座」第九輯を見つけた。これも昭和六年の出版で、前回の『世界裸体美術全集』と併走するように刊行されていたのである。平凡社の 拙稿「平凡社と円本時代」(『古本探究』)所収)では実用的な講座物と見なし、円…
前回、ハウゼンスタイン『芸術と唯物史観』は原著の内容とタイトルから考えれば、『芸術と裸体』としたほうがふさわしいのではないかと述べておいた。 (『芸術と唯物史観』) ところが『芸術と唯物史観』との関連は不明だが、昭和六年になって平凡社から『…
本探索でプロレタリア文学や社会運動の隆盛に伴う、いくつものリトルマガジンの創刊をみてきたが、それらは多くが従来の出版社によるものではない。そのことは翻訳に関しても同様であり、想像する以上に多種多様な訳書が刊行されたと思われる、そうした典型…
昭和に入ってのプロレタリア文学全盛の時代にはそれらの分野に類する多くの文献が刊行されていたはずで、野々宮三夫『世界プロレタリア年表』も、その一冊に挙げられるだろう。同書は菊判函入、上製一九四ページとして、昭和七年に希望閣から出されている。 …
前回の改造社『社会科学』創刊号は浜松の典昭堂で見つけたものだが、そこには岩波書店の『思想』創刊号もあり、ともに入手してきたのである。創刊号こそ前者が大正十四年、後者が同十年と異なるものの、判型、表紙レイアウトもほぼ同じで、創刊定価のほうも…
手元に大正十四年六月と日付入りの『社会科学』創刊号があって、これは前々回の『我等』と異なり、近代文学館の「複刻日本の雑誌」の一冊ではなく、実物を入手している。(『社会科学』) (『我等』創刊号) この『社会科学』は『日本近代文学大事典』第五巻…
22年4月の書籍雑誌推定販売金額は992億円で、前年比7.5%減。 書籍は547億円で、同5.9%減。 雑誌は445億円で、同9.5%減。 雑誌の内訳は月刊誌が382億円で、同9.0%減、週刊誌は63億円で、同12.2%減。 返品率は書籍が28.5%、雑誌は40.2%で、月刊誌は39.3%、週刊…
前回、大正時代における雑誌の『社会思想』『我等』『批判』という系譜にふれた。このうちの『我等』は『日本近代文学大事典』第五巻に一ページ近い解題があるので、要約してみる。 (『我等』創刊号) 総合雑誌『我等』は大正八年に創刊され、昭和五年は『社…
本探索1270で、葉山嘉樹の『海に生くる人々』が堺利彦と青野季吉を通じて、改造社の山本実彦のところに持ちこまれていたことを記述しておいた。改造社は大正八年の『改造』の創刊、翌年には賀川豊彦の『死線を越えて』のベストセラー化、同十五年は『現代日…
これは戦後に飛んでしまうのだが、やはり青野季吉絡みなので、ここで続けてふれておくことにしよう。 最近論創社から野田映史編の追悼集『別役実の風景』が刊行され、恵送された。別役たちが早稲田小劇場を立ち上げる前に属していた劇団自由舞台の昭和四十年…
青野季吉『文学五十年』には出てこないけれど、彼の訳として、トロツキイ『自己暴露』がある。これは「わが生活(Ⅰ)」というサブタイトルを付し、昭和五年にアルスから刊行されている。おそらく続刊と同工の函はいかにも当時のプロレタリア文学出版物を彷彿…
前回、葉山嘉樹の「淫売婦」などが『文芸戦線』に発表されたのは青野季吉を通じてだったことを既述しておいた。これには少しばかり補足も必要なので、もう一編書いてみる。 まずは『文芸戦線』だが、これはその半分ほどが近代文学館により復刻されている。し…
本探索1255の小林多喜二の『蟹工船』の成立にあたって、葉山嘉樹の『海に生くる人々』が大きな影響を与えたことは近代文学史においてよく知られていよう。この日本プロレタリア文学の記念碑とされる『海に生くる人々』は大正十五年に改造社から刊行され、例…
前回の奢灞都館の「アール・デコ文学双書」のラインナップを見ていて思い出されたのは、スタア社の『亜米利加作家撰集』のことである。これは昭和十五年刊行の並製三四五ページの一冊で、ヘミングウエイの「五萬弗」が収録されていたことから、『明治・大正…
前回の松谷与二郎『思想犯罪篇』の巻末広告にエリナア・グリーン、松本恵子訳『イツト』が見出された。そこには「世界的流行の尖端イツトの原本! クララ・ボウによつて全世界にふりまかれたイツト イツトとは? 人生の大問題たる性関係、性心理、性道徳を一…
前々回の天人社に関して、もう一編続けてみる。この版元に関しては拙稿「小田律と天人社」(『古本探究Ⅲ』所収)で、ヘミングウェイ、小田律訳『武器よ・さらば』の初訳などに言及し、不完全ながら『現代暴露文学選集』や「新芸術論システム」の内容を紹介し…
前回に下村千秋に言及したこともあり、ここで牧野信一にもふれておきたい。牧野は下村や浅原六朗と異なり、『現代暴露文学選集』には名前を連ねていないけれど、彼らは大正八年創刊の同人誌『十三人』の中心メンバーだった。しかも下村や牧野ほどではないけ…
前回、天人社の『現代暴露文学選集』をプロレタリア文学シリーズのひとつとして挙げたが、これはすでに『近代出版史探索Ⅱ』394で取り上げていることを思い出した。 そこで言及したのはその一冊の中本たか子『朝の無礼』で、彼女がプロレタリア文学者にして蔵…