出版・読書メモランダム

出版と近代出版文化史をめぐるブログ

2020-01-01から1年間の記事一覧

古本夜話1074 「有朋堂文庫」、魯山人、岡本かの子「食魔」

前回の『骨董集・燕石雑志・用捨箱』を取り上げるに当たって、「有朋堂文庫」は、同じく昭和円本時代に刊行された興文社の類似企画『日本名著全集』と比べ、入手した巻が少ないと思っていた。だが実際は逆で、古本屋で一冊ずつ拾っているうちに、いつの間に…

古本夜話1073 「有朋堂文庫」と『骨董集・燕石雑志・用捨箱』』

前回の 喜多村信節『嬉遊笑覧』が山東京伝『骨董集』や柳亭種彦『用捨箱』と通底していることを既述しておいたが、この両書が同じ一冊に収録され、昭和円本時代に刊行されている。それは「有朋堂文庫」シリーズで、『骨董集・燕石雑志・用捨箱』としての出版…

出版状況クロニクル149(2020年9月1日~9月30日)

20年8月の書籍雑誌推定販売金額は840億円で、前年比1.1%減。 書籍は433億円で、同4.6%増。 雑誌は40億円で、同6.5%減。 その内訳は月刊誌が335億円で、同6.8%減、週刊誌は71億円で、同5.1%減。 返品率は書籍が37.2%、雑誌は40.1%で、月刊誌は39.9%、週刊誌は…

古本夜話1072 喜多村信節『嬉遊笑覧』と近藤出版部

喜田川守貞の『近世風俗志』に関して、続けて三回書いてきたので、ここでそれと同時代の、やはり百科全書的な風俗考証の書である喜多村信節の『嬉遊笑覧』にもふれておくべきだろう。喜多村は江戸後期の市井の国学者で、その随筆集成は山東京伝の『骨董集』…

古本夜話1071 東京出版同志会と『類聚近世風俗志』

前回書いたように、『類聚近世風俗志』の東京出版同志会版を入手しなければならないので、「日本の古本屋」を検索してみた。すると、東京の文生書院に一冊だけ在庫があり、幸いにして購入できた。しかもそれは『近代出版史探索Ⅲ』545の田中貢太郎の旧蔵書で…

古本夜話1070 幸田成友と『守貞謾稿』

国学院大学出版部から刊行された『類聚近世風俗志』に対して、編者の室松岩雄が「序」で挙げていた「学会若しこれによって其の闕を補ひ、其の漏を充すことを得ば、吾人の幸又何ぞこれに過ぐるものあらん」との思いは通じたのであろうか。 (『類聚近世風俗志…

古本夜話1069 室松岩雄、国学院大学出版部、喜田川季荘『類聚近世風俗志』

前回既述したように、 久保田彦作『鳥追阿松海上新話』を読むに際し、前田愛の「注釈」を参照している。それで気づいたのだが、その主要な部分は多くが喜田川季荘の『近世風俗志』、別名『守貞漫稿』を出典とするもので、前田はそのタイトルとして、後者を挙…

古本夜話1068 久保田彦作『鳥追阿松海上新話』と錦栄堂

野崎左文は「草双紙と明治初期の新聞小説」(『増補私の見た明治文壇』所収)において、前回の『高橋阿伝夜刃譚』のような明治式草双紙の出現は新聞連載の「続き物」を単行本化したのが始まりで、明治十年以後流行し、書肆の店頭をにぎわすことになったと述…

古本夜話1067 仮名垣魯文『高橋阿伝夜刃譚』、辻文、金松堂

東洋文庫の野崎左文『増補私の見た明治文壇』二分冊には、仮名垣魯文の追善集『仮名反古』(明治三十年)も収録され、そこには「西洋道中膝栗毛の末に一言す」「明治年間に於ける著述家の面影」「『高橋阿伝夜刃譚』と魯文翁」などの魯文追悼録、及びそれに関…

古本夜話1066 野崎左文『私の見た明治文壇』

三回続けて、斎藤昌三、高木文、蛯原八郎の明治文学書誌学の礎石をたどってきたが、それらの原型、もしくは最も影響を与えた資料として、昭和二年に春陽堂から刊行された野崎左文の『私の見た明治文壇』が挙げられるであろう。残念ながら春陽堂版は未見であ…

古本夜話1065 蛯原八郎『明治文学雑記』

大正から昭和時代にかけての近代出版業界の成長、及び近代文学とその出版の隆盛を背景とし、大正八年に東京古書組合が発足する。それとパラレルに高木文や斎藤昌三といった近代書誌学の礎石となった人たちが出現してくる。そして当然のことながら、彼らの衣…

古本夜話1064 高木文編著『続明治全小説戯曲大観』

前回の斎藤昌三編纂『現代日本文学大年表』は先行する範があり、その「例言」で次のように述べている 。 この種の徒労的な仕事は、自分が最初ではない。曩には先輩高木文氏の『明治全小説戯曲大観』があるが、その量に於て数倍の差があるのみで、自分の体験…

古本夜話1063 斎藤昌三『現代日本文学大年表』

すでに四半世紀前になってしまうのだが、あらためて近代文学史と出版史の関係をトレースしなければならないと考え、その最も重要な資・史料として、『現代日本文学全集』の別巻『現代日本文学大年表―(附)社会略年表』を常に座右に置いていたことがあった。…

出版状況クロニクル148(2020年8月1日~8月31日)

20年7月の書籍雑誌推定販売金額は929億円で、前年比2.8%減。 書籍は447億円で、同7.0%減。 雑誌は481億円で、同1.4%増。 その内訳は月刊誌が405億円で、同5.7%増、週刊誌は76億円で、同16.5%減。 返品率は書籍が40.2%、雑誌は37.5%で、月刊誌は36.6%、週刊誌…

古本夜話1062 改造社『現代日本文学全集』

前回、円本の嚆矢である改造社『現代日本文学全集』にふれ、その第五十編が『新興文学集』であることを既述しておいた。それであらためて気づいたのだが、本連載の目的のひとつは三百数十種に及ぶとされる円本への言及に他ならないにもかかわらず、これまで…

古本夜話1061 『新選名作集』と『新選前田河広一郎集』

昭和時代に入ってからの新潮社のいくつかの文学全集を見てきたが、ライバル視されていた改造社のほうはどうだったのだろうか。ただ新潮社と異なり、改造社は社史も全出版目録も刊行していないので、これまでそれらをたどってこなかった。だが最近になって、…

古本夜話1060 新潮社『日本文学大辞典』

改造社の『現代日本文学全集』に先駆けされた新潮社の雪辱戦は、『現代長篇小説全集』や『昭和長篇小説全集』によって果たされたわけではなく、その文芸書出版の面子をかけた起死回生といっていい企画は、昭和七年の『日本文学大辞典』だったと思われる。『…

古本夜話1059 子母澤寛『突つかけ侍』

前回の『昭和長篇小説全集』の14が子母澤寛の『突つかけ侍』であることを示しておいた。これは『新潮社四十年』が述べているように『現代長篇小説全集』と異なり、「この方は、時代物の大衆小説も加へた」ことによっている。それは明らかに平凡社の『現代大…

古本夜話1058 新潮社『昭和長篇小説全集』と三上於菟吉『街の暴風』

続けて前々回挙げた『昭和長篇小説全集』も取り上げておこう。まずそのラインナップを示す。 1 菊池寛 『日像月像』 2 白井喬二 『伊達事変』 3 三上於菟吉 『街の暴風』 4 吉川英治 『松のや露八』 5 久米正雄 『男の掟』 6 中村武羅夫 『薔薇色の道』 7 吉…

古本夜話1057 「泰西名著文庫」と高橋五郎訳『プルターク英雄伝』

もう一編、前回の佐藤紅緑『愛の順礼』に関連して続けてみたい。それはこれも前回既述しておいたように、予約出版の円本の範となった国民文庫刊行会と鶴田久作が結びついているからでもある。 『愛の順礼』の主人公浦田六郎は父の再婚の失敗による実家の没落…

古本夜話1056 新潮社『現代長篇小説全集』と佐藤紅緑『愛の順礼』

本連載1053の新潮社の『現代小説全集』はそれだけで終わったのではなく、昭和円本時代へと確実に継承され、昭和三年の『現代長篇小説全集』全二十四巻へと結実していったと思われる。 (『現代小説全集』) (『現代長篇小説全集』第二巻) 昭和円本時代…

古本夜話1055 生田春月『相寄る魂』

本連載1050などの生田春月『相寄る魂』全三巻はもはや単行本も入手できないし、読者もいないと思われる。『新潮社四十年』で確認してみると、大正十年に前巻と中巻、十三年に下巻が出されている。『相寄る魂』は大正十年から十二年にかけて書かれた二千…

古本夜話1054 生田花世と横瀬夜雨編『明治初年の世相』

横瀬夜雨は中村武羅夫の『明治大正の文学者』には出てこないけれど、『現代詩人全集』では『河井醉茗集・横瀬夜雨集・伊良子清白集』として一冊が編まれている。また戸田房子の『詩人の妻 生田花世』において、夜雨は花世の詩作の師として登場している。 『…

古本夜話1053 新潮社『現代小説全集』

あらためて『新潮社四十年』や『新潮社七十年』に目を通していると、双方において、大正十四年四月から刊行の『現代小説全集』 に関する注視に気づいた。この全集に対して、これまで目を向けていなかったのは何よりも実物を入手していなかったことに尽きるの…

出版状況クロニクル147(2020年7月1日~7月31日)

20年6月の書籍雑誌推定販売金額は969億円で、前年比7.4%増。 書籍は489億円で、同9.3%増。 雑誌は480億円で、同5.5%増。 その内訳は月刊誌が395億円で、同5.7%増、週刊誌は84億円で、同4.6%増。 返品率は書籍が37.6%、雑誌は37.7%で、月刊誌は37.4%、週刊誌…

古本夜話1052 詩話会と新潮社『現代詩人全集』

生田春月の遺稿詩集『象徴の烏賊』は昭和五年六月に第一書房から刊行され、『日本近代文学大事典』には書影とともに、「懊悩する春月を知る代表的詩集」として、この一冊だけが立項されている。これは前回の『生田春月全集』第一巻にも収録があり、確かに処…

古本夜話1051 新潮社と『生田春月全集』

昭和五年十二月に新潮社から『生田春月全集』全十巻の刊行が始まった。『新潮社四十年』は「新潮社出版年史」において、「その思想的煩悶の為めに昭和五年五月海に投じて死するに際し、書を遺して、全集出版の事を託された。即ち『生田春月全集』全十巻を刊…

古本夜話1050 生田春月『真実に生きる悩み』

生田春月の感想集『真実に生きる悩み』が手元にある。これは小B6判、並製三一五ページ、大正十二年初版発行、十三年十一版の一冊で、新潮社から出されている。 その巻末広告を見ると、春月の「文壇嘱目の中心となれる一大長篇小説」として、二千有余枚の『相…

古本夜話1049 中村武羅夫『明治大正の文学者』と生田春月

中村武羅夫のことは『近代出版史探索』178などで、また春山行夫との関係については本連載1027などでも言及してきたけれど、楢崎勤の慫慂によって昭和十七、十八年の二年間『新潮』に連載し、戦後に単行本化された中村の一冊がある。それは昭和二十四年に…

古本夜話1048 柳亮『あの巴里この巴里』

前回、柳亮が ALBUM SURRÉALISTE の訳者の一人で、『追想大下正男』の「『みづゑ』編集の時代」の執筆者だったことにふれてきた。 どのような経緯があってなのかは不明だが、柳は『日本近代文学大事典』に立項が見える。それによれば、明治三十六年名古屋生…